第19話『宿命の共感:景男とシリアス』


 シリアスと『幻影げんえい騎士団きしだん』が陣取じんどる教会に、ハルデン家の女領主おんなりょうしゅアムを取り合う婿候補むここうほ追手内ついてない景男かげおが逃げ込んできた。


 シリアスは、かみなりおんなのアムから、どうにかポジラーを引きはがす一計いっけいを思案していたところだから、願ったり叶ったり、飛んで火にいる夏の虫とはこのことだ。


「ポジラーの奴、どんなつもりか知らないが、ここで、亡き者にしてやろうではないか……」


 景男は、シリアスの心中しんちゅうを知らず、家出した少年が友達の家で匿ってもらう軽い気持ちでかたきふところ自己みずから飛び込んできたのだ。




 シリアスは、プレートアーマーと剣を手に引き寄せ、景男にすきあらば、いつでも暗殺あんさつするつもりだ。


 景男は、シリアスの思惑を知ってか知らずか、異世界に落ちた時のままの姿、襟口えりぐちのよれたクリーム色のTシャツに、スポーツメーカのジャージをいて、自宅からちょっとコンビニにでも行くかのようなファッションだ。しかも、年齢は35歳、独身、ニート。


 しかし、シリアスは、まじまじと景男の姿を見て思った。アムは、こんな男のどこがいいのだ。見れば見るほど疑問に思う。


 それもそのはず、シリアスは、180㎝の長身イケメン、長い艶やかな金髪をなびかせ、金色こんじきのプレートアーマーを着込む貴公子きこうしだ。さらに、金色の自前の騎士団『幻影騎士団』を率いている。


 対する景男は、169cmで日本人の平均身長に2㎝足りない。顔は悪くはないのだが良くもない、どことなく気が抜けてキリリとしたところがない。現実世界では、朝から晩までゲームかSNS、たまに外出するのは人気アイドルの『Tropical Breeze』の涼宮すずみや未来みらいのライブにしに行くことだけだ。


 そこにも、まるで、大学生のように、赤と黒のタータンチェックのカジュアルシャツを着て、ケミカルウォッシュのワイドジーンズの尺を切らずに5㎝ほど二重にじゅうに折り曲げている。異世界人のシリウスの目から見ても、景男はダサい。


 そんな、男のことをいくら、ハルデン家の始祖ポジラーにそっくりだからという理由で、貴公子の自分を差し置いて、ヨレヨレのオジサンのほうが良いというのだから腹立はらだたしい。




 景男とシリアスは、教会のベンチに、教壇きょうだんとマリア像に向かう通路をはさんで、隣同士となりどうしで座っている。


 シリアスが、景男に意地悪な眼を向けて質問した。


「ポジラー殿は、異世界から来た冒険者ぼうけんしゃのようであるが、元の世界では何をしておいでだったのだ」


 ご近所さんの世間話で、一番イヤなニートへの質問だ。


 しかし、景男はニート10ねん戦士せんしだ。この手の質問への受け答えの準備はできている。


 景男は、クールな決め顔をして、「私は、愛するひとに一生をささげて生きてます!」と言った。


 シリアスは、「まさか!」イケてない景男の口から自信たっぷりに、ナイトのような言葉が聞けるとは思わず驚きの声をあげ、興味きょうみいた。


 景男は、シリアスに畳みかける。


「シリアスさん、あなたには、心から愛した女性はいますか?」


 ここまでが、ニートの景男のイヤな質問への返しネタだ。



 シリアスは、景男の質問に押しだまった。マリーナのことが思い出されたのだ。


 シリアスは、ポツリと言った。


「私にも、一生を捧げようと心に決めたひとはいた……」


 形勢逆転である。景男は、シリアスにひざを向けて、ささやいた。


「シリアスさん、同じようにいとしいひとおも男同士おとこどうし、詳しく聞かせてもらいましょう」





 朝に、アムをめぐる入り婿むこのライバルだった景男とシリウスが、今は一緒に夕食のテーブルを囲んでいる。


 シリアスは、ポツリポツリとマリーナとの思い出を語り始める。


「私にはかつて幼馴染おさななじみ将来しょうらいを言い交したひとがいた。しかし、彼女は貴族きぞく社会しゃかいではつきものの政略結婚で私の許嫁いいなずけだった。だが……」


 シリアスは、マリーナとの思い出を景男に打ち明けた。


 景男は、一通りシリアスの話を聞き終えると、大きくうないた。


「わかる! シリアスさん、愛しいひとを想う者同士、痛いほどわかるよ」


 と、景男は、シリアスの両手を掴む。


 手を掴まれたシリアスは、戸惑とまどいの表情をみせる。


 景男は、目を輝かし、胸の前で握り拳を振り上げて言った。


「シリアスさん! オレは現実世界で、涼宮未來ちゃんを! シリアスさんは、マリーナさんを取り戻そう!」


 と、血気けっきさかんにぶちあげた。




 それまで、二人のきずめ合っているのを黙って聞いていたヴァルダーが、「わっはっは~」と豪快に笑いだした。


「若様! ポジラー殿! 二人の女子おなごに対する心の傷はわかりましたが、アム様はどうされるのです。現実問題、お二人は、どちらがアム様の入り婿むこになるかを争っている。それを、いまさら放り出すわけにはいかぬでしょう」


 二人は、一瞬、顔を向かい合わせて、目を合わせた。二人声をそろえて、「それは……ヴァルダーさんがどうにか……」


 ヴァルダーがまた大声で笑って言った。


「わっはっは~、若様! ポジラー殿は面白いことを考える。かみなりむすめは、ヴァルガーデンの騎士には天敵てんてき、ワシにはあの娘は扱えませぬ。ご安心を!」


 景男とシリアスは、声をそろえて、「何がご安心だよ~」



 と、その時、教会のドアが開いた。


「ポジラー様、見つけました!」


 アムの命令を受けたモルデール騎士団と、マックスとサンチョだ。




 つづく

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