第12話『サンチョの伝説の任務』

 アムの婿むこの座をけた、ホブゴブリン討伐とうばつへ、両腕をギプスとアームホルダーで固定されたまま放り出された景男を助けるように命じられたハルデン家の騎士団長マックスは、白地しろじ大鹿おおしかはたがはためく、ハルデン家のやかたから少し離れた騎士団屋敷へ入った。


 騎士団屋敷は、ちょうど小学校の体育館たいいくかんのような広さ(約30m × 20m=約600㎡)だ。そこには、30人ほどのレザーアーマーの軽装けいそう兵が、片手剣を磨いたり、木人もくじんを相手に剣術けんじゅつ稽古けいこ対人たいじんで向かいあって実践じっせん訓練くんれん士気しきが高い。


「マックス、騎士団長のお戻りだ!」


 マックスが部屋に入ると、団員の一人が声を上げた。みな、手を止めて、立ち上がって剣をこしのあたりから頭の先にかけて立ててれいをとる。


 そのずっと後ろで、大きめのレザーアーマーに収まりきらない、でっぷりとはらを出した小柄な兵は、マックスが戻ってきたのにも気がつかづ、木人を相手に木刀ぼくとうるっている。


「えいやーーー! とう! とう! とう!」


 かけ声はいい。だが、その太刀筋たちすじは、にぶくとても戦場で使い物になるかどうかは疑問ぎもんだ。


「サンチョ! こっちへ来い‼」


 マックスは、汗だくのサンチョを呼びつけた。


 呼ばれたサンチョは、まるで騎士団長の呼びつけが、稽古けいこ邪魔じゃまとでも言わんばかりに不満顔ふまんで列に並んだ。


「なんだ、あんちゃん、オレは今、稽古で忙しいんだ」と気の抜けた声で言う。


「コラ、サンチョ! 皆の前では、兄ちゃんではなく、騎士団長と呼べと命じているだろう!」としかりつける。


 しかし、サンチョは、マックスの面目めんもくなどどこ吹く風で気にもとめない。


「そうだ、兄ちゃん、おっ母が、今日の夕食は大好物のクリームシチューを作ってまってるっていってたど」


 これには、たまらず、騎士団に笑いが起きた。


「こら、サンチョ! そんな話は控えろ‼」


 それぐらいではサンチョにはこたえない。


「だって、兄ちゃん、クリームシチュー大好きでねぇーか。だって、オイラがお代わり3杯食べてる間に、5杯食らうでねぇーか」


 マックスは、たまりかねて、サンチョの頭に拳骨げんこつらわせる。


 ゴーン!


 痛ぅ――!


 拳骨を食らわせたマックスの方が、手を振って痛がっている。


「サンチョ、この石頭!」


 マックスがまた叱ると、サンチョはあきれたように、「や~んだ、兄ちゃん。オラの石頭は子供のときから知ってるでねぇーか、今に、始まったことじゃない」


 また、笑いが起こった。


 マックスは、何か閃いて、「決めた!」という顔をした。


「よし、サンチョ、お前にアム様、直々じきじき極秘ごくひ任務にんむを与える。お前は、これから教会へ向かい。肖像画しょうぞうがにもなっているハルデン家の始祖しそポジラー様そっくりの生まれ変わりの方をかげながら助けてこい」


 サンチョは、焦点しょうてんの合わない目でちゅうを、間の抜けたように口をぽっかり開けて、しばし考えた。


「や~んだ、オラは、剣術の稽古さして、早いこと兄さを超える軍団長になるんだ」


 と真顔まがおで言う。


 その場の全員が笑った。これには怒るはずのマックスも笑った。


 すると、サンチョは、マックスを睨みつけて言った。


「どうしてみんなして、人が真剣に稽古さするを笑うだ。みんなして人でなしだべ」


 すると、マックスが、サンチョをなだめるように優しく語りかける。


「すまん、サンチョ、誰もお前をバカにしたわけではない。皆、お前が真剣に稽古するのを応援しているのだ」


 サンチョは、兄の言葉を少し疑るように、顔をずらして、「本当だか?」と軍団員を見回す。


「サンチョ、みんなお前の成長を応援してるぞ」


「サンチョ、お前がマックス様を超える軍団長になる日を信じてる」


「いつか、お前の石頭が役に立つ日が来る!」


 軍団員ぐんだんいん総出そうでで、サンチョをなだめる。


 すると、サンチョは機嫌きげんを良くして、「わかった。兄ちゃん、姫様の極秘ごくひ任務オラが見事みごとつとめてみせますだ」


 と、力強く胸を叩いて引き受けた。




 つづく

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