魔術無き世界で、魔術師志望の転生者
孤宵
第一話 どうやら、この世界に魔術は無いらしい
僕、いや、俺の名前はノア
とある辺境に領地を持つ、ノートリアス辺境伯の息子、年は6
兄弟はいなく、両親は健在で、祖父も祖母も健在
かなり恵まれた出自と言える
突然だが、俺には前世の記憶がある
昔の俺は日本という名の島国で生きていた
まぁかなり暗く、人に誇れるような人生では無かったと思う
とにかく、俺はその世界で死に、この世界に転生してきた、というわけだ
さて、話は戻り、今の俺に
今の俺には夢がある
前世から思い描いていた夢が
そう、それは
『魔術師になりたい!』
という夢だった
物語に登場する魔術師、華麗に炎を操ったり、優雅に水を操ったり
前世では、その夢が叶うことは無かった
そもそも空想上のものだからだ
だが現世では違う!
ここは異世界!魔術だって存在するだろう!!
そして、今日、剣術の訓練が始まった
正直、まだ6才だし、早くね?とも思ったが
まぁいい、そんな事はさほど重要ではない
6才になって、剣術の訓練が許可されたのなら
魔術訓練も許可されるだろう
そう、待ちわびた魔術がやっと使えるのだ
やっと、やっと、俺は魔術に触れる事ができるのだ!!!!
そう思いながら、俺は素振りをこなす
この素振り1000回を終えたら、父は俺のお願いを一つ何でも聞いてくれるらしい
だから、俺はこの素振り1000回を終えたら、父に頼むつもりだ
『魔術を教えてくれ!』と
ハハ、楽しみで仕方がない、このつまらない素振りも今では逆に楽しくなってくる
「やってやる、魔術の為なら素振り1000回くらい、楽勝だ!」
そう言い放った数時間後、素振りを追えた俺、そして父にお願いをした俺
それは、素振りをしている時に想像していた
輝かしい未来とは、到底かけ離れたものだった
「魔術?なんだそれは、物語の話か?」
父がそう言った、その瞬間を俺は一生、忘れることは無いだろう
夢が砕ける音がした
『どうやら、この世界に魔術は無いらしい』
食事が喉を通らなかった
全てがつまらなく見えた
心にぽっかり一つの穴が開いてしまったような気分だった
「ノア、ノア、ここに食事置いておくぞ」
父さんの声が俺の心を通り抜ける
食事は一人で取るようになった
外にもあまり出ないようになった
剣の修行なんて、しなくなった
ただ、自分の部屋にある本を惰性で読んでいた
物語は好きだ、ありえない事を現実にする魔法
つまらない人生に彩りを与える
ああ、俺もこの物語の主人公のように
魔術を使ってみたい
だけど、それはあくまで物語の話
現実は……
異世界に転生したら、きっと煌びやかで輝かしい
全てが自分の思い通りになる人生があると思ってた
クソみたいな人生を送ったご褒美が貰えるって
けど、駄目だったみたい
俺は自分の部屋の机に乗り、窓を開ける
風が吹いている、夜の風を全身で感じる
もうこれで二回目だ
恐いとか、そんな感情は無い
さぁ身を乗り出し、眼を閉じて、最初で最後の一歩を―――
「ドンッ」
何かが落ちる音がした、俺は目を開く、俺はまだ生きている
俺は振り返る、音がした方向に
「本?」
俺の本棚からだろうか、さっきの音は本が落ちた音だったみたいだ
「本……」
俺は少し、沈黙した
そして、理由は分からないが、その本を手に取ってみる事にした
「イングラッド英雄譚」
確か、森に住むイングラッドという爺さんが魔術を使って人助けをする
そんな話だった気がする
俺はその本を一枚一枚めくっていく
何か特別な物があった訳じゃないと思う、どこにでもあるファンタジー小説
そんな何度も見たことのある小説なのに
俺の眼は離れず、ページをめくる手は止まらない
イングラッド英雄譚、最後の一節
イングラッド、彼は「この世界に魔術が無かったら」という問いに対して
こう答えている
「『儂が魔術を作ればいい』」
ああ、確かにそうだ
この世界に魔術が無い?
なら、俺が魔術を生み出してやる
これは、俺が魔術を作る物語
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