詐欺電話

竜乃 愛者

電話の都市伝説《森山の電話番号 ■■■‐■■■■‐■■■■》

警察に尋問された男一人、のぶという犯罪者が居た。

そいつは一か月前捕まるまで電話で詐欺をし続けた犯罪グループ幹部の一人でにあってから外へ出ることを恐怖している。

刑務所が安全だというくらいに―


允は自身のやった行為、グループ全員の行為を正直に自白し起きた事件すべてを認めた。

常に世間に不満を持っていそうな顔立ちで険しい顔立ち。きっちりとした佇まいの男だったのだが、今では漆黒の髪も全て白髪になるくらい精神的に追い込まれていた。


スマホは頑なに触れようとしない。

自白後、偶々近くの警部が鳴らしてしまった着信音を聞いてからは怯えて真面に話せる状況ではなかった。数週間が経って落ち着き、後はただ罰金を払い懲役帰化を待つだけの彼が話した奇妙な話。


「それじゃ、話してほしい。ゆっくりでいい。あの日君と一部仲間以外の幹部やボスが虐殺された一部始終を。」


「…ああ。あれは恐ろしい。思い出すだけで鳥肌が立って仕方がないほどに。」



あれは逮捕される四日前のことだった。

俺はそこそこ大きな、海外の仲間とも手を組んでなかなかの大金を月一で稼げる中規模グループに所属していた。

中では何個かの部門に分かれて行動して俺は電話やパソコンを使った詐欺で大金を下させる、又はそれを操るグループにいた。


その日、纏めるばかりで手が訛ってしまっていないかということで久々に詐欺を自身で行うことにしたんだ。

ターゲットは森山 利久雄。分かっているのは電話番号と家族構成、住所、職業のみである。それだけで十分な情報ではあるけれど若干奇妙な家族構成だった。


父母は数年前に死亡。祖父母父方母方おらずの一人っ子。丁度十八歳成人で一人暮らしで親を呼び出して金を出すよう脅迫することはできないが、まだ成りたての若造だ。上手く口車に乗せてやれば簡単に金を吐き出すだろう。



そのときはまだ恐ろしさを知らない。




俺は後輩らが見守る中、お手本のように電話を掛けた。


「もしもし、森山 利久雄様でお間違えないでしょうか。」


丁寧に警察官を演じてクレジットカードの番号を脅し、恐怖に煽られた心を巧みに操って聞き出す。


「…わかりました。」


チョロい。俺の反応を見た仲間は流石と言わんばかりの期待の笑顔を見せて、中には受け取り役を自分が引き受けようと名乗り出そうな者もいる。


「ですがしかし、一つ気になる点が…」


なんだ面倒だな。了承はしているのだからどうせ再度確認とかだろう。

それでも変に気づかれないように取り繕って言葉を送る。


「何でございますか?」


「何故警察官なのに、に居ないんですか?」


「はい?」


俺は一瞬思考が停まった。そして気がついた。これは言葉から警察でないと判断して動揺を誘って詐欺電話を切らせる手口だ。一旦切ろう。


「どうした允?」


「いやボス、偶々掛けた相手が用心深い相手でして感づかれたみたいです。すみません。」


「久々だとはいえ、お前のかなりの口騙しに気がつく者がいるとはな。

おい!このターゲットを出したのはどこのどいつだ?!

