第3話 人馬一体


 ラグスタル騎士団宿舎


 人外蠢くパンドラボックス


 ハカセの魔改造によりシェルターと化した宿舎は、いつしか開けてはならない箱へと変貌を遂げていた。


 今日、ラガンはそんなバケモノ達の巣窟へと訪れている。


 プシュー


 音を立てて、金属製の扉が開く。

 中に入ると受付のようなカウンターが目の前にある。


「これは団長殿、今日はどう行った御用で?」


 カウンターの奥に座る馬の被り物をした男が話しかける。


「いつもご苦労【ケンタウロス】。今日は定期の見回りだ」


「礼には及びません。私にしか出来ない事をやっている迄です。見回りならば、護衛に【KIKI】殿をお呼びいたしましょう」


「そうだな、今どこに「KIKIはここです。団長」」


 ラガンが人を探すように周りを見回すと、パッと女が現れる。


「急に現れないでくれ、心臓に悪い...」


「心機能の停止程度であればKIKIが蘇生いたします」


「そういう問題じゃなくてだな...」


 KIKI、殲滅用人型機械生命体。

 アルシンニルブス星からやってきた存在である。


 彼女はこの星の制圧を目的として襲来してきた存在であったが。1年前のあの日、想定外の大量エネルギーを観測し、入団試験会場に現れた。

 元々1機で星を制圧する予定だったのだが、試験会場に集まった戦力により失敗の可能性が浮上したため任務を放棄して住み着いている。


 騎士団の中でも個としては最強の存在であり、この宿舎の化け物達への抑止力として働いている。


「まあいい、今日はあいつらの見回りだ。早く終わらせるとしよう」


「KIKIが殲滅すれば、一瞬で終了しますが」


「なんでもかんでも殲滅するな!人ではないというだけで、ここに入ってもらっている奴もいるんだ。どうにかする手段をウルコとハカセが今考えている」


「なるほど。確かに彼らは素晴らしい、先日はKIKIに3分タイマー機能が搭載されました」


「カップラーメンでも食べるつもりか?」


「いえ、現在時刻から前後合わせて3分間、時間を跳躍します」


「...」


 ラガンは聞かなかった事にした。


「団長の聴力低下を確認しました」


「しとらんわ!!」






 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 ラガンとKIKIが見回りに向かいしばらく経った後


 ケンタウロスはカウンターで紅茶を飲んでいた。

 馬の被り物の口にカップを近づけると、中の紅茶が消える。


「我ながら良い出来です。今度団長殿に茶葉の販売でも打診しましょうか。おや?」


 部屋にラガンを抱えたKIKIが入ってくる。


「お疲れ様ですKIKI殿。団長殿はどうしました?」


「【■■■■】様の精神攻撃による自我崩壊の危機を避けるため、一度心停止させました。今から蘇生及び記憶処理します」


「またですか。団長殿も諦めませんねぇ」


 ケンタウロスは呆れたように首を振る。


「蘇生進行度10%」


 胸に置かれたKIKIの手が光ったかと思うとラガンの顔に血の気が戻っていく。


「処置を終了します」


「ぶはぁ!!なんだ!?何があった!?」


「おはようございます団長殿。疲れでも溜まっていたのでしょう、寝てしまったようですよ。今日は早めに帰るのがよろしいかと」


「お、おう。そうだな!すまない」


 ラガンは混乱しながらも立ち上がり、宿舎を出ていく。


「さて──」


 ケンタウロスは立ち上がり、ラガンが出ていった扉とは逆、KIKIがラガンを抱えて戻ってきた方に視線を向ける。

 隣にはいつの間にかKIKIが臨戦態勢で立っている。


「毎度宥めるのも疲れるのですが...」


 その時、宿舎内の光が全て消える。

 停電ではない。光魔法さえ通さぬ黒が部屋を覆い尽くす。


 やがて、黒の奥から何かがやってきた。

 形すら定まっていないモヤ。

 黒より黒いその存在は、何故か聞きとれるような音を発し。二人の元に近づいてくる。


「■■■■■■■■■■■■■■」


「残念ながら■■■■殿を団長殿の所へ向かわせる訳には行きません」


「■■■■■■■■■■■■■■」


「ええ、邪魔します。団長殿と飲む紅茶が日々の楽しみの一つなので」


「■■■■■■■■■■■■■■」


「あなたもいつか分かりますよ」


 KIKIは既に攻撃態勢だ。■■■■と言えどもKIKIの攻撃を受けてしまったら無事ではすまない。


「■■■■■■■■■■■■■■」

「■■■■■■■■■■■■■■」


「馬鹿な人間?団長殿はそうでしょうが、私は馬ですから」

「そしてKIKIは美少女「KIKI殿は一旦お静かにお願いします」...」


「■■■■■■■■■■■■■■」


 やがて、■■■■は黒の中に染み込むように消えて行き、部屋の中に光が戻る。


「いつかあなたとも紅茶が飲みたいですねぇ」





 〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 一方その頃ラガンは



「ケンタウロスは自分の事を馬だと言っているが、明らかに被り物だし...取ったら何が出てくるのだろうか」


 そんな事を考えながら帰路に着いていた。




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