第8話(④ー1)『電撃の晩餐とゴブリンの襲来』

 ハルデン家の広いテーブルに純白のテーブルクロスが掛けられ、近くの山でれたイノシシの丸焼きがドーンと、鉄の大皿おおさらに乗せられ男の使用人2人がかりで運んで来た。


 景男は、長方形テーブルの短い面、始祖ポジラーの大肖像画を背中に守るハルデン家の2脚並んだ家長かちょうの席に、アムにべったりとくっつかれ、鼻の下を伸ばして料理がそろうのを待っている。しかし、彼の両腕は、先程の階段落ちで、ギプスとアームホルダーで固定されている。


 二人の背後にひかえるハルデン家の騎士団長マックスが、手のこうで口元をかくしながら景男に耳打みみうちする。


「ポジラー様、結婚けっこん早々そうそう大怪我おおけがをなされ、災難さいなんでした。アム様には、くれぐれも、素直にお従いください」


 マックスは、24歳ぐらいの青年騎士だ。その若さで少数しょうすう精鋭せいえいのハルデン家の騎士団長を務めるからには、相当そうとう、剣術の腕も立つのだろう。それに、マックスは、前髪をツンと上げた短髪でいい奴そうだ。


 景男は、マックスの助言を素直に「ありがとう」と受け入れた。


 景男とアムの前に小皿とナイフとフォークが整えられ、使用人によって、イノシシの肉が小皿に切り分けられる。


 アムは、フォークで分厚ぶあついイノシシの切り身を刺すと、景男を見つめながら笑った。


「はい、ポジラー様、あーんして♡」と手の不自由な景男の口に運ぶ。


 景男は、少しテレもあるのか、一瞬いっしゅんためらいもみせたが、すぐに、「あーん♡」した。


「なに、この肉! 少しくさみはあるけど、めっちゃ、おいしいんですけど」と感想をもらすと、アムは喜んで、「ポジラー様、そんなに美味しい?」と目をかがやかせて自分の肉もフォークでブッ刺して、もう一度「あーん♡」させた。


 イノシシの肉は、牛肉のステーキと比べれば、少しのくさみと弾力だんりょくがある。景男が味わって、はじめの肉をまだみくだいていると、アムはもう待ちきれない。


「ポジラー様、あーんして!」と、催促さいそくする。


 景男は、素直に、モグモグしながら、「まだ、食べてるところだよ」と言うと、アムは目がすわって、再び「ポジラー様! はい、あーん‼」と強いあつせまる。


 景男は、また、正直に、「今、美味しい肉を味わってるところだから、ちょっと、待ってね」となだめ、また、モグモグする。


 コトンッ。


 アムは、皿に乗った分厚い肉をフォークでぶっ刺した。それまでのあまあい、雰囲気から一瞬いっしゅんで別人になった。


「ポジラー様、私の肉は食べられん、言うんかい?」とイライラしたそぶりをみせる。


 なんだか、雲行きが怪しくなってきた。先ほども、階段でアムが豹変し景男の体に電流が流れ、両腕りょううで骨折こっせつと大変な目にあったところだ。ここで、再び、アムの電流をらえば……景男は、反論をやめ大きく口を開いて「あ~ん♡」した。


 すると、アムは機嫌きげんを直してデレデレと、肉の刺さったフォークを掴んで、景男に食べさせた。


「ポジラー様、おいしい?」


 景男は、精一杯せいいぱいの作り笑顔でモグモグしながら、「おいすぃー♡」と返事しながら、心で泣いた。

(美少女との晩ご飯をともにする夢と幸せの裏には、こんな苦労もあるのだなぁーと苦汁をみしめた)


 まだまだ、アムは、フォークでイノシシの肉をブッ刺して、景男に微笑んだ。


つづく




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