第13話 菜奈がエッチだからでしょ!(逆ギレ)
「菜奈、また来世で会おう」
「ナチュラルに死のうとしないで」
お風呂場での、勃起を巡る問題。もう終わりだって思ったその場にて、何故か俺よりも菜奈の方が冷静だった。てっきり、その場で去勢を宣言されると思ってたのに。
……けど、何も思ってないわけじゃないらしくて、両手で顔を隠しながらも、チラチラと隙間からタオル越しの俺の俺を見つめていた。
「見ないで!」
「何でコタの方が、女の子みたいな反応、してるのよ……」
「恥ずかしいからだよ!」
必死に股間を押さえ込みながら、菜奈の視線から身を隠す。何で俺、菜奈に乳首を触られまくった挙句に、勃起なんかしてるんだろ……。
「……私もタオル、取れば平気?」
「これより大きくなるからやめて!」
もう、取り繕う余裕なんてない。言い訳も出来ないほど、大きくゾウさんごっこをしてしまってるから。
俺、今日が命日だったのかもしれない。
「でも、スパッツじゃないのに……」
この後に及んで、菜奈はとびっきり寝ぼけたことを言っている。フリなのかなって、疑ってしまうくらいの惚けっぷり。
何で俺、菜奈にエッチされた挙句に辱められた挙げ句、エッチってことを曝け出されてるんだ?
何で俺、無理やり勃起させてきた側の菜奈が、チラチラと俺の俺を見て、恥ずかしそうにしてるんだ?
何で俺、菜奈にエッチな俺を見せたくないって思ってたのに、嫌われたくないって思ってたのに、こんな目をあってるんだ?
グルグルと巡る思考が──巡り続けた結果、プツンっ音をたてながらキレた。
「菜奈のせいだろッ!」
もう、嫌われるとかどうこうより、溢れた感情が抑えられない。感情のままに、俺は叫んでいた。
「こ、コタ?」
「菜奈が可愛くて、エッチで、ドキドキさせられて、綺麗で、素敵で、優しくて、頼もしくて、俺と一緒にいてくれて──なのに、菜奈に嫌われちゃう俺を目覚めさせちゃうから、こんなことになっちゃってるんだ!!!」
「……え?」
呆然とする菜奈をおいて、それだけ言い捨てて、身体が泡だらけなのも関係なく、俺はお風呂場から逃走する。
逃げようと、した。
「ふぇ?」
でも、シャンプーの流した泡で俺はすっ転んで、文字通りの尻餅をついてしまった。間抜けすぎる。
「ぐぇ」
「コタ!?」
慌てて寄って来た菜奈に四つん這いにされて、転んだお尻をマジマジと見られる。本当に何なんだよ……。
「……うん、大丈夫、痣になってないわ」
「蒙古斑もない?」
「コタのお尻、ぷにぷにで綺麗なままよ」
何故か、ついでにお尻も触られていた。……そういえば菜奈、昔からお風呂場では接触過多だった気がする。よく、あちこち触られたっけ。
「ほら、流してあげるから、ジッとしてなさい」
「……うん」
尻餅の痛みで勃起も治り、少し落ち着けたから菜奈の言葉に頷いた。
俺、さっき勢いに任せて、なんかすごいこと言わなかったか?
具体的に言えば、菜奈のことエッチな目で見てるって。
「コタ、湯船に入るわよ」
「うん」
もう終わりだし、おしまいだと思った。菜奈にどセクハラ働いた後だし、トドメになって嫌われちゃうんだって。
でも、何故だか菜奈は、まだ俺と一緒にお風呂に入ってくれている。どうしてだか、ピトッと後ろにくっついたまま、湯船で一緒してくれてる。
???
「菜奈、何で一緒に湯船に浸かってるの!?」
「風邪ひいちゃうでしょ」
「それでも、一緒なのはやばいよっ!!」
む、胸、ちゃんと当たってる!
柔らかくてフニフニしてて、先っぽがツンってしてる感触がちゃんとしちゃってる!!
「だ、だから?」
「何でタオル、巻いてないの!」
洗ってる最中は、巻いてたのにっ!
「お、お風呂にタオル巻いたまま入るの、良くないからよっ」
「声、震えてる」
「うるさいっ。それ以上口答えしたら、またコタのおっぱい揉むわよ!!」
俺の追求に最低な言論統制をして、菜奈はブクブクと湯船で口を蓋した。
困った、本当に困った。
だってこのままだと、菜奈が俺の乳首弄らなくても、背中に当てられてる胸だけでまた事故りそうだから。
これ以上、菜奈の前で起き上がりたくないよ。
「菜奈、許して……」
だから、俺には懇願するしか、もう対抗できる手段は残されてなかった。
──なのに菜奈は、どうしてだかトドメを刺すみたいに、ギュッと俺の身体を抱きしめてきた。
血流が速くなる、ドキドキが止まらない。
菜奈が裸で抱きしめてくれてるって思うと、もう無理だった。
「やっぱり、そうなるのね」
抱きしめられながら、自然と耳元で囁かれた言葉。それが恥ずかしくて身悶えするけど、微塵も菜奈は離してくれない。むしろ、もっと力を強くして、抱きしめてくる。
「な、菜奈、なんで?」
「……コタ、私に嫌われそうとか、また頭のおかしい勘違いしてたから」
頭がおかしくなりそうなのは、この状況だと思う。
「もう一度だけ、伝えるわ。
──何があっても、コタを嫌いになるなんて、あり得ないから」
ハッキリとそう断言されて、俺の肩から力が抜けた。
もう一人の俺からは、微塵も力が抜けなかったけど。
「ありがと、菜奈……」
素直に、感謝の言葉を述べられた。
エッチな俺でごめん菜奈。
エッチな俺も嫌わないでいてくれて、本当に嬉しいよ。
「ねぇ、コタ」
「何かな、菜奈」
大人しく湯船に浸かってる中、しばらく感情の整理とかで無言になってたところへ話しかけられた。尋ねられたのは、当然さっき口走った……。
「私のこと、エッチだって思ってたの?」
「……うん」
お姉ちゃんじゃなくて、女の子として見てるってことだった。心じゃなくて、身体目当てだけど。
「それって、いつから?」
「中学生の時、からだね」
隠せない、全て曝け出してしまったから。もう、隠しても仕方ないから。おおよそ、全てのことを包み隠さずに話していく。
「だから、お風呂に一緒に入らなくなっちゃったの?」
「……うん」
「そう、仕方ないから週1回で許してあげる」
それもおかしくないかな?
当然の如く疑問に思ったけど、さも当然の如く話している菜奈は結論ありきで話してるっぽいから。邪魔できずに、そのまま話は進んでいく。
「じゃあ、さ。私のこと、お姉ちゃんって思ってくれてる?」
「ごめん、菜奈」
「そっか」
中学生の時は、訳もわからないままにドキドキしてた。でも今は、自覚的に、菜奈をエッチな目で見てるから。
「……大きい、もんね」
「見ないで」
「タオル、お風呂につけたまま入るのはルール違反よ」
「剥ぎ取ろうとしないで!」
息子の部屋を定期的に覗きにくるお母さんみたいに、菜奈は俺のタオルを捲ろうとしていた。
ぱちゃぱちゃと交わされていた、湯船の中の攻防は次第に治っていく。そうして、だらんと弛緩した空気が流れ始めて。
「……コタは、男の子だったのね」
「うん」
そんな言葉を交わし合う。
湯船から上がる前の、最後の確認みたいな会話だった。
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