第6話

「今、なんて……」

 起き上がり、その場に座り込んだ咲の声は酷く震えていた。

「どうして、どうしてそれを篠宮くんが知っているの?」

「それは、肯定として受け取っていいんだな」

 冷淡な声が廊下に響く。

「どうして知っているかは単純だよ」

 篠宮は続ける。

「俺は、あの『空間』と、こちらの世界の境界を管理している。それだけだ」

 何も知らないものが聞いたならば、滑稽にしか聞こえなかったかもしれない。だが、咲にとっては、彼が現れてからの蒼の異変に答えを与えられたようなものだった。

「篠宮くんは、蒼のことも知っているってこと?」

「もちろん」

「蒼が何かおかしいことも?」

「ああ、というか声を掛けたのもそのためだ」

「どうしたら、蒼はいつもの蒼になってくれるの?」

「少しは質問攻めにしないで、自分で考えたらどうだ」

 篠宮は呆れたように口を開いて、これで質問は最後だと言った。

「何もしなくていい。もうすぐ、黒薔薇の契りの期限が切れる」

 篠宮はまっすぐ咲の目を見つめている。

 目は、吸い込まれそうで夜空のような目だった。

「この世界を選べ。絶対にあいつの言葉に惑わされるな」

「なんで、そんなこと……」

「このままだと、あいつの側に浸かりすぎて戻れなくなるぞ」

 黒薔薇の契りが切れてしまえば、もう、咲のこのゴスロリに意味はなくなる。同時に、蒼と出会う、あの甘美な時間は二度と訪れないことを意味した。

『咲はもうすぐ選ばなきゃいけないんだ』

『その時が来たら、僕を選んでよ。絶対』

 咲の脳内で、壊れたテープレコーダーのように、いつかの蒼の言葉が反響する。

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