第25話『作戦会議:ポジラーの電撃作戦!』

「相性の悪い『漆黒騎士団』とどう戦うか、早く決めねば、アイアンウルフ峠の関所に、こちらが防備を整えるよりも早く到着してしまいます」


 モルデールの屋敷で、騎士団長のマックスが叫んだ。


 向かいに座る『幻影騎士団』団長のヴァルダーが、若いマックスを鼻であざ笑うように、「『モルガーデン騎士団』の騎士団長は、このような若造わかぞうが務めておるから軟弱なんじゃく物言ものいいをする。ブラックの『漆黒騎士団』がいくら束になってこようとも、このヴァルダーが一人いれば跳ね返してくれるわ」


 慎重しんちょうなアリステロスが、「確かに、ヴァルダー殿の武勇ぶゆうがあれば、『漆黒騎士団』は跳ね返すことは可能でしょう。しかし、相手はヴァルガーデン、ダークス卿がその気になれば、残る3つの騎士団を投入して来るとも限らない。そうなれば、いくらヴァルダー殿の武勇をもってしても厳しいのではあるまいか?」


「ふんっ! 他のヴァルガーデン騎士団が束になってかかってこようとも、このヴァルダーの前では物の数ではないわ」


 と、ヴァルダーが啖呵たんかを切る。


 アリステロスは、片眉かたまゆ上げて、ヴァルダーに尋ねた。


「残る3つの騎士団はヴァルダー殿の武勇で跳ね返しても、ダークス卿が自己みずから出陣されたらどうされるのです。卿、直属ちょくぞくの『黄金おうごん騎士団きしだん』を率いる『王のやり』と仇名あだなされるトリスタン・ヴァルダー殿は、ヴァルダー殿。いや、ガーロン殿あなたの御子息ごしそくなのではありますまいか」


 すると、ヴァルダーは、腕を組んで横を向いた。


「トリスタンには、まだ、負けんが、確かにあやつはちと厄介やっかいだのう」


 シリアスが、切れ長の一重をアムに向け、「アリステロスは殿の申す通り、『漆黒騎士団』を跳ね返しても、大国ヴァルガーデンはさらなる新手あらてを繰り出してくるのは間違いない。それが、父だ。ならば、こちらも子供のように指をくわえて、守るのも面白くない。なにか、さくこうじてはいかがか?」


「策かおもしろい。シリアス様、なにか妙案をお持ちか?」とアリステロスが顎髭あごひげをたくりながら見つめる。


 すると、シリアスは、視線をらして、「妙案みょうあんがあるわけではないが、策は必要だと申しておる!」


 アリステロスは眉をしかめて、「妙案もないのに策を提案なされたのか、それならば、ここを逃げ出したポジラーと変わらぬではありませぬか」


「なんだと!」


 ヴァルダーが、主を馬鹿ばかにされ立ち上がる。


「はっ! ポジラー様なら……」


 黙って聞いていたアムが立ち上がった。


「マックス、ポジラー様の行くどうなりましたか!」


 マックスは、「はっ! 後を追わせたサンチョのしらせでは、先程、ポジラー様と二度と離れないと、使いハヤブサを寄こしてまいりました」と控えて言った。


「ポジラー様は、どこにおるのだ?」


「アイアンウルフ峠の関所にて、サンチョがおそらく引き止めておると思われます」


「よし、そこなら好都合だ。アリステロス、すぐに魔法で、アイアンウルフ峠の関所にいるポジラー様とこちらをつなぐのじゃ」


 アムに命じられたアリステロスはローブから小枝を取り出して、空間に円を描き「ミスティック・ウインドー」と魔法をとなえた。


 すると、空間に、テレビ画面のような景男とサンチョが映された。


 マックスが、「サンチョ! サンチョ、こっちだ聞こえるか?」と声をかけた。




 アイアンウルフ峠の関所にいる手錠でつながった景男とサンチョは、空間からマックスの声する方向に顔を向けると、テレビ画面のようなハルデン屋敷の会議をする広間が映った。


 おっとりサンチョは、「ミスティック・ウインドー」の中継ちゅうけい魔法まほうを興味深そうに、「あんで、あんちゃんに、アリステロス様に、アム様まで、小さくなられちまっただか?」顔を画面いっぱいに近づける。