もっと頭の回らん老人を選べ。」


ボスは俺を叱らず、仲間も責める態度はとらなかった。

そうだ、偶然相手が悪かったのだ。

そう思っていたのは束の間だった…


俺が掛けた電話から再び電話が掛かってきたのだ。詐欺してきた奴に掛けなおすなんてどうかしている。刹那に感じた背筋の凍るような感覚を捨て、着信拒否にした。

奇妙な奴だ。

しかしそれで終わらなかった。再び掛かってきたのだ。

三度、四度…妙に怖くなった俺は電源を切り一部始終を見ていたハッキングの天才の幹部の女、佐々木ささきに森山について徹底的に調べるようお願いした。


なんだったんだ一体…


「允さん…」


一個下の後輩、といっても共に仕事をしてもう七年経つ一人前だ。

良いように言えば仕事に真っ直ぐで物事に真剣に取り組む良い奴だ。心が強く俺もボスも頼りにしているほど。

そんな奴が気の抜けた風船のように冷や汗をかいて声を震えさせながら俺に問いかけた。


「先輩はさっき自分のスマホの電源を切りましたよね?」


「?ああ。皆の前でちゃんと切ったぞ。」


「俺の後輩に呼ばれて先輩のスマホに駆けつけてみると…な、鳴っていたんです。」


「は?」


どういうことだ。俺は確かに電源を落とした。目視でちゃんと確認した。

俺が疲れて切り忘れてなんていない。

その画面をここにいる全員が確認している筈だ。監視カメラのからもその様子を視認できる。

俺は再度電源を切り切ったことを、切ることを監視カメラに見せる状態で行った。

管理室に向ってその部署の人に確認を取ると、奇妙なことにカメラからは先ほど映っていた着信画面が一切映っていない。


「あの、すみません。」


一人の管理人が気になることがあると言ってきた。

着信画面が勝手に映る瞬間、一瞬変なものが画面に映っていたという。

変なモノ?

俺と管理人五人、後輩と集まって安心できる人数でスロー再生で確認をした。


すると…

真っ黒なはずの画面に不穏な笑みを浮かべる顔色の悪い青年が映っていた。

…なんだ?気持ち悪すぎる。全員がそう思った。


そうしている矢先にまた電話が掛かってきた。

俺は怖くなり、電源を切って力担当の仲間に壊してもらい廃棄した。

これならもう掛かってくるなんて事はない。

お気に入りスマホだったが仲間の為ならまあいい。


だが…

今度は俺の部署の固定電話に掛かってきた。ま、まさかな。

仲間の誰かか、一般人が間違って掛けてしまったのだろう。少し前のトラウマもあって恐る恐る後輩と受話器を手に取ろうとすると…


「先輩…これって。」


間違いない、森山の電話番号だ。何で知っている?まさか俺のスマホをハッキングして場所を特定した?ならば大失態だ。

俺ら最悪が最悪を呼んでしまったのだ。

音声が流れているとき先ほどまでよりも聞いている人数が増えてそこにいる全員が肝を冷やした。


中には既に言われるまでもなく段ボールに荷物を詰めて別の拠点に移る準備をする者もいた。


『ねぇ、聞こえていますよね?詐欺師さん。僕は貴方らの居場所を特定していますよ

。ネット上の書き込み、通話記録、ハッキング形跡などなど色々とやられているようですね。

いけないですね。まあ僕には関係ないですけど…

けど僕を騙したことは高くつきますよ。なのでこれから貴方方を殺しにいきますので


【首を洗って待っていろ】。』


最後の言葉は声を加工して低い声で伝言を残し不気味な空気のまま電話を切った。

家は騒然とし、恐怖する者もいれば怒りを向ける者もいた。

そしてその感情はより一層強まる。

ハッキング部門の佐々木がについて調べてもらったところ奇妙なことが分かった。


どうやら携帯ショップには森山一家の情報が一式乗っていたそうなのだが電話局を調べてみると俺が掛けた電話番号は”存在しない”ということ。

…は?と意味が解らない。使われていない?なら何故掛かった?後輩と同様薄気味悪さしか湧かない。


更に調べていたら、過去にこの電話番号は使われたことが無く、森山利久雄というその男は存在すらしていなかった。


組織内はざわつく。だがそれはボスの一声で静まった。


「失敗してしまったことはもう過ぎたことだ。それに不気味だと言ってもたかが若人一匹、こちとら殺人専門や暴力事件に関わった者が集っている。それに携帯ショップには経歴があった。つまり実態があるってことだ。

見える存在に恐れる必要なんてない。

イキったクソガキに現実を教えてやろう!!」


発破をかけられた俺含む皆は活気を取り戻して武器を用意し、セキュリティシステムを最大にした。

そうだよな、ガキ一人になに怖がっているんだ。



―けれどそんな考えを持った俺らは馬鹿だった。


ここから十八キロある場所から僅か十五分で不審な人物が現れた。それがだれかなんて言うまでもない、森山だった。彼奴は…彼奴は人間じゃないんだ。

監視カメラに誰も映っていない。それが人でないという一つの証拠だった。

死角に入っただけ?監視カメラは入口の扉の上部左右に取り付けられていたのに?


