第二話 魔術の作り方
さて、魔術を作ると意気込んだもののどうやって作ればいいのだろうか
俺は色んな書物を読んでみる事にした
自分の部屋には物語とか、そういう系の本しかないので
隣にある父さんの書斎に潜りこみ、様々な本を読んだ
まず、この世界の話について分かった事がある
①文明レベルについて
前世生きていた世界と文明レベルはさほど変わらないみたいだ
見た目としては西洋ファンタジーの様な雰囲気だが
銃や車、電子機器などは存在する
現代との違いとしては、歴史、地形、地名など
異世界っぽい要素は見つからなかった
②魔術について
魔術や魔法の様なものを使ったという事例は確認できなかった
物語に登場する事はあったが、それ以外は無し
やはり、この世界に魔術は存在しないと見ていいだろう
③歴史、国際情勢について
この国、ヒューグリア王国の歴史としては、かなり新しめの国で
大体百年前に建国されたらしい、、何やら先代の国王が暴れたとかなんとか
貴族制社会で、貴族は爵位を持ち
上から、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵といった感じ
ノートリアス辺境伯は建国当初からの古株で、かなり信用されているらしい
敵対国家として、グラン帝国があり……
まぁ長くなるので割愛する、別でまとめる事にしよう
そんな感じで、大体わかったのはこのくらいだ
「さて、どうやって魔術を作ろう」
手がかりと言っていい物は一つも出てこなかった
そもそも、魔術とは何なのかっていう話だ
例えば、前世の世界に科学という物がある
あれも受け取り手によっては魔術ともいえるだろう
ただ、そういう事ではないのだ
科学の延長線上、いや、科学ではない別の何か
なんでもできる力……
曖昧だな、とりあえず、魔術と言えばの定番
火や水を生み出す、操るという術としよう
一旦の目標は、火や水を生み出す、操れるようになる、という事で
「燃えろ!!」
俺は両手を前に突き出し、そう叫んだ
結果は、特に何も変わらなかった
「ファイヤー!!!」
俺は再び両手を前に突き出し、そう叫んだ
結果は、特に何も変わらなかった
こうやって適当な言葉を叫べば、なんか奇跡が起こって魔術が使えるかもしれない
そう思い、俺は適当な言葉を叫びまくる
「ファ〇ヤート〇ネード!!!」
「邪〇炎殺〇〇波!!!」
「
数時間後……
さて、結論から言おう、無理だった
炎や火に関する言葉は大体試したが無理だった
やはり、厳しいか
まぁゆっくりやっていこう、特に手がかりも無いんだし―――
「ノア、いるか?」
コンコンという優しいノックと共に、父の声が聞こえる
「はい、どうしましたか?」
俺がそう返答すると、父は扉を開き、中に入ってくる
「ああ、元気そう、だな」
なんかよそよそしい雰囲気を感じるな
あ、そう言えば俺、父に魔術を教えてくれと頼んだ後引きこもってたっけ
「元気ですけど、何か……」
「いや、少し、そうだな、音が漏れていたもので、気でも狂った……ゴホン、いや、あの時から、ずっと引きこもっていたからな、心配で」
あーーーー、そうだ、そういえば、さっきからずっと叫んでいた
よく考えると、父からしたら魔術とかいう空想上の物を教えてくれと頼んできた頭がおかしい息子
数日引きこもったと思えば、何やらよく分からない言葉を叫びだした息子
客観的にみても心配とかいうレベルで収まるものじゃないな
「いえ、いや、そうですね、少々実験というか、そういう類の物をしていて…」
「それはやはり魔術とやらの実験か?」
「――はい、そんな感じです」
「ふぅん、やはり」
父は口元に手をあて少し何かを考えているようだ
どうしよう、禁止とか言われたらというか正常な親ならそうする
存在しない魔術の研究とか、悪魔にでも魅入られたのかと思うはずだ
「確か、この辺りに……」
そんな俺の心配は肩透かしに終わり、父は本棚を物色する
そして、一つの本を取り出し、俺に見せる
「イングラッド英雄譚……?」
そう、見せられた本、それは俺の命を救った本、イングラッド英雄譚だった
「ノアが魔術を教えてくれ、そう言った時、少し昔話を思い出したんだ」
「この本、イングラッド英雄譚の著者を知っているか?」
そう言われ、俺は記憶をたどる、確か、著者は……
「あれ?」
「気づいたようだな」
「誰だっけ」
全く、いや、おぼろげになんとなく浮かぶものの
分からない、思い出せないのだ、あんなに好きだった本の著者を
「そう、この本の著者は存在しない、いや、正確には存在しない事になっている」
「それは、どういう?」
「昔、30年前くらいか、この本の最終ページ付近にある奥付には、確かに著者の名前が刻まれていた、だが、ある日突然消えたのだ、名前がな」
「好きな本の著書が思い出せない事、奥付に名前が無い事を不思議に思った私は当時、私の世話係をしていた現メイド長セルフィに問いかけた、先ほどと同じように、この本の著者を知っているか、とな」
「答えはNoだった、ただし、きっぱりと、ではなく、思い出せない、そんな様子だった、先ほどのノアのように」
「これが何の影響か、そして何のために起こったのか、全ては不明のままだ」
「そして、俺はこの本をたよりにそういう超常現象的な物について調べてみた、そこで判明したのはこの本に書かれている物語、それが『実話』ではないか、という可能性、そういう噂があるという事を知った」
「もし、この世界に魔術という不可解で不可思議なものが存在するというのならば、この本が手掛かりになると思う、では」
そう言って、父はそそくさと俺の部屋から出て行った
よくよく考えると、こんなに長く話した?のは初めてかもしれない
父は基本、戦場にいるし、俺は転生者だから父だという意識も低いし
俺は受けとった本をペラペラとめくる
そして、最後のページをめくり、奥付を確認する
そこには、著者の名前は無く
「魔術師志望に栄光あれ」
そう刻まれていた、その文字は綺麗というには荒っぽく
雑というには、丁寧で、少し、幼さを感じた
それはいつの日か、父の書斎で見た
父の子供の頃の筆跡に、あまりにも酷似していた
「ああ、やはり、親子だな」
そんな声が隣の部屋から、聞こえた気がした―――
魔術無き世界で、魔術師志望の転生者 孤宵 @musubime_koyoi
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