第二部②ポジラーの計画

第24話『アイアンウルフ峠の防衛線』


 アイアンウルフ峠の関所に、アムと騎士団長マックスと『モルデール騎士団』・シリアスの『幻影騎士団』計60人ほどが集い。景男の計画を実行に移した。


 モルデールの町では、アリステロスが住民を指揮し、各家庭で余ったツつぼを集めそこに火薬を詰め、魔法のコーティングをかけ、アムの電流にだけ反応し爆発する仕掛けを壺を作り、急ピッチでアイアンウルフ峠へ運び込む。


 モルデール騎士団は、アイアンウルフ峠に地雷壺じらいつぼ設置せっちのための穴を掘り始めた。


 国境付近、渓谷シャドウリーフの出口には、ヴァルダー率いる『幻影騎士団』が配置はいちされ、ブラックがいつ『漆黒騎士団』を進軍してきても、盾となれるように防衛ぼうえいの陣を敷いた。



「ほれ、ポジラー様、さっさと働け! そんなへっぴり腰じゃ明日になっても仕事が終われねぇーだ」


 景男とサンチョも穴掘りに駆り出されている。


 サンチョは、自分と景男が手錠てじょうつながっているのも意にかけず、自分のにぎったくわを振るって穴をる。もちろん、景男は、右に左に振られ、時には宙吊ちゅうづりになり、あっちにこっちに振り回されている。



 景男がらず、「サンチョさん、オレとあなたは手錠で繋がれてるんだから、もう少し、オレがどうなるかも考えてよ!」と文句を言う。


 サンチョは、首を横に振って、「やんだーあ。オラ、兄ちゃんにしっかり穴掘りをしろと命じられただ。オラはおっとりだけんど、仕事に妥協だきょうはしねぇーだ。兄ちゃんの言いつけは絶対だ!」と言い張って、景男を気にせず力任ちからまかせに振り回す。


「あ~れ~、あれれれ~」


 景男が、サンチョの生真面目きまじめさにもてあそばれるのを見かけた二階建ての西洋せいよう城壁じょうへきつくりの関所の上でアムが、口を尖らせて、隣にいたマックスに不満を(の)述べる。そこから少し離れてシリアスが腕組みして、罠の進行しんこう具合ぐあいに目を光らせている。


「マックス!」


 ビリッ!


 マックスに微量びりょうの電流が流れた。


「はい、アム様、何でございましょうか」


 と、背筋を正す。


「マックス、どうしてポジラー様は、サンチョと手錠で繋がれているの?」


「アレは、サンチョの機転きてんといますか、おっとり者なりに考えた結果と申しますか……」


 返事へんじきゅうする。


 ビリリッ!


「マックス、私がここにいるのに、手錠はどうして外さないのかを聞いているの?」


 マックスは、困ったように頭を掻いて、「サンチョは生真面目なやつなのですが、いくぶんおっとりが過ぎるところがありまして、カギを……」と言葉をにごす。


「カギはどうしたの?」


 マックスは困った顔をして、谷底たにぞこ視線しせんを投げる。


「私が、サンチョに、ポジラー様を見つけたら二度と離れるな! と命じたばっかりにおっとり者が素直に考えた末、カギは谷底に投げ捨てたようにございます」


 ビリリッ! ビリリッ!


「マックス、合カギはないの?」


 マックスは、頭を掻く。


「アリステロス様が、こちらへ来て、キーリスの魔法で開錠かいじょうされるまであのままです」


 ビリリリリリッ!


「マックス! いいからサンチョに言ってポジラー様とこちらに来るように命じなさい!」


 アムに命じられて仕方なく、真面目に穴を掘るサンチョの元へマックスが向かった。


 マックスが去ると、アムにシリアスが近づいて、「アム姫、姫を置いて逃げ出すような男、ポジラーのどこがいいのです? あんな無責任な男より、勇敢ゆかん正真正銘しょうしんしょうめい貴公子きこうしである私の方がよほどいいはず!」と胸につかえた疑問を投げかけた。


 アムは、シリアスに顔を近づけて、「そういうところ、べー!」としたを出して階段かいだんを下りてった。





「サンチョ、手を止めてついてこい!」


 マックスは、峠に降りて行って、穴を掘るサンチョに騎士団長として命じた。


 サンチョは、当然のごとく、首を横に振り、「やんだ、兄ちゃんは、さっき、穴を掘るように命じただ。まだ、『モルデール騎士団』の仲間も協力して穴を掘ってるだ一人だけ手を止めることはオラにはできねぇーだ」


 おっとりサンチョは、兄の言うことをよく聞くが、一度命じた命令は達成たっせいするまで生真面目にやりげるのが難点なんてんだ。しかし、マックスは、この扱いにくいおっとり者の兄だ。彼の扱い方は心得こころえている。


「よし、みんな一旦いったん、手を休めて昼飯ひるめしにしよう」


 サンチョは、満面まんめん微笑えみを浮かべて、「昼飯の時間だべか、それなら、話は別だ。すぐに腹いっぺー食うぞ!」あっちへこっちへ振り回されて、船酔ふなよいのように青い顔した景男を担いで関所に引き上げて行った。




 渓谷シャドウリーフ、ラストウッド村のブラックのやかたで、いつでも出陣できるように武装した士気あがる『漆黒騎士団』を抑えつつ、景男が口から出まかせで開戦の時を見定めるシリアスの命令を待つブラックが、腕を組み使いツバメはまだかと、右に行ったり左に行ったりウロウロと落ち着かない。


 すると、使いツバメが東ヴァルガーデンから飛んできた。


 ブラックのたたずむ小窓に止まると、団員がツバメの足に括りつけられて文をほどいてブラックに渡した。


 文を一目見たブラックは、目を見開いて、文を握りつぶした。


「私は、あの道化者どうけものの口車にまんまとめられた。ダークス卿は、「なにをグズグズしておる! モルデールをシリアス様もろともに討ち果たせとのご伝言だ。皆の者すぐに出陣だ」




 つづく


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