最終章 選択

第12話

「もう、無理だってわかっているだろ」

 『空間』に声が響く。その声は蒼の声でも咲の声でもない。


 現れたのは篠宮だった。

「何で、ここは僕と咲だけの場所。他の人は絶対入れないはず。出てけ、出てけよ」

 篠宮はつかつかと二人に歩み寄る。

 咲を挟んで蒼と篠宮が向かい合った。

 二人は鏡に写したかのように似ている。雰囲気は正反対で、声はかすかに篠宮の方が低い。


「中途半端に閉じて、勝ったとでも思ったか。お前の側と、咲の側の境界を管理しているんだ。入れて当然だろ」

 それに、と言って篠宮は続ける。

「蒼だって気づいているだろ。咲はもう選んでいる。永遠に閉じこもるのは、咲の意見を聞いた後でいいんじゃないか」


 蒼の顔色は紙のように白く、息も荒くなっている。『空間』の変形にひどく力を使っているためだ。玉座の前まで蒼はふらふらと移動して、篠宮を掴む。かろうじてと言うふうに蒼は口を開く。掠れた声だった。

「何回、言ったら、分かるんだよ。咲は、こんなに、小さくて、弱くて、脆い。守ら、なきゃ。だから、ずっと」

 篠宮は呆れたと言うように、淡々と蒼に語りかけた。

「一体いつの咲を見てるんだよ。それとも今の咲は、変わろうとしている咲は認めないのか?」

「咲が僕から離れるなんてありえないんだ、きっと、きっと」


 蒼の身体がぐらりと傾ぐ。篠宮が蒼を掴み返す。

「黒薔薇の誓いの期限を作ったのは、他でもないお前だろ」

「……さ、咲は僕を裏切ったりなんか、しないよ。絶対に」


 黒薔薇の誓い。

 それは決して、蒼が咲に教えたように『二人がずっと一緒にいる』誓いではない。

『蒼が咲と離れないために無理やり繋ぎ止めた』ものである。

 そして、誓いの期限は『咲が蒼に依存するのを辞めるまで』。


 口論から取っ組み合いの喧嘩になってもおかしくないほど、場の空気が凍りつく。

 途端、声が響いた。


「……二人とも、何してるの? それに、なんで篠宮くんがいるの?」

「「え」」

 目を開いた咲は、不思議そうに二人を見て、それから状況を理解したようだった。

「そっか。決めたんだ、私」

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