 マックスが慌てて、「サンチョ、これはアリステロス様の魔法だ。細かい説明は今度してやるから、ポジラー様に変われ」


 サンチョは、「チャリン!」と腕の手錠てじょうを引き寄せて言った。


「ポジラー様、兄ちゃんたちが用があるって言ってるだ。ほれ、早く!」


 サンチョが腕を強く引くと、景男がオデコの生え際をきながら現れた。




「ポジラー様! ご無事でしたか?」


 アムが心配の声をあげる。


 画面の景男は、「よっ!」厳禁げんきんさとは裏腹うらはらに軽く手を上げて挨拶あいさつする。


 これにはハルデン屋敷にいるアム以外の者がみな、眉をしかめた。


 景男を心配するアムの様子を見たシリアスが「チッ!」と横を向く。


 それを見たヴァルダーが、「ゴホンッ!」とアリステロスに向かってせきをする。


 アリステロスは景男を見定めて、「ポジラー、ハルデン屋敷を勝手に抜け出しましたな!」と小言を言いつのろうとする。


 アムが、腕を伸ばして、アリステロスの言葉を止めて、「今は、そのようなことを言ってる場合じゃありません。ポジラー様、私たちはシリアス様の祖国そこくヴァルガーデンに攻められております。攻め込まれる前に何か策を準備しようと思うのですが、私たちでは良い策が思いつきません。ポジラー様、お知恵ちえしてください」


 アムから逃げた手前、景男は「知恵がない」とは言い出せない。その場にドカンと胡坐あぐらをかいて腕を組んで目をつぶった。


 ……5分。


 ……10分。


 ……15分。


 アムを始め屋敷の者が見守る中、景男は深謀しんぼう遠慮えんりょ、アニメで見た銀河の大戦争を背景にしたSFアニメの知将ユン・リーウェンの真似をしてあごに手をやったり、頭を掻いたり、立ち上がって歩いて見たり、アリステロスの魔法が切れるまで考えているフリをした。


 すると、サンチョが、手錠ごと腕を引っ張って、「おい、ポジラー様、いつまで考えるフリをしているだ。アム様が頭を下げて頼んでいるだ。ちゃんと考えねーか!」


 と、マックスがいつもサンチョにするように、景男の脳天のうてん拳骨げんこつを食らわせた。


 ピヨピヨ……ピッ! ピッ!


 景男の頭の上にヒヨコが飛んでグルグル回っている。


「はっ! 閃いた! アイアンウルフ峠の関所の入り口から、間隔かんかくを開けて、アムちゃんの電流で起動きどうする普段ふだんは安全な地雷じらいめて置き、ヴァルガーデンから大軍たいぐんで攻めてきても縦長たてなが行軍こうぐんになるから、まずは、それで分断するトラップを仕掛しかけておこう」


 アムは、花が開いたような笑顔をして、「さすが、ポジラー様、名案めいあんにございます。それだと普段は安全に峠を通行も可能ですものね♡」


 横を向いて腕組みしたシリアスが、「後続こうぞくのヴァルガーデン兵は、そのようにするとして、迫りくるブラック率いる『漆黒騎士団』はどうする。今から何か対策しようにも、間に合わぬぞ!」と苦言をていす。


 景男は、一瞬いっしゅんちゅうにらんで、「ブラック……、ブラック……、『!』。もしかして、あの段々の滝、スターリーフォールズの黒い騎士団の団長さんのことかな?」


 シリアスは、景男が知っているのに、意外な表情をみせ、「ポジラー、『漆黒騎士団』の団長のブラックを知っておるのか?」


 景男は、深く頷いた。


「5時間前ぐらいに、そのブラックさんには上手いこと言って、こちらからの連絡を待ってもらっている」


 シリアスは、眉をハの字にして尋ねた。


「あの卑怯者ひきょうものので計算けいさん高いブラックをどのように言いくるめたのだ!」


 景男は、胸の前で、両手の人差指を着けたり、離したりしながら言いにくそうに、「う~ん、それは、みんながこちらに集まってから話すよ。とりあえず、ブラックさんはこちらの連絡れんらく待ちで、すぐには攻めてこない。だから、みんな早く来て」と自信満々に言ってのけた。



 アムは歓喜かんきの如く喜んで飛び上がり、アリステロスは見直した顔をし、マックスはサンチョとの関係に何かあると不安顔を浮かべる。


 シリアスは、アムの心をまた自分から景男に奪われたようでくやしさをにじませている。ヴァルダーは、景男の策を聞いて、「なかなかの策士だわい」と眉を摩りながら感心かんしんした。




 つづく

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