第2話

 咲は自らの部屋へ向かう。

 扉を開ければ勉強机とベッド、そしていくつかの本があるだけのシンプルな部屋だ。

 咲は、他に誰もいない自室に声をかける。

「蒼、いるんでしょ」

 途端、一瞬景色が歪み、艶やかな床とどこまでも広がるような『空間』、そして十代後半ほどのまま姿の変わらない青年が現れる。

「咲、おかえり。今日の話、聞かせてよ」

「大した話はないけれどね。今日もいつも通り」

「また、何か言われたんでしょ、その格好のこと」

 確かに、この格好のせいもある。でも、これを始めてからもう、5年も経っているのだ。もう、慣れている、はずだ。

 咲の瞳が微かに揺らぐ。それでも、すぐにいつもの調子に戻って呟いた。

「大丈夫、だって蒼がいるんだから」

 ずっとこのままとはいかないことくらい、咲にだって分かっている。

 見た目は派手ながら、教室では気配を消すようにひっそりと過ごす生活。授業が終われば、部活にも出ず家に直行する。

 潜水艦にも例えられそうな咲の日常。

 自ら選んだ道とは言え、彼女は毎日好奇の視線にさらされ、周りから浮き続けている。

 これまで、彼女自身と深く関わるものはいなかった。

 心無い言葉が、深く咲の心に突き刺さる。

『もっと協調性ってもの、ないの?』

『ちょっと、話しかけるのやめなよ、あんなイタイ子』

『咲ちゃんって、変わってるよね』

 周りとの交流を絶っているとは言え、いくつかの言葉は咲の耳にも届く。それらが真綿を絞めるように咲の心に傷をつけていく。

 それでも、この生活を辞めるつもりは無かった。

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