第2話 夢

阿佐ヶ谷のアーケードの中に鉄筋コンクリートつくりの3階建ての食堂がある。

1階は飲食店、2階は更衣室とストックルーム、3階は店長の住居だ。


13:00代はランチタイム。

キッチンの店長と、ホールは私。

ホールワンオペはちとキツイ。


さいわいランチタイムは、A定食の唐揚げと B定食の生姜焼き それぞれ500円なので注文はほぼそれしか出ない。


私は、アホのように みそ汁とごはんをよそいまくって。500円玉をもらい続けるマシンになった。


ピークが少し落ち着くと、常連が、中途半端な時間に飯を食べにくる。

飯田さんは夕方から始まるBARの店長。梶畑さんはここ数か月近所の工事に来ているひと、上田さんは葬儀屋(メモリアルなんちゃら)のひとだ。いつメンというやつだ。


飯田さんが「酔ったお客さんが店のハンガーを持って帰っちゃうんだよー」といえば

植田さんが「冬場に老人が死にまくるから今年の冬はきっとどこにも行けない」などという。


飯田さんも植田さんも現実では私にパワハラするのに、夢の中ではなんだか仲よしみたいだ。


梶畑さんは「ねえねえ、デリヘルを頼むんだけど、これ見て」

何かきれいな冊子を取り出した。

「デリヘルのパンフってこんな感じなんですか?」

「今はそうなのよ」「へー」

綺麗な海をバックに、明かるい色のワンピースを着た女性がさわやかに笑っている。


それにしてもこっち側ではデリバリーヘルスってエロい方面の仕事で合ってるんだろうか。もしかしたらこの世界線では違うものを(健康的なもの?)配達するしごとなのかもしれない。


「私はこの人が好き」「こっちの人もよくないか」

客同士でパンフをかこんであーだこーだ言った。


結局この世界でのデリヘルが何の仕事なのかさっぱりわからぬまま、私は知ったかぶりしてやり過ごした。食器の片付けや卓の拭き上げもしなきゃだしね。


閉店後、二階でたばこを吸った。

煙草を人生で一度もすったことのない私のたばこはチョコミントの味がする。


ふと机を見ると、店長のケータイが置きっぱなしになっていて

よく見ると何かのアプリが動いていた。


「てんちょ、なんか『睡眠アプリ』がたちあがりっぱですよー?」

って言ったら

「あー、ね!

だから今日この建物に来た客、全員フワっフワしてたのかなあ??」

「いや『睡眠アプリ』って睡眠導入~、とかじゃないんですか?

いま起きてる人間をふわっふわのレム睡眠にしちゃうやつなの?」

「そんなんしらないよ(笑)! 今日はじめて使ったんだもーん!」


めいわくなひとだな。
















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