第3章 暴走
第9話
教室の片隅。夕方の空は空の低いところの橙と、高いところの群青が混ざり合って、薄桃色の空が広がっている。
咲はひとり、悩んでいた。
蒼と永遠に一緒にいるか、蒼と決別してこの世界だけで生きるかの二択。
『その時が来たら、僕を選んでよ。絶対』
『絶対にあいつの言葉に惑わされるな』
蒼と篠宮の意見は対極だ。
「私に、何を選べって言うの」
咲は、選択を迫られている。
これからも『空間』で蒼と生きて、いずれは二人きりの世界に籠るのか、蒼と二度と会わずにこちら側だけで生きるのか。
「これまでと同じじゃ、どうしてだめなの?」
あれからも、周りは何も知らずに日常は進んでいく。篠宮が転入生として特別視されることもなくなっていた。
咲は篠宮とは、何度か話していた。前ほどの苦手意識は無くなったながら、どこか距離のある関係は続いている。
(蒼は、なんだか最近過保護だな。やっぱり、黒薔薇の契りのこと……)
ぐにゃりと視界が歪む。それは咲の部屋でしか起こらないはずの出来事だった。
目を開ければ、蒼がいる。いつものあの『空間』だ。だが、全てがこれまでとは違う。
「大丈夫、丁寧に扱ってあげる。君は弱くて脆いから守ってあげる。僕の妹なんだから。ずっとずっと僕を頼ってよ。咲は僕だけを見ていればいいんだ。朝から晩までずっとずっとずっと。篠宮なんかにたぶらかさせない。ニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイ」
数日前に突如として空間の真ん中に現れていた玉座のようなもの。そこに咲は座らされて、鎖で拘束されている。ゴスロリ姿も相まって、咲は囚われの女王のようだ。
そして、後ろから目に光のない蒼が上から覆い被さるように抱きついていた。
ゆっくりと、『空間』が閉じていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます