第18話『シリアスの復讐の刃』

 翌日、祭りを終えたホブゴブリンの去ったモルデールの町は、どこにもゴミのないピカピカの町に生まれ変わっていた。しかも、山間部さんかんぶの古い木造もくぞう建築けんちくの町並みだ、昨日までは、老朽化ろうきゅうかして、柱を白アリが食ったりして、今にも傾きそうな空き家も多かったが、補修ほしゅうされ、まるで、新築しんちくが立ち並ぶようだ。


 毎朝、町を見回る家宰かさいのアリステロスは、自分の目を疑った。モルデールの町が高齢化こうれいか過疎化かそかによって、限界げんかい集落しゅうらくへの道を辿たどりつつあったのが一夜にして復活したのだ。


 ポジラーの登場で、アリステロスの解決できなかった課題を一晩で解決して見せたのだ。


 まずは、高齢化問題。過疎化により増えた空き家に、ポジラーを気に入った若いホブゴブリンが、森や岩山のタンクホルム山から移り住んできたのだ。


 これまで、田舎のモルデールを離れ、大陸の中心都市ストロンガー家の治めるみやこヴァルガーデンへ移り住む若者わかものが多かったのを、ホブゴブリンとの共存きょうぞんにより、町の高齢化と過疎化、限界集落化の課題をクリアした。


 しかし、アリステロスはモルデールの町の問題をまだ抱え頭を悩ませている。その問題解決のため、アムの父グレゴール公とセシリアは二人で直接、ダークス・ストロンガーと面会し、会談で上手く話をまとまったのだが、帰途きとで帰らぬ人となった。おそらく事故に見せかけた暗殺あんさつであったのだろう。


 だが、その暗殺の証拠しょうこ証明しょうめいのしようもない。あるじとむら合戦がっせんをヴァルガーデンに仕掛しかけたところで、わずか、30人ばかりの脆弱ぜいじゃくなレザーアーマーの装備そうびのモルデール騎士団では、多勢たぜい無勢ぶぜい、およそ10倍の兵力をほこるプレートアーマーで固めたヴァルガーデンの兵に立ち向かうことはできない。


 アリステロスは、それらを計算した上で、アムとシリアスの結婚をすすめたのだ。


(しかし、ポジラーの起こす奇跡きせきがあれば……)


 そんな、思惑が頭に浮かんだが、現実的な領国経営をするのが、家宰かさいの務めと自分に言い聞かせて、目の当たりにしたポジラーの奇跡にける想像を打ち消した。




 アリステロスはから遅れること1時間後、アムは、ハルデン屋敷の窓を開けた。真新まあたらしい町に生まれ変わった新しいモルデールに目を輝かせた。


 アムは、スグに寝巻ねまきから領主の正装せいそう着替きがえ、「ポジラー様~、ポジラー様~」と景男の部屋のドアを開けた。


 景男の部屋は、ベットのシーツがキレイにととのえられ、壁際かべぎわの机には、書置かきおきが残されていた。


 ”拝啓はいけい アムちゃん、アリステロスさん、マックスさん、ホブゴブリンのみんな、ボク、追手内ついてない景男かげおことポジラーは、現実げんじつ世界せかいへ帰るため旅に出ます。追わないでください。 ―ポジラー―”


 ビリッ! ビリッ! ビリビリ‼


 書置きを読んだアムの体から微量びりょう電流でんりゅうが光っている。


「マックス! マックスはおらぬか!」


 と、アムは、モルデール騎士団長マックスを呼びつけた。


 マックスは、突然、アムに呼び出され、上半身にはまだ、レザーアーマーもつけていない。なにごと! と血相けっそう変えてあわててけつけた。


「姫様、いかがいたしました!」


 アムは、顔を赤くして、眉が吊り上げてマックスに命じた。


「マックス! 私の婿むこポジラー様が逃げた。今すぐ、ハルデン家の総力をあげて連れ戻すのだ!」


「しかし、アム様……」


 と、マックスが慎重論しんちょうろんを展開しようとすると、アムの体からビリッ! ビリッ! と電流がオーラを放つように強くなる。


 マックスは、アムの電流をおそれて、「姫様、かしこまりました。モルデール騎士団きしだん総力そうりょくをあげて、ポジラー様、婿殿むこどのを連れ戻してまいります」


 アムは、真剣しんけんな眼をして、整えられたベットを触って言った。


「ベットには、まだ、ぬくもりがかすかに残っておる。そう遠くまでは行っていないはずだ。スグに馬を使って追いかけよ!」




 教会に陣取じんどる『幻影げんえい騎士団きしだん』とシリアスとヴァルダーの主従しゅじゅうは、ポジラーにかたむいたアムの気持ちを取り戻す計画をっていた。


 シリアスが、腕組みしながらウロウロと歩きながら、アムからポジラーを引きはがすか作戦を考えていた。


「ポジラーだけならば、たいしたことはないが、あやつには雷娘かみなりむすめアムが常にくっついておる。なんとか、アムとポジラーを引き離す作戦を考えねば……ヴァルダーなにか、手立てだててはないか」


 ヴァルダーは猪突ちょとつ猛進もうしん武人ぶじんである。戦略せんりゃく戦術せんじゅつ立案りつあんにはむかない性格だ。シリアスの話を聞いているふりして右から左に聞き流して、窓の外を見ていると、アムから逃げてきた景男がいた。


「若様、あれ!」


 シリアスは、気の抜けたヴァルダーに、「ヴァルダー、私の話を聞いているのか!」と怒鳴りつける。


「いえ、だからポジラーなら、一人であそこに……」


 と、窓の外を指さした。


 シリアスは、信じられないと言った表情で、窓の外すらみないが、景男が、シリウスに向かって手を振っている。


「若様、あやつは、若様に用があるのではないですか?」


「そんな、敵陣に自分から命を捨てにくる馬鹿者ばかものがおるものか! 冗談じょうだんはひかえよ!」


 ヴァルダーは、首筋くびすじきながら、「その馬鹿者が、あのポジラーなのではありませんか? ほら、あちらをごらんください」


「ヴァルダー、あわれな私を愚弄ぐろうするのか!」


 と、ヴァルダーの指先よびさきしめす窓を見た。


 そこには、べちゃーっとほほを窓にすりつけた景男がシリアスをのぞいていた。


 ヴァルダーが豪快に、「わっはっは~、うわさをすれば、ポジラーの方からやってきましたな。さて、若様、このチャンスをいかがなさいます?」


 シリアスは、蛇目じゃがんを向けて、意地いじ悪そうな顔をして言った。


「飛んで火にいる夏の虫、ポジラーには、地獄とアムを私が取り戻す様を見てもらう」





 つづく








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