第16話『シリアスの嫉妬:復活のポジラー』

忌々いまいましきは、ポジラーとかぬかすもの! シクシク……、シクシク……」


 シリアスは教会の礼拝堂れいはいどうのベンチにうつぶせになり泣いている。


 傅役もりやくのヴァルダーは、隣の席で、神聖しんせいな教会で、神を冒涜ぼうとくするような態度たいどで、足を投げ出して、腕をベンチに広げて座っている。


「若様、ポジラーとか申す者は、中々に、勇敢ゆうかんな男にございますな。狂暴化きょうぼうかした狂暴化きょうぼうかしたゴブリンのれに飛び込むなど、正気しょうき沙汰さたとは思えませぬが、ワシでもあのような蛮勇ばんゆうはありませぬ」


 シリアスは、ポジラーを認めたような発言をしたヴァルダーを、「お前は、ポジラーの味方か!」とキッとにらんだ。


 ヴァルダーは、女々めめしい、シリアスを眉をひそめて「若様! ポジラーは、シリアス様のライバルとして、勝るとも劣らぬ御仁ごじんでありますな、わっはっはーーー!」豪快ごうかいに笑い飛ばした。


 コンコン!


 そこに、『幻影騎士団』の団員が、教会の扉をノックした。


 ヴァルダーは、怒声を発して、「入れ!」


 団員は、入り口でひざまずいて報告ほうこくする。


「ヴァルダー様、ゴブリンのれをせいしたポジラーは、そのままモルデール町をり歩き、その功績こうせきは町の者、皆が知ることとなりました」


 ヴァルダーは、むずかしい顔をして、シリアスに言った。


「若様、これは困ったことになりましたな」


 シリアスは、キリっと身を立て直して、「私のモルデール、いや、アムをそう簡単には渡しはせぬ!」ベンチに座りなおした。


 豪快ごうかいなヴェルダーが真剣しんけんな顔をして、「しかし、若様! 事は一筋縄ひとすじなわではまいりません。アム様は、すっかりポジラーになびいております。ですが、家宰かさいのアリステロスは、まだ、こちらがわ。ここは、なんとかアリステロスを抱き込んでこちらが有利になるように動かねばなりませぬな」


 シリアスは、切れ長の一重をヴァルダーに向け、「そうだな、我らの念願を果たすためには、まずは、アリステロスの弱味をにぎらねばなるまい」と凍ったように冷たい目を向けた。






 その頃、モルデールの町では、景男の提案で(ていあん)、『幻影騎士団』に殺された子供のホブゴブリンの葬儀そうぎが行われていた。


 葬儀とはいっても、ポンポコポン、ポンポコリン! と太鼓とリズムに合わせたおどり、盛大せいだいな祭りの様相ようそうだ。


 寝むったように納棺のうかんされた子供のホブゴブリンに、手を合わせて、テキトーなおおきょうとなえた。


「アーメン、ソーメン、ヒヤソーメン! アラビンドビン、ハゲチャビン!」


 ピロピロリン!


 景男が、テキトーなお経を唱えると、魔法まほう発生はっせいする音が聞こえた。


 夜空の月から、横たわる子供のホグゴブリンに向けて、あたたかな月光が差し込んだ。


 アリステロスは、ステータスでは魔法が使えないはずの景男が、おそらく偶然ぐうぜんではあるが、口をついて出た呪文に目を見張った。


「この呪文は、始祖ポジラー様が使われた伝説の大魔法だいまほう、死者を生き返らせる復活ふっかつの呪文!」


 パチパチ!


 棺桶に横たわる子供のホブゴブリンの目が開き、手を合わせる景男としっかり目が合った。


「うぇ?」


 景男は、思わず二度見した。


 棺桶に横たわる子供のホブゴブリンは、純真じゅんしんひとみで「ウチャキー!」景男に抱き着いてきた。


 長い白眉はくびで目が見えないホブゴブリンの長老が驚いて、目を見せた。


「ウキャッキャー、ウキウキ!」


 長老が何か言った。


 すると、今まで太鼓を叩き、踊っていたホグゴブリンたちが、皆、景男をあがたてまつるようにひれ伏した。


 この光景には、冷静なアリステロスも驚きの声をあげた。


「これは、奇跡きせきだ。伝説の始祖ポジラー様だけが使えたという復活ふっかつ呪文を、ポジラーが使いおった」


 アリステロスのとなりにいたアムが、キラキラと期待きたいの入りじった目で見つめて言った。


「アリステロス! ポジラー様の復活の呪文があれば、亡くなった父上と、母上の復活も叶うやもしれぬのではないか!」


 アリステロスは冷静に、「はい、ポジラー様の呪文が真の物であれば、グレゴール公と、セシリア様を復活させることは可能かのうやもしれませぬ。しかし……」


「しかしなんじゃ?」


 アリステロスは苦渋くじゅう吐露とろするように言った。


「グレゴール公と、セシリア様の亡骸なきがらは、ストロンガー家の領内、ヴァルガーデン教会の墓地ぼちめられております。ポジラーの復活の呪文が真としても、そうたやすくグレゴール公と、セシリア様の亡骸を取り戻すのは至難しなんわざです。とても、シリアス様との縁談えんだん破棄はきしてまで、ご両親の亡骸を取り戻す計画は、ハルデン家の領国りょうごく経営けいえいをあずかる家宰としておすすめでききません」


 アムは、現実的な意見を言うアリステロスにすがるように、「アリステロス! お前も父上と母上を事故を装って、ダークス卿が仕組んだものとわかっておろう!」


 アリステロスは、静かに首を横に振り、「あくまで、それは可能性の話。実際に、事故にあわれたグレゴール公と、セシリア様にしか真実はわかりません」


 アムは、アリステロスに食い下がる。


「なればこそ、ポジラー様の復活の呪文で、父上と母上を復活させて真実しんじつ究明きゅうめいするのだ」


 アリステロスは、かなしそうに首を横に振る。


「姫様、もし、その計画が失敗し、その思惑おもわくがダークス卿の知るところになれば、ハルデン家と、ストロンガー家のいくさとなります。それこそ、憎っくきダークス・ストロンガーの思うつぼにございます」


 アムは、突然、景男の腕に抱き着いて、「それでも、私は、ポジラー様の強運と奇跡に賭けてみたい! シリアスとはきっちりケジメをつけるぞ!」


 景男は、何の話かわからずキョトンとするだけだった。




 つづく



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