ラグスタル王国騎士団団長の非日常
ミトコンドリア大王
プロローグ
大陸一の国【ラグスタル王国】
その国を守る剣にして盾、【ラグスタル騎士団】に与えられた建造物の一部屋にて、幾人かの集団が深刻な面持ちで集まっていた。やがて、一人の偉丈夫が口を開く。
彼の名は【ラガン】騎士団の団長にして、王国最強と名高い英雄である。
「これが今回集まったものだ。重要な情報だ、無くさぬよう心がけてくれ」
部屋にいるのはラガン一人では無い。一人一人にラガンから紙束が渡されていく。
部屋の全員に行き渡ったのを確認し、ラガンは再び口を開いた。
「まず
ラガンの言葉に、その場の全員の視線が手元の紙束へと向けられた。
「ああ、忘れていたな。これよりラグスタル騎士団新人募集の選考を始める。今後、共に国を守り、民を守り、切磋琢磨していく仲間だ。公平な審査を頼む。【ラグスタルに栄光あれ】」
『ラグスタルに栄光あれ!』
満足そうに頷くラガン。
「では、改めて一人目だ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【プロフィール】
名前──アレン
出身──フィンパシア領ササビ村
年齢──16歳
「フィンパシア領?大陸の外の国ではないですか?」
「村の出身、団長殿を思い起こしますな」
「スパイでは無いことは確認済みだ。安心してくれ」
【試験結果】
剣部門
1次試験──鎧切断
2次試験──試験管(二等兵)に勝利
「それは将来が楽しみですね」
「しかし、どんな人間か知らない事にはまだ評価出来ないだろう。才能にかまけた人間やもしれぬ」
【質疑応答】
騎士団への入団希望理由
「海を隔てた国の辺境の村である、僕の村にもラグスタル騎士団の高名は届いていました。幼い頃から僕も貴方々のように人を守れるような存在になりたいと思い、一人で剣の修行をしていたんです。村を出れる年齢になった時期に募集の噂を聞き、村を飛び出してここに来ました。勿論ここに来たのには、貧乏な村の両親の暮らしを少しは裕福にしてあげたいという打算もあります...ですが、人を守りたいと思う気持ちは貴方々にも負けない自信があります!ここに僕を入れてください!」
面接官の所感
「強い意志と優しさ、誠実さを持ち合わせ、若さ故の勢いも持っている。指導すれば間違いなく光る逸材。これ以上の質問は不要と考えたため、省略」
評価A
「以上だ、意見を頼む。まずは【エイブル】副団長」
「入団でよろしいかと思います。心身共に活力を感じます。間違いなく次代の騎士団を担う存在になるでしょう」
「ありがとう。次に【メリア】宮廷魔導師」
「剣の事は分からないけど、質疑応答だけでも凄く好感が持てるわ。それに...顔も可愛らしいわね」
「感謝する。次に、【ニンバラス】開発局長」
「問題ありません」
「うむ。では最後に【ゲイル】軍師」
「試験官に勝つほどの腕前、遥か遠くからはるばる訪れるその行動力...人としては100点じゃな。じゃが、人が出来すぎておる。スパイの線は無いと団長殿が言うなら信じても良いが、言の全てが正しいとは思えんのう」
「分かった。では発言の事実確認の後、正であれば採用しよう」
「うむ、そうでない場合でも団長殿が決めて良いじゃろ」
「ああ、助かる」
───────
選考は順調に進み、最後の一人が終わった。
「良し!ではこれで終了だ。最後に団長として、これ程の人材が集まった『コンコン』...入れ!」
「失礼いたします!」
入ってきたのは一般兵だった。
「どうした!」
「報告いたします!新人募集、最終グループの資料がまとまりましたのでお持ち致しました!」
「最終グループ?まだ残っていたのか。どうして遅れた?」
─そして兵士から告げられる
「はっ!最終グループの試験終了後、試験監督官及び面接官が3日程休暇を取得し、資料作成をボイコットしたため、報告が遅れました!」
「ボイコット!?そんなに無理をさせたのか!?」
─耳を疑う報告。
「いえ!試験の公平性のため、普段よりも易しいスケジュールだったと把握しております!」
「ではなぜ!」
「各員から言伝を預かっております。『夢を見てると思った』『幻惑魔法による攻撃を受けたと思いました』『読めば分かる』だそうです!」
「読めば分かる、だと?分かった。これが資料だな、君は下がりなさい」
