第15話『逃げられない運命:強運⁈ ポジラー』

 ポンポコポン、ポンポコリン!


 ポンポコポン、ポンポコリン!


 ハルデン家の屋敷を中心とするモルデールの町は、景男を長老ゴブリンの神輿みこしに乗せ、陽気に太鼓たいこを叩いて、お祭りさわぎだ。


 町の人々は、騒ぎを聞きつけて、夜だというのに、窓を開け、ドアを開き、およそ300匹ほどのホグゴブリンが、景男をかついでり歩くのを、「あれは誰だい?」「どこかで見たことがあるような」「それにしても、ホブゴブリンがあんなに楽しそうに」と口にする。


 景男が、怒り狂ったホブゴブリンを手なずけたのは、モルデールの住民すべてが知ることとなった。



「ポジラー様、よくやってくれた!」


 屋敷からアムが飛び出してきて、景男に飛びつく。


 飛びつかれた景男は、両腕をギプスとアームホルダーで固定されている。そのまま、いきおい余って、地面に落っこちる。


 グギッ!


 景男の左足が、ヘンな方向に曲がった。


「痛いーーーーー!」


「ポジラー様、どうやってホブゴブリンを手なずけなさったのですか?」


 アムは、痛がる景男をおかまいなしに、猫が大好きなご主人に頭突ずつきをするように、ほほを顔にこすりつけながらたづねる。


 景男は、おそらくれた足で、苦痛くつうで顔をゆがめながら、「う~ん、理由はよくわからないけど、ラッキーだったのかな?」


 アムは、景男の両肩をつかんで、「ポジラー様は、強運の持ち主なのだな!」


「この世界ではそうかも」


「それは、いい!」


 と、言ってアムは景男の顔に胸を押し当てるように抱きついた。


 ムニュ!


 景男は、現世での自分の境遇きょうぐうを振り返ると、ツイてない人生だったが、この異世界においては、アイドルの未来みらいにそっくりなアムに、求婚きゅうこんされ悪い気はしない。


 グキッ!


 ただ、手荒てあらなことだけが難点なんてんだ。だが、現世では、ありえない体験ができてむしろホントに異世界では自分に強運きょううんのスキルが身についたのかも知れないと思うほどだ。



 オッホン!


 アムに抱き着かれ、鼻の下を伸ばす景男をたしなめるようにアムにつづいて屋敷から出てきたアリステロスが咳払せきばらいした。


「アム様、町の者も見ております。ポジラーとあまり親しくするのはいかがなものかと思いまする」


「なんじゃ、アリステロス、そなたの出した試練しれんをポジラー様は、おとなしいホブゴブリンと争うことなく、このように祭りのように楽しく、一番良い形で戻って来たではないか! まだ、文句があるのか‼」


 と、アムは、景男を突き飛ばして、慎重しんちょうなアリステロスにくってかかる。


「痛たたたたーーー!」


 アムは、左足を九の字にして痛がる景男におどろいて、「誰が、ポジラー様をこんな姿にしたのじゃ許せぬ!」と、犯人をさがしに立ち上がった。


 アリステロスは、アムの気性きしょう承知しょうちしている。


「アム様、先に、ポジラーの怪我けがをヒーリングの魔法まほうで治しましょう」


 そう言うと、ローブの懐から小さな杖をとりだして、景男のステータスを空間にカードを開くみたいに表示した。


 HP(ヒットポイント)30

 MP(マジックポイント)0

 攻撃力3

 守備力3

 素早さ100

 ……運の良さ999。


 アリステロスは、奇妙きみょうな物でもみるようにつぶやいた。


「逃げ足と、運の良さを異常いじょうな高さをのぞいては、ゴミですな」


 アムは、驚いて、「バカを申すな、私のポジラー様が、そんな底辺ていへんステータスな訳があるまい!」


 アムは、景男のステータスを見て、愕然がくぜんひざをつきくずちた。


「ポジラー様のレベルは、シリアスの1/99ではないか……しかし、シリアスにはない素早さと強運がある。まだ、望みはある!」


 アリステロスは、あごひげをなでて、「たしかに、ポジラーの素早さ、なかでも運の良さはこの世界を見渡みわたしても二人とおらぬでしょうな」


 アムは、うなずいて、「アリステロス、我らには解決かいけつできぬ、モルデール領内の問題をポジラー様ならば、見事みごと解決かいけつするやも知れぬぞ!」


 アリステロスはあご髭をなでながら、何やら目算して、「シリアス様が堅実けんじつな道ならば、ポジラーは博打ばくちですな、家宰かさいの私としては、とてもおすすめできません」


 アムは、折れた左足を引きずりながら、ほふく前進ぜんしんで逃げ出そうとする景男の右足を掴んで、「どこへ、行こうと言うのですポジラー様!」


 ビリッ!


 微量びりょうの電流が景男の全身に流れた。


 景男は、引きつった顔で、振り返って、「いいや、ちょっと、そこまで散歩に……あはは……」


 アムは、目は真剣で、口元だけで笑って、「そうですか、それならば、後で領内を案内したいので、怪我を直して一緒に参りましょう……と、その前に、アリステロス、ヒーリング魔法の前に、あの金の輪っかを先に出してちょうだい」


 アリステロスは、「ほう、姫様、堅実な判断です。ポジラーの逃げ足を考えるといつ逃げ出すやもしれませんからな、それは、よいお考えです。それでは、「サルサル、ソンゴクウ、サル、ウン!」と、呪文じゅもんとなえると、景男の頭にちょうどはまりそうな金の輪っかが、アムの手の上に落ちてきた。


 アムは、金の輪っかを掴むと、景男の頭にかぶらせた。


「これで、よし! アリステロス、ポジラー様をヒーリングの呪文で怪我を治して差し上げよ」


「わかりました姫様。タイタイ、イタイノ飛んで行け―!」とアリステロスが呪文を唱えると、あら不思議、景男の九の字に曲がった左足も、両腕のギプスもきれいさっぱり元通り、怪我はすべて治った。


 怪我の治った景男は、その場で飛び跳ねたり、腕を回したり、体のコンディションを確かめると、いきなり森へ向かって駆け出した。


 アムがすかさず、いんを結んで呪文を唱える。


「ウワキハダメヨ、ヨソミナイナイ!」


 と、アムが呪文を唱えると、突然、景男が頭に被せられた金の輪っかを掴んで地面に転がり出した。


 アムは、景男にゆっくり近づいて、満面の笑顔で言った。


「ポジラー様、私からは、もう、逃げられません♡」




 つづく






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る