第二部③モルデール防衛のはじまり

第27話『ブラックの進軍と、大魔法使いアリステロス大作戦』 

 景男にだまされた『漆黒騎士団』ブラック団長は、ダークス卿の「進軍を急げ!」の報を受け、国境の渓谷シャドウリーフへ軍を進めた。


 渓谷シャドウリーフの入り口にはヴァルダー率いる『幻影騎士団』が待ち構えていた。


 ブラックは、ヴァルダーに、「ダークス卿の命を帯びた我らの前に立ちはだかるとはヴァルダーどう言うつもりだ」とみついた。


 ヴァルダーは、「がはは~! ワシはダークス卿、直々じきじきにシリアス様に付けられた傅役もりやく、ヴァルガーデンよりもシリアス様に忠誠ちゅうせいちかっておる。ブラック、ワシは言わば遊軍ゆうぐんお前の言葉にはしたがわん好きにさせてもらうわ」


 ブラックは、藪睨やぶにらみの豚鼻ぶたばなふくらまし、これまで汚れ仕事でのし上がってきた。ヴァルダーのような武勇と忠誠心のたたき上げの武人とは性格が真逆だ。ブラックは、ダークスの次兄を金と地位で釣られて王子殺しまでする男だ。ヴァルダーの考えも及ばないことを言い出した。


「ヴァルダー、お主の奥方おくがたセリーナ様は息災そくさいかな? うわさでは、ダークス卿直属の『黄金おうごん騎士団』の子息しそくカリスタン様の元でお暮らしとのこと、ハープの腕が評判らしいな、ぜひ一度、直接、音色を一聞いて見たいが、最近は、原因げんいん不明ふめいの病が流行っている。せっておられなければよいのだが……」


 ヴァルダーは、眉を寄せて、「ブラック、何がいいたい!」と、眉を寄せた。


 ブラックは、悪びれもせず、「私は、ただヴァルダー殿の奥方の健康が気になっただけだ」


 ヴァルダーは、ブラックを睨んで、「ブラック、ワシをおどす気か?」


 ブラックは、薄笑うすわらいを浮かべて、「いえ、私は、これからも奥方の健やかな暮らしと、御子息のトリスタン・ヴァルダー殿のお役目に問題が発生せねば良いと思っているだけだ」


 ヴァルダーは、傷のある眉をさすって、「それだけか?」


 ブラックは、しれっと話を足す。


「出来たら、我ら『漆黒騎士団』がココを通行することを見逃してもらえないかと思いましてな」


 ヴァルダーは、大きな鼻息はないきを吹き出して、「卑怯者め!」とペッとつばを吐き捨て馬首ばくびを返して道を開けた。


 ブラックは、悪名で通っている。清廉せいれんな武勇の士ヴァルダーに嫌われるのは逆に名誉めいよにも感じる。それが、自分の生き方、務めであると言う自負じふもある。


「ありがとう。賢明なヴァルダー殿、感謝する」


 と、ブラックは『漆黒騎士団』を率いて、ヴァルダーの目前を無傷むきず通過つうかした。


 ヴァルダーは、『漆黒騎士団』を見送ると団員に命じて、シリアスに使いツバメを飛ばした。




 ヒュールリー! ヒュールリーララ―!


 アイアンウルフ峠の関所に、ヴァルダーの使いツバメが飛んできた。


 ツバメは、罠の敷設ふせつ工程こうていを見守るシリアスの腕にとまった。ツバメの足についた文を開いたシリアスは、関所の見張り台から下りて、詰所つめしょへ入って、昼めしを食らう『モルデール騎士団』の騎士団長のマックスに、「ヴァルダーが突破された」と文を突き出した。


 マックスは、驚いて文を受け取ると、さっと目を通し、サンチョをはさんで景男と不自然な会話するアムに、慌てて報告に上がった。


「アム様、予定より早く、ヴァルダー殿の『幻影騎士団』が突破されたとのことです」


 アムは、キッとシリアスを睨んで、「任せておけ! と、あれほど啖呵たんかを切っておいて、アイアンウルフのわな敷設ふせつ時間じかんかせぎもできないなんて、まったく!」と聞こえるように不満をもらす。


 シリアスは、フンッと顔をそむけて、「私は『漆黒騎士団』の進軍を見張り台で見張るから失礼させてもらう」と、足早に見張り台に出て行った。


 アムはプンとふくれて、「まったく、役立たずじゃない。なにが未来のモルデールの領主よ。聞いてあきれるわ、それよりポジラー様『漆黒騎士団』どう迎え撃ちますか」と伝言ゲームでサンチョに伝える。


 サンチョは、手錠を引っ張って、「ポジラー様、何か考えるだ」と命令する。


 景男は、胡坐あぐらをかいて、座禅ざぜんを組み、思案する。


 ……5分。


 ……10分。


 ……15分。


 サンチョがしびれを切らして、景男の脳天のうてん拳骨げんこつを食らわせる。


「また、ポジラー様は、何も考えてなかっただ。オラでも5分あれば、飯を食い終わるのにまったく困ったお方だ」


 ピヨピヨピッピ!


 サンチョの拳骨げんこつで、景男の頭の上にヒヨコが3羽回った。


「閃いた!」


 景男が、呟いた。


 アムが、好奇の眼差まなざしで景男の継いで出る言葉に身を乗り出す。


「ポジラー様、どのような迎撃げいげき作戦さくせんなのですか?」


 景男は、黙ってアムの顔を見つめる。


 アムは、景男の次の言葉に期待を膨らます。


 景男は、心中で、(アムちゃんって、見れば見るほど涼宮未来ちゃんにそっくりなんだよな、怒ったときの電流さえなけりゃ楽しい異世界いせかいライフなのに……)と、迎撃作戦は閃かず、下心したごころを見せている。


 手錠でつながるサンチョが、景男の下心を感じ取ったのか、「ゴリッ! ゴリッ!」と拳をならして2発目の拳骨を準備する。


 景男は慌てて、我に返り、「ここは、だい魔法まほう使いアリステロス様の出番です」と迎撃作戦を丸投げしようと口から出まかせを言う。


 景男の言葉に、アムが顎に手をやり思案顔をみせる。


「……確かに、いかずちが通じない『漆黒騎士団』に私では役不足。軽装けいそうの『モルデール騎士団』だけでも不安がある。やはり、タンクホルム山のまもびとアリステロスは召喚しょうかんした方がいいかもしれないわね。マックス、すぐにモルデールへ使いハヤブサを飛ばして!」


「ハッ! アム様!」


 マックスは、すぐに詰め所を出て、使いハヤブサを飛ばす。


 アムが、景男にたずねる。


「ポジラー様、アリステロスを召喚して、『漆黒騎士団』をどのように撃いたします」


 景男は、また考えるフリをしようとするが、すかさずサンチョが拳をならす。


「閃いた! 作戦名は『大魔法使いアリステロス大作戦!』内容は、アリステロスさんが来てから直接伝えるから、それまでは、マックスさんと『モルデール騎士団』のみんなで時間を稼ごう!」



 つづく










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