【完結】黒薔薇の誓い〜ゴスロリ少女と不思議青年〜
及川稜夏
第1章 日常
第1話
小学校の教室の片隅。咲は周りから遠巻きに見られていた。思い返せばいつも、どこの教室でも咲は「転校生」でしかない。
『自己紹介をしてください』
『教室の場所、教えてあげるよ』
『どこから来たの?』
『そっか。転校しちゃうんだ。またね、咲ちゃん』
いつも関係は広く浅く。どうせすぐその場は去らなければならないのだ。
土地も環境もすぐに変わっていく。咲はいつも新しい環境で人間関係を築く必要があった。変わらない関係は家族と蒼だけだった。
大理石でできているかのような床に、どこまでも広がる『空間』。時折歪むその一角に二人はいた。
「もう、嫌だよ。新しい友だちができてもすぐに離れなきゃいけない」
小学校高学年ほどの少女は、その艶やかな黒髪が乱れるのにも構わず、泣きじゃくっていた。
「そっか、辛かったね。咲」
咲の頭を優しく撫でている青年は、十代後半ごろの年齢だろうか。
穏やかに咲をなだめる青年は、夜空のように落ち着いた、優しい目をしていた。
「ねえ、蒼。蒼はずっと一緒にいてくれるよね。ずっと、友だちでいてくれるよね」
蒼は、数秒考え込んで、それから努めて笑顔で言った。
「咲、フリルがたくさんある、可愛い服は好き?」
「好きだけど……。それがどうかしたの?」
「僕に、大した事はできないけれど……。ここには、黒薔薇の誓いっていうものがあるんだ」
咲は、きょとんとした顔で問いかけた。
「黒薔薇の、誓い?」
「そう。可愛い服を使った、とっても強い約束なんだ。交わしてくれるなら、きっと、ずっと一緒にいてあげられる。だから……黒薔薇の誓いを」
誓いは、二人を固く結びつけた。その日以来、『空間』が歪むことは無くなった。
あれから、5年経つ。桜が咲き誇る道を、高校生になった咲が歩いていく。彼女のまっすぐで艶やかな黒髪が暖かな春の風になびく。
一年すでに使われた通学カバンを手に持ち閑静な住宅街を歩く彼女の姿は異質だった。
すれ違う人々には二度見する人もいる。同じ高校に通っているであろう、制服を着た人たちも時折、ひそひそと噂話をしている。
咲は、彼らを気にも留めず、歩いていく。
この見た目だけで有る事無い事を言われるのはいつものことだ。
無数のフリルに、ふわりと膨らんだスカート、無数のリボン。着ているものはほぼ全て黒で、いくつかの赤薔薇の刺繍が目を引く。
まるで、人形が歩いているかのよう。
咲自身が一番わかっている。彼女の登校姿がどれほど人目を引くのかなど。
それでも彼女にとって、ゴスロリだけは譲れないのだ。全ては、蒼との契約のため。
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