第1話 白黒つけよう



「懐かしい夢だな。いや、懐かしむ程時間は経っていないか」


 1年前のあの日、俺は全員との面談、再試験を行い絶望した。

 ハヤカワなど可愛いもので、彼らは須らく単騎で王国を滅ぼせる実力を有していた。

 中には明らかに生物ではない者もおり、あろう事かそれらが全員入団を志望しているのである。理由は未だに聞けていない。聞きたくもない。

 断ったら王国が滅ぶ、受け入れても下手したら王国が滅ぶ。


 悩んだ末に俺が出した答えは思考放棄だった。


「どうにか無事に1年を過ごせたな」


 ストレスで髪は全て無くなったが、王国のため、民のためなら惜しくはない


 ─コンコン


 団長室の扉がノックされる。


「入っていいぞ」


「失礼します。ラガン団長」


「おお、アレンか!何の用だ?」


 アレンはあの新人募集最終グループの面子以外で唯一残っている団員である。

 他の新人は化け物みたいな同僚達に恐怖し、初日で逃げ出した。そして、長く苦楽を共にした仲間達は全員隠居した。


 そんな中、アレンは人を守るという使命のため、この騎士団に残ってくれている。化け物達との関係も良好だ。

「お前らのおかげで敵国みんな降伏したから治安維持を頼むぞ(要約)」と遠い地に飛ばされた時、正しい事だと分かって居ても、ショックから自暴自棄になった時もあった。

 俺に使命を思い出させてくれたアレンには感謝してもしきれない。


 そんなアレンは少し疲れた様子で口を開いた


「いえ、巡回を終えたので報告を」


「そうか、ご苦労。何か問題はなかったか?」


「はい、特にありませんでした。ですが...」


 言い淀むアレン、こういう時は決まって──


「うちの誰かが問題を起こした、か。何があった?」


「すみません。【ブラックハート】さんと【ホワイトルビー】さんが」


「またあの二人か...お前は休んでいいぞ、俺が話しておく」


「了解です!」


 敬礼をして、去っていくアレン

 それを見送り、俺は団長室にあるマイクを手に取る。


『えー、ブラックハート、ホワイトルビー、両名は至急団長室に来るように』


 ブラックハートとホワイトルビー。二人の相性はすこぶる悪い。

 扱う魔法が、光と闇の魔法という相反する属性なのもあるが、まず性格が真反対だ。

 また、捕まえた賊の処遇で喧嘩でもしたのだろう。


 二人のなだめ方を考えていると、ドアが勢いよく開けられた。


「おっす団長、邪魔するぜ」

「ノックぐらいしてください。団長さん失礼します」


「よく来てくれたな二人とも。早速だが、アレンに報告を受けてな」


 アレンに諫められたのだろう。二人は少しバツの悪そうな顔をして顔を逸らす。


「何があったか話してくれ」


「聞いてくれよ団長、コイツまた捕まえた奴消そうとしたんだぞ!」

「違います団長。私はあれ程の悪事をなした者を、この世に蔓延らせておくわけには行かないと思い──」

「万引き程度で存在ごと消そうとするな馬鹿が!」

「ですが、ブラックハートハートさんが店の物を丸ごと買い取ってあげようとした時のあの目を見ましたか!?貴方のせいであの者の欲は大きくなってしまったのですよ!」


 やはりか、と痛くなる頭に目頭を抑える。


 ブラックハート、全てを飲み込む闇魔法の使い手。

 犯罪者に優しすぎる女。

 一方、ホワイトルビー、全てを浄化する光魔法の使い手。

 犯罪者に厳しすぎる女。



 どんな軽犯罪でも全部消滅orおよそ全ての犯罪が見逃される。秩序崩壊の危機を避けるためお互いを監視するようにバディを組ませたのは俺だが、1年経っても改善しないとは思わなかった。


「事情は把握した。まずブラック、お前はいつも犯罪者の言葉に耳を傾けすぎだ。罪を償わなければやり直せない人間もいると理解しているだろう?

 お前の行為は犯罪者を助けているんじゃない、よりダメな方向に堕落させようとしている行為だ」


「うっ、はい...」


「ホワイト、お前は逆に犯罪者の事情を考え無さすぎる。人は間違いを犯す生き物だ。軽い犯罪でその命を散らせてしまってはミスを取り返すチャンスは二度と来ない。

 軽い犯罪ならそのチャンスを与えてやってくれ」


「わかりました...」


「犯罪は悪で許してはいけない行為だ。だが、犯罪を犯す者に存在する事情は国の怠慢によって作り出される。俺はこの国がより良くなれば二人がこのように気を揉む事も無くなると信じている。そのためにも二人はお互いに歩み寄る努力をして欲しい」


『....』


 俺の言葉が届いたようで、しおらしくなった二人を見て頷く。


「うむ、ではいつも通り二人とも俺とアレンに注意された事を反芻し、反省文を書いて提出。以上だ」


『はい...』


 声を揃えて返事をし、出ていく二人。



「ふぅ...」


 どうやら上手くやれたようだ。

 今度こそ二人が仲良くなればいいが...



 ガシャーン!


『てめぇのせいで怒られたじゃねぇか!この馬鹿!』

『貴方のせいです!この馬鹿!』


 なれば...


『今度こそ決着つけてやる、【地獄のヘルズ】──』

『言いましたね!消してあげます、【天国のヘブンズ】──』


 ...


「言ったそばから何をやっとるんだ馬鹿者共!!」


 俺は団長室を飛び出した。



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