第4話

「やあ、また来たんだね。咲」

 嬉しいよ、と言いながら蒼は微笑んでみせる。咲は、蒼に転入生の篠宮について相談しにきたようだった。

「ふぅん、転入生か」

 どこまでも広がるような不思議な『空間』で、蒼は、誰にとでも無く呟く。

「そう、なんだけれど」

 咲は顔を曇らせる。

「隅から隅まで観察され尽くしているような、気がして」

 咲はぎゅっと、ゴスロリの裾を掴んだ。

「そっか、咲はその転入生が、怖いんだね」

 蒼は少し表情を曇らせ、すぐにふわりと微笑みながら続ける。

「実はね、咲はもうすぐ選ばなきゃいけないんだ。だからだね」

「何を、選ぶの?」

「その時が来たらわかるんだ。でもね」

 これまで蒼は咲にとっていちばんの相談相手で、癒しだった。

「その時が来たら、僕を選んでよ。絶対」

 明るく振る舞おうとしている事が透けて見えた。蒼の中にはくらい何かが芽生えている。


 蒼が咲の訪問にすぐに気付けるのはあのゴスロリのお陰だ。あの服によって、咲の世界と安定して繋がれるだけではない。このどこまでも続くような『空間』で、あの色は目立つのだ。

 ふわりと揺れるレース。無数のリボンに目を引く赤薔薇。艶やかな黒髪に、あどけなく愛らしい笑顔。

 ここにやってきては、いつも蒼を頼ってくれる唯一の存在。

 弱くて脆い、守らなければいけない存在。

「ずっとここにいて欲しいのに。戻らなきゃ、幸せなままで居られるのに」

 蒼はため息をつく。

 ぽつりと呟かれた言葉は、届かない。

 咲への彼の視線は視線は、毎日だ。

 篠宮颯。

 咲のクラスに突然やってきた存在。

 行動は、まるで咲に近づこうとでもしているかのよう。

 咲への目はゴスロリ姿への奇異の視線だけでなく周りからの嫉妬も含まれるようになったことなど、きっと彼は気付きすらしていないだろう。それで、どれほど咲が怯えて戸惑っているかなど。

「咲は渡せないな、絶対に」

 蒼の元に毎日咲はやってきてくれる。彼の狙いが何であるのかなど、咲に知る由は無かった。

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