第6話 見ている


 それから私は、ミゼリに着いて行きやがて見通しの悪い学院の隅にある倉庫にたどり着いた。


 ミゼリはご丁寧に、途中途中で釘を刺してくる。


「不審な動きをれば、仲間に連絡をして王女を殺すわ。大人しく着いて来なさい」


 ─キョロキョロ周りを見ていたのがお気に召さなかったらしい。

 倉庫へ向かうと入口に男が立っている。ミゼリはその中に入っていった。


 倉庫ごと焼き払ってもいいが、国のためにも目立つ方法は避けなければならない。面倒くさいが中に入って直接潰そうか。


 中に入ると、何人かの男女がそこに立っている。

 皆似たような黒を基調にした服装に身を包んでいる。


「案内ありがとうございます。ミゼリさん」


「余裕あるのね。あなた自分の状況わかってるかしら?」


 周囲の人物の中には見た事がある顔が何人かいた。


「フィリップさん、だったっけ。あなたもそうなんだ」


「今更知られたからと言って君にはどうしようも出来ないよ」


 フィリップが得意げに語る。

 ミゼリが笑いながら口を開く。


「フフフッ、能天気なお姫様の護衛も大変ね。ラグスタルの魔道士さん?」


 どうやら私のことを宮廷魔道士と思っているようだ。王女の護衛で魔法学院に来るなら、そっちの方が適任だと思うのも無理はないが。


「体術教師は姫の護衛かしら?ご苦労な事ねぇ。魔法が使えないなんて嘘まで言っちゃって」


 団長も同じだと思われているようである。同時に来たのが怪しまれ、フィリア様と接触したことでバレたか。

 反省点だ。帰ったらシンドウにどうすれば良かったか聞いておこう。


「何か言ったらどうかしら?貴方これから殺されるのよ」


 未だに無言で無表情の私を見て気に触ったようだ。少し苛立ちを込めた声でミゼリが圧をかけてくる。

 無様に恐怖に飲まれる演技をしてやってもいいが、無駄なエネルギーを使っても、ウルコの話のネタになるだけだ。

 さっさと終わらせて帰ろう。


「...」


「チッ!楽しみがいが無いわね」


 未だに無言を貫く私を見てミゼリは苛立ちを隠せない声で周りの連中に指示を出す。


「痛めつけて、教師の方を呼び出させなさい。その後は好きにしていいわ」


 ミゼリが声をかけると。周りの人間が手をこちらへ向けてくる。


「王女誘拐による、国家間の戦争の誘発」


「なに!?」


「あなたたち【黒死】の目的よ。合ってる?」


『なぜその名を!?』


 周りがザワつく、警戒が強くなるのが分かった。


「構成員たちは全部で7人。ボスはラグスタルに滅ぼされた国【ドスカル帝国】の騎士団長【バーノン】」


「あの方の名前を何故お前が!!」


 もはや全員が臨戦態勢だ。


 その時、頭の中に念話が届く。


『王女の保護が完了した。狙っていた刺客も確保済みだ。あとは頼んだぞポラリネ』


 何故知っているか答えるとするならば、この頭の中に響く声の持ち主億里眼の少女ウルコが全て教えてくれたからだ。




 〜〜〜〜〜



「エルシア国に?」


 研究所にて、ウルコに呼び出されたシンドウは話を聞いていた。


「くだらない組織を見つけたが、まだ事を起こしていない以上捕まえることが出来ない。事を起こすまで滞在して欲しい」

「今丁度、お転婆な姫が国王に突撃してエルシア滞在の許可をもぎ取ろうとしている所だ。護衛として着いて行けば臆病なエルシア国王も断りずらいだろう。

 団長の思考を誘導しておく。護衛にはお前が推薦されるはずだ」


(相変わらずじゃのう)


 とシンドウは感心する。

 世界を巻き込む戦争も、国を混乱に陥れる事件も。

 悪巧みをした時点で、この少女は見ている。


 犯罪者からすればたまったもんじゃない。どういう計画で何をしようとしているか。全て覗かれ、実行前に理不尽な暴力によって潰されるのだ。


 ラガンが絶対的な信頼をこの少女が持つ力に寄せている理由も分かる。

 団員達が起こす問題も同様に解決してきているからだ。


「王女を見つけたら馬鹿でなきゃ、それを利用しようとするだろう。出来る限り自由にさせて目立たせろ」


(王家の者に対してなんて言い草じゃ、囮にするとは)


 国王にはこの事は絶対に話せないと考えながら、疑問を口にする。


「団長には伝えんのか?」


「伝えたらその日のうちに一人でエルシアに乗り込むだろう。罪も犯していないのに潰してしまっては、団長が他国に侵攻して暴れただけの罪人になってしまう」


 シンドウの頭に「何故だ!?」と手枷をつけられ、叫んでいるラガンが思い浮かぶ。


(国に対する忠義が高すぎるのも考えものか...)



「あい分かった。直ぐに準備しよう」


(団長一人で制圧できるならワシでも大丈夫じゃろ)


 なんにせよ、この少女が言うことなら問題は起きない。

 研究所を出ようとするシンドウに後ろから声がかけられる。


「頼んだよおにぎりくん」


「その呼び方はやめろ!」




 進藤隼人。

 享年26歳、おにぎりによる窒息死の後、この世界に転生。



 〜〜〜〜〜



 ポラリネはシンドウ同様、呼び出された時点で全てを聞いていた。


「復讐心から行動するのは辞めておいた方がいいわ。もう遅い忠告だけど」


「質問に答えろ!何故あの方「遅いと、言ったはずよ」───」


 瞬間、ポラリネの周りにいた全ての人間の動きが止まる


「【絶対零度アブソリュート・ゼロ】」


「シンドウ達みたいに生まれ変われるなら、次は後悔しない生き方をしなさい」



 冷たくなった人間たちを背に、ポラリネは倉庫を後にする。


『終わったわ。死体の回収はよろしく』


『ご苦労。団長と合流してシンドウの所へ向かってくれ』


『私である必要はあったの?』


 初任務にしてはやりごたえがなかった。この程度の仕事なら団員たちなら誰でも出来る、どころか団長でも出来るだろう。


『お前である必要はあるぞ?王女は今後もそこに滞在するからな。一番魔法が得意なお前が適任だ』


 げ。と思わず声を出すポラリネ。


『護衛の任務だと教えただろう?1年は覚悟しておくんだな』


『えぇ〜。あれ?じゃあ団長は?いる必要あった?』


『団長はただの息抜きだ。先日お茶の時間に発狂しかけたと、ケンタウロスから報告を受けたからな』


 ポラリネはいい事を聞いたとニヤリと笑う。


『案外優しいわね、それとも団長だからかしら』


 少しばかりのお返し、決してしばらくアレンと会う事が出来なくなった八つ当たりでは無い。


『そろそろ念話を切るぞ、アレンとシンディの二人に任務を頼まなくてはいけないからな』


『待って!!私が悪かったから!』



 返事は帰って来なかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る