第7話

 大理石でできているかのような床に、どこまでも広がる『空間』の片隅。

「ごめん、蒼。昨日は会いに来れなくて」

「別に。また篠宮と会っていただけでしょ」

 珍しく蒼は不機嫌だった。

「ううん、初めて仲のいい友達ができたんだ。それで昨日はちょっとね」

 クレープを食べに、と咲が続けようとしたところで、

「そっか、咲は僕のことなんてどうでもいいって言うんだね」

 蒼が咲の腕をきつく掴む。蒼の形相が変わる。こんなことは、蒼と出会って初めてのことだった。

「痛い、離して」

「ほらね、咲はこんなに弱い。だから僕が、全てから守ってあげる。ずっとずっとここにいなよ。咲には僕だけがいればいい」

「ねえ、蒼。どうしちゃったの」

 どこまでも広かったはずの『空間』に壁ができ始めていた。床には裁ち鋏が現れ、いつのまにか、玉座のような椅子すらできている。


 次に気づいたとき、咲はみずからの部屋にいた。あの状況から一体どうやって『空間』を抜け出せたのか思い出せもしなかったが、酷く息が上がっていた。周りを見回せば、ゴスロリのたっぷりとしたフリルの裾が、縦に裂けている。

(本当に、最近の蒼おかしいよ。この前まであんなに穏やかだったのに)

 窓の外を見れば、土砂降りの雨が街を暗く包み込んでいた。

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