「はっ!失礼致しました!ラグスタルに栄光あれ!」
ラガンは渡された資料を見る。
ぐしゃぐしゃになった資料は滲んだ文字がいくつか読み取れた。先程までの資料と違い、書き殴られた文章からは怯えを感じる。
ラガンは何かとんでもないものを渡されたのではと一瞬考えたが、すぐに頭から追い出した。
何より王国のために集まった同志なのだ、何も問題無いはずだ。
「すまない、資料の収集に遅延があったようだ。だか、今度こそ最終グループのものだ。最後まで気を引き締めて行こう」
〜〜〜〜〜
試験中止報告
【プロフィール】
名前──ハヤカワジン
出身──ニホン
年齢──18歳
「ニホン?誰か知っているか?」
「聞いた事もありませぬな」
「同じく」
「遥か遠い辺境の地でしょうか、あるいは「ニホン」という呼び方はその地域特有のもので、本来の名称とは異なる場合もあります」
【試験結果】
剣
1次試験──雲切断
2次試験──試験官棄権
『は?』
全員の声が重なる。
「剣の1次試験は、切れる自信があるものを選び。単純な力の把握と、自己分析力を測る試験では?」
「雲切断とは一体どういうことです!?」
「わ、分からん。どうやら試験映像があるようだ。見てみよう」
ラガンは映像結晶を起動した。
「では、この鎧でお願いします」
映像に映し出されたのは黒髪の細身の男彼がハヤカワジンで間違い無いだろう。
鎧を希望しているではないか、全員が思った時。
「行きます」
『...!』
スッ...とハヤカワジンが構えを取った瞬間、ラガンとエイブルの視線が鋭くなる
「セイッ!」
空が割れた。
『えぇええええっ!!』
見ていた者達から驚愕の声が上がる。
しかし、ラガンは冷静だった。
繰り出されたのは至って普通の袈裟斬り、だがそのスピードが異常だ。
ラガンの目にも僅かに軌跡が見えるのみ、それでいて振り抜いた後の剣はピタリと止まっている。更には雲を割る程の衝撃が周りに一切広がっていない。
斬撃のみを飛ばしたのだろう。
あの剣は一般的な訓練用の剣。天にまで届く程の力とスピード、自身で再現しようと思っても、遠心力に耐えきれず折れてしまうだろう。しかし、映像で見た限り、剣は一切のヒビすら入ってないようだ。
(恐ろしく高い技術と力、まさかこれ程の存在に出会う事が出来るとは)
だが、対人経験は無いであろう事が、構えから見て取れた。
予測ではひたすらに一人で剣を振り、力と技術を磨いてきた求道者。この年齢であれ程に力をつけるためには、恐ろしいまでの才能と努力が必要だ。
棄権した試験官を責めるわけにはいかない。恐らく、命の危機を感じたはずだ。
試験は中止され、現在は待機状態。
「俺が直接試験をしよう。間違いなく一般兵には務まらん」
「私でも構いませんが」
「エイブルには試験監督を頼みたい。いざと言う時には魔法を使って止めろ」
「...!それほどですか...」
「ああ、もし入団したなら間違いなく王国の歴史に名を刻むだろう。2、いや1年もあれば俺を越えられる」
『!?』
それを聞いていた周りから驚愕の表情が浮かぶ。
「危険ではないか?それほどの存在を迎え入れるなど」
「野放しにする方が危険と判断した。強さを求めてここにやって来たのだろう。周辺国に抱き込まれるよりは確実に良い」
「分かりました。団長殿の言葉を信じるといたしましょう」
「他の者も構わないか?」
『勿論』
「では二人目だ──」
ラガンはこの時、勘違いをしていた。
なるほどこのレベルの存在が一人目で来たのならあの報告も頷ける。
だが、強力な人材は間違いなく王国の未来を明るくする。
この後試験を行うハヤカワジンが優れた人格者ならば良いが..と悠長に考えていた。
──だが、これはまだ
試験中止報告
【プロフィール】
名前──シンドウハヤト
出身──ニホン
年齢──6歳
ペラりと次の資料をめくる
試験中止報告
【プロフィール】
名前──ブラックハート
出身──ラグスタル領アジス
ペラり
試験中止報告
パラパラとめくる
試験中止報告
試験中止報告
試験中止報告
試験中止報告
──────
───序章に過ぎないのだ
「全員をここに呼べ!直接面談をする!」
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