一人が扉の前に立ち、合図を出して全員が武器を構える。今までのどの時よりも緊張し、ライフルを構えた。

しかし次の瞬間、部屋の電気は非常用電源に切り替わって赤く染まる。

一時戸惑いを感じたが気を取り直して再度扉に標準を合わせると扉の前に見知らぬ男が立ち竦む。


先陣を切った仲間が発砲しようとするが、何故か硬直していた。そして間もなく顔がマネキンのようにフラットとなって集合体恐怖症の人にとって鳥肌の立つ無数の穴が

開き、大量の血が噴き出したのだ。


俺はゾッとした。殺す動作すら見せていないのに目の前で一人殺されたのだから。

精神的に追い詰められた仲間の一人がマシンガンを発砲し、男の身体に鉛を打ち付けた。

男はその場に倒れ込んだ。



何故だろう、これで終わった気がしないのだ。


倒れた男を恐る恐る確認すると、なんと顔が今発砲した仲間の顔とすり替わっていた。

発砲した仲間が判りやすい女の躰だったので立ち位置を入れ替えられたか間違えて発砲したという訳ではないのが直に理解できた。


元仲間のそいつは顔を見せた。

…何とも恐ろしい顔だった。肌は首元よりも死体というくらい白く、口は大きく裂けていると思えるほどの深いな笑みを二重の血まみれの歯を浮かべ、目元は暗く同行は大きく広がり海外のカートゥーンキャットのような目をして骨張った頬によって影が濃くなり歩く憎悪というべきか。そういう顔だったのだ。


生憎、元の仲間が自己犠牲を厭わない主義で違法な豊胸手術で乳房に自爆装置を埋め込んでいた為に臓器売買部門が遠隔で起爆した。

誰の手によっても殺されておらず意識が移る心配を無くして殺した。


―だがそんな方法通用しなかった。

顔は最初に殺された奴同様、穴があけられ大量出血。


その後も発砲や刃物での殺害を試みたが触れられてもいない仲間も次々と殺されていった。まるでお前らに生きる資格などないと言わんばかりに。


俺は恐怖よりも仲間の犠牲を生んでしまった自分を恨んで険しい顔を浮かべる。

それでも無防備なやり方は仲間の命を無駄にするという判断を自ら下し、悔し涙を溢しながらボスの方へ逃げた。


進んでいる途中、通路から悲鳴が聞こえた。

こっそり伺うと奴の顔をした頭だけの化け物が仲間を食い漁っていた。

しかもそいつの片目は穴が開いているのではという程黒く、そこから小さい頭だけの奴が蛆虫のように湧いた。


恐怖と憎悪…それが真っ先に心を埋め尽くした。

小さいのは壁中を埋め尽くし、デカいのが出てきた扉の向こうまで浸食していた。


慌てて逃げるしかないだろう。このとき俺が声を挙げずに逃げたことは褒めてほしいくらいだ。

しかしどういうことだ?何故似た個体が複数体いる?


逃げた先は非常用照明が起動していない空間。

持っていたスマホを取り出してライトをつけた。浸食していない事を理由に油断してただ駆けた。


曲がり角を道なりで進むと、暗い空間に三人ほど立っていた。

一瞬ビビったが、身なりが仲間の物だと気がついて警戒しつつ気楽に声を掛けた。


「なんだ、居るなら居るって…ヒィッ!!」


そいつらは既に俺の知る三人ではなく、顔が森山だった。

挟み撃ちにあってもう終わったと思っていた。

しかし、襲ってくる気配がない。よく見ると三人とも何者かの手で串刺しにされて息絶えていた。


後を追ってくる森山から身を隠すために更に奥へ駆ける俺はそのとき偶々そこにいた佐々木が身を匿ってくれた。

あの時は佐々木が居てくれて助かった。今亡き友にとても感謝している。


―消火栓のケース内に入れて匿う佐々木の前を通り過ぎる森山。

どういうことだ?どうして奴らは佐々木を見逃した?


