第8話

「時間、とってもらって悪いな」

「ううん、大丈夫。ところで篠宮くんは何か頼むの?」

 騒動から数日。二人はとあるカフェで待ち合わせをしていた。入り口の犬の置物が愛らしく、木でできた椅子と机が温もりを感じさせるカフェだ。


 店員が注文を取りに来た後、篠宮が立つ瀬がなさそうに言った。

「この前は、混乱させて悪かった。状況に焦るあまり雑な伝え方になってしまった」

「う、ううん。私こそ急に逃げてごめん。あんな逃げ方しちゃって。あの後の先生たち怖かったよね」

「側から見たら校内で全力で追いかけっこしているようなものだったからな、俺ら」

 まだ互いが打ち解けきっていない故に、気まずい空気が漂う。


「最近クラスに馴染んできたよな。お前」

先に話を切り出したのは篠宮だった。

「確かに、前みたいなことは減ったかも」

 騒動のおかげか知らないが、咲にはあれから友人が数人できた。

『前は人形めいて話しかけにくかったんだよ、変わってるし。……今? 今はね、人間って感じ』

 数日前に友人と交わした言葉を思い返しながら、咲は嬉しそうに言った。

「篠宮くんもかなり馴染んできているよね。なんか、最初からいたみたいに」

「こちらミルクティーと、ダージリンティーでございます」

店員が飲み物を持ってきて会話が途切れる。咲と篠宮の前には紅茶がことりと置かれた。


 ミルクティーに口を付けてから、咲は篠宮に話を切り出した。

「ところで、この前篠宮くんはこちらと蒼の『空間』を区切ってるって言っていたよね」

 篠宮は頷く。

「もう少しだけ、どんなものか教えて欲しいなって」

「ほとんど普通の人間と変わらない。ただ、二つが混ざりすぎないように監視するだけだ」

「そっか」

 篠宮はあまり多くを語ろうとはしなかった。咲も無理に深掘りしようとはしない。程よい距離感がそこにはある。


「ガトーショコラとフルーツケーキです」

 会話はまた、店員の運んできたケーキによって途切れた。咲の前にはミルクティーとガトーショコラ、篠宮の前にはダージリンティーとフルーツケーキが並んでいる。

心地よい静寂は二人がそれぞれのケーキを食べ切るまで続いた。そして会話はもう少しだけ続きそうだった。

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