第14話

 目を開ける。咲はいつの間にやら自室のベッドの上にいた。蒼のお陰に違いなかった。

(まだ、呼びかけたら蒼にもう一度会えそうな……)

 視線を横に向ければ、ざっくりと切りさかれて二度と着れないであろうゴスロリがそこにある。

 それだけが、蒼がいた証。

『過去にも蒼にも囚われない。私は、今を生きてみせるから』

『僕を救えたのは咲だけ。ありがとう。……ごめんね』

(全て、夢だったら良かったのに。でも、あのままじゃ二人とも前に進めなかった)

 蒼は、咲の過去と夢の具現とも取れるのかもしれなかった。

 リビングに降りてみれば、両親がテレビを見たり、朝ごはんを作ったりしている。

 側から見れば、あの一連の出来事も咲と篠宮のわずかなすれ違いでしかないのかも知れない。

 ニュースには、咲の知らないことばかりが流れていく。咲は、新品同然の制服を着た。


 その日は、何事もなくいつも通りに流れていった。酷く眠そうな篠宮の功績は咲しか知らなかったし、咲の決断についてだって知っているのは篠宮だけだろう。

 放課後、日の傾いた頃。

「ちょっといいか」

 篠宮が咲に話しかけてきた。

「あの服、着るのやめたんだな」

「もう着れなくなっちゃったからね」

「そうか」

 沈黙が流れる。互いに思うことがあるのだろう。沈黙を破ったのは、咲だった。

「あのね私、蒼のこと死んでも忘れないと思う」

「他の道もあったと思うか?……あいつの側とこちらを分けないままで」

「思うけれど、今の私たちではこれしか方法が無かったかなって」

「そうか」


 蒼について、咲に寂しさがないわけではない。むしろ心に穴が空いたようであった。けれど、新たな未来を歩む覚悟がそこにはあった。

「お前、その制服姿も似合ってるな。……もう、ゴスロリは着ないのか?」

「ううん、気に入ってるから。新しいのを買ってまた着るつもり。蒼との思い出で、私の存在そのものだから」

「言うようになったな」

 窓の外の空は曇っていた。ただ、雲の切れ間から光が差し込んでいる。

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