「奴らは現場で直接、間接関係なく自身の声を耳にした者を虐殺しているそうだ。

その証拠として僕以外にも現場に居なかった者は見つかっても襲われていない。けど刺激した奴は問答無用で殺されている。」



どうして俺はあの現場の第一人者だったのだろう。あのとき、せめて俺以外の奴が電話に出ていればあんな恐怖は味わうことはなかったのかもしれない…

このときの俺は既に強い仲間意識なんてなかったのかもしれない。


ただただ怖さに狩られて――


その後他の生き残った仲間と集合してボスの元へ向かったんだ。唯一の要。

だが、もう遅かった。ボスは顔の半分が穴だらけとなり息絶えていた。周りを見渡すと他の仲間と森山の頭死骸が転がり落ちていた。

勇ましいと思ったよ。あんなのと張り合ってボスとしての威厳を置いたまま死んだのだから。

だから生き残ってやると思ったんだ。

佐々木とは腐れ縁であったからこいつの心の強さは知っている。だから心強かったんだ。


ボスと死んだ仲間の分も生きようと追い回して道を塞ぐ森山を掻い潜り外に出ることができた。

地獄から脱出して嬉し涙を溢したよ。気が付けば脱出するのに三日が経過していたんだ。デスゲームへ別れを告げられるような気持でいたよ。


でも同時に感じた。これは神様が与えた罰なんだって。因果応報。

これから残った仲間とやり直しをしよう、自首して刑務所出たら償いをしよう。

佐々木とも仲が親密だ。これから二人で子供を育んで少しでも良心を取り戻したことを神様に伝えよう。それが唯一できることだ。


――――――――――――――――――



「それは叶うはずがないよ。」


「!?」


気が付けば一人乗っ取られていた。

神様は許してくれなかった。最後まで今まで与えてきた恐怖を受け続けなければならない。森山も俺も酷い奴だ。


事故って燃える車から無傷で現れる森山。

奴が出た瞬間周囲の空気が変わった。雲には生々しいほどの人の口が生え、海には森山の眼が沢山浮かび、佐々木以外が殺され開けられた穴から小さな森山が湧き出て…


万事休すだった。

最後に俺を生かすために前に出た佐々木。もういいって…

だがそれが佐々木だ。焼けかけた喉のせいで上手く声が出ないが言っても聞かないだろう。悔しい、こんな選択しかさせてあげられなかった俺が妬ましい。


佐々木は体内に埋め込んだ高熱で反応する爆弾を起爆するため全裸になり熱源へ足を運ぶ。必死で声を挙げたが届かなかった。

彼女が足を止めた時も俺の声が届いたからじゃない、既に森山に阻止されていたからだ。

それぞれの乳房には森山の顔が気持ち悪くついており、起爆装置が壊されていた。


「ごめん允、無理だった。そして、《お前のせいで僕らは死んだ。》」


最後に佐々木が吐いたこの言葉、きっと本人の言葉ではない。森山の言葉だ。

でも俺の所業を考えれば言われても仕方がない。

全うな人生も、詐欺師としての仲間との絆も何一つ突き通せなかった。

絶望に満ちた俺は号泣した。その目の前で佐々木は散った。



もういっそ殺してくれ…

森山がお望み通り殺そうとしてくれたが、生憎日の出の時間帯となって森山は消えた四日目の朝―


俺だけが許されず恐怖を忘れさせてくれないまま生き残された。




「…苦労したんだな。

話してくれて助かったよ。」


「…ああ。だが二度とこの話は聞かないでくれ。」



刑務所に戻る俺。

とても心地よい。一人で、警備員以外入ってくることはなく、静かに反省できる。

ここで一生を終えた―



「出来ると思った?」


「そ、そんな…まさか!!」


目に移る壁のシミ、鉄格子の外、そして俺を担当した警備員さえ森山となって―




………



その後、男は刑務所で何者かによって殺され死亡が確認された。

警察はこの事件を公にせず、都市伝説の一種としてネット上で語られた。













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