第6話
「今、なんて……」
起き上がり、その場に座り込んだ咲の声は酷く震えていた。
「どうして、どうしてそれを篠宮くんが知っているの?」
「それは、肯定として受け取っていいんだな」
冷淡な声が廊下に響く。
「どうして知っているかは単純だよ」
篠宮は続ける。
「俺は、あの『空間』と、こちらの世界の境界を管理している。それだけだ」
何も知らないものが聞いたならば、滑稽にしか聞こえなかったかもしれない。だが、咲にとっては、彼が現れてからの蒼の異変に答えを与えられたようなものだった。
「篠宮くんは、蒼のことも知っているってこと?」
「もちろん」
「蒼が何かおかしいことも?」
「ああ、というか声を掛けたのもそのためだ」
「どうしたら、蒼はいつもの蒼になってくれるの?」
「少しは質問攻めにしないで、自分で考えたらどうだ」
篠宮は呆れたように口を開いて、これで質問は最後だと言った。
「何もしなくていい。もうすぐ、黒薔薇の契りの期限が切れる」
篠宮はまっすぐ咲の目を見つめている。
目は、吸い込まれそうで夜空のような目だった。
「この世界を選べ。絶対にあいつの言葉に惑わされるな」
「なんで、そんなこと……」
「このままだと、あいつの側に浸かりすぎて戻れなくなるぞ」
黒薔薇の契りが切れてしまえば、もう、咲のこのゴスロリに意味はなくなる。同時に、蒼と出会う、あの甘美な時間は二度と訪れないことを意味した。
『咲はもうすぐ選ばなきゃいけないんだ』
『その時が来たら、僕を選んでよ。絶対』
咲の脳内で、壊れたテープレコーダーのように、いつかの蒼の言葉が反響する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます