第14話 自覚

 コタとの久しぶりにお風呂を堪能してから、私は逃げ帰るようにして、自分の家の自分の部屋に立て篭もった。


 自分の心を、整理するために。


「コタが、私を女の子として見てる……」


 ──バタバタ、バタバタ、バタバタ。


 ベッドの上で子供みたいに身悶えながら、その事実を噛み締める。地動説を信じてたのに、天動説を聞かされた気分。頭がおかしくなってしまいそう。


「コタ、私こと……エッチな目で、見てる」


 ──バタバタ、バタバタ、バタバタ。


 まな板の上の鯉みたいに、ベッドでその事実を反芻する。その場では、コタの前では強がれたけど、今だに耳にあの言葉がこびりついて離れない。


『菜奈が可愛くて、エッチで、ドキドキさせられて、綺麗で、素敵で、優しくて、頼もしくて、俺と一緒にいてくれて──なのに、菜奈に嫌われちゃう俺を目覚めさせちゃうから、こんなことになっちゃってるんだ!!!』


「んーーっ」


 ──バタバタ、バタバタ、バタバタ。


 枕に顔を押し付けて、声が漏れないようにしながら、その言葉に悶絶する。


 コタの、あの時の言葉。それを思い出すだけで、肌が赤らんで背筋がソワソワして、心の辺りが駆け足を始める。あんなに情熱的で、精一杯の気持ちで伝えられた言葉だから。


 本心だって、心の底からの言葉だって、一生懸命なコタを見て信じられたから。必死な顔で、顔をリンゴみたいにして、私にうるうるした目を向けて。


「なんであんなに、本気で言ってくれるのよ……」


 胸の辺りがぐるぐるする。

 胸の……心の中がグチャグチャになる。


 コタにエッチな目で見られてるって意識すると、胸の辺りが熱くなる。お腹の辺りが……ザワザワする。


 お腹を撫でると、トクンって何かが高鳴った様な気がする。その正体のことを思って……そっと、蓋をして考えないようにする。まだ、まだ認めるわけには行かないから。


「コタは私に、エッチなことしたいのかしら……」


 ──バタバタ、バタバタ、バタバタ。


 足がバタつくのを止められない、思考が勝手に変な想像を始めちゃう。気を紛らわせるために、思考を逸らすために。



『……菜奈の、せいだよ」


『な、なにがよ!』


『俺のおち◯ちんがこんなになって喋りだしたのは、菜奈が可愛すぎるせいだって言ってるんだよ!』


『コンニチハ、ナナサン。コタノオチン◯ンデス』


『そ、そんな、どうしてコタのおち◯ちんが喋ってるのよ!?』


『菜奈がおもしれー女の子で、俺を沢山挑発したからだろ!』


『面白いのはコタのおち◯ちんじゃない!』


『ソンナニホメラレルト、デチャイマス』


『どういうことなの!?』


『うわぁっ!? おち◯ちんが暴走して、赤ちゃんの元を出そうとしてるっ』


『えっ、えっ!?』


『デハシツレイシテ、ソソウヲイタシマス』


『わーーーっ!!』


『きゃーーっ!!』


『ビューーッ!!』



「何よこれ!?」


 自分の妄想ながら、酷いデキの悪さだった。何でコタのおち◯ちん、一人でに喋り始めてるのよ。流石におかしいでしょ、絶対に泌尿器科行きよ。


 でも、よく考えてみると、私はおち◯ちんのことは全然知らない。知ってることは、コタのおち◯ちんがタオル越しでも立派で、13cmくらいあったくらいのことだけ。あんなの、入るのかな……。


 ふと、15cmの定規が目に入ったので、自分の入口に重ねて計測してみる。


「え、大きい……」


 13cm、ちゃんとお腹まで届いちゃってる……。

 私、将来コタと一緒になったら、これを受け入れなきゃいけないのかな……。


「って、違うわよ!」


 なんで受け入れる方向で考えちゃってるのよっ。ダメよ、そんなの。きっと、変な妄想に流されて、頭が混乱してるのね。次はもっと、まともな妄想にしないと。少なくとも、コタのおち◯ちんが喋りださないタイプのやつを。



『こ、コタ、ダメよ。お姉ちゃんとこんなことするなんて……』


『違うよ。菜奈はお姉ちゃんじゃないし、俺は弟じゃないし、だからエッチなことも出来るんだ』


『そ、そんなの、でもっ』


『俺は菜奈のこと、エッチだって思ってる。……菜奈は、どう?』


『そんなの、答えられる訳ないでしょっ!」


『答えられないってことは、エッチじゃないとは思ってないんだ』


『なっ、コタのくせにナマイキ!』


『うん、俺はエッチだから』


『開き直らないで!』


『でも、菜奈は?』


『……なによ』


『菜奈はエッチじゃないの?』


『わ、私がエッチな訳ないでしょ!!』


『──俺にお待たをスリスリされた時、スパッツがあんなに濡れてたのに?』


『そんな……気付いてたの?』


『大好きな菜奈のこと、気付かない訳ないよ』


『大好きって、コタ、本気なの?』


『うん、本気で……菜奈とエッチ、したいよ』


『コタ……』


『でも、その前に……』


『え?』


『エッチよりも前に、貰うね』


『ちゅ、ちゅーする気!?』


『そうだよ』


『だ、だめよ……』


『? じゃあ、代わりに和也とキスするけど、良いの?』


『は?』


『おう、小太郎。どうしたんだ?』


『ちゅーしよ』


『おう!』



「なんでなのよ!?」


 途中まで、すごく良かった。コタが私をリードしてくれて、これからされちゃうんだって、そういうところだった。……なのに、途中から生えてきた高藤くんが、何故かコタの唇を、唇をっ!


「不潔!」


 やっぱり高藤くんは油断ならない。コタを彼の魔の手から、私が守ってあげないと。


「でも……」


 私、さっき、妄想の仲でだけど……。

 キス、しようとしちゃっていた。


「そんなの……」


 ダメと言いかけて、言葉に詰まる。だって私、コタが高島くんにキスされかけて、すごく嫌な気持ちになったから。


 やめてって、私の方がって、そんなことが頭によぎって。

 ──少し、自分とコタがキスする姿を、想像して。


「どう、しよう……」


 脳内で、コタと口づけを交わした。

 そんな、妄想をして。


「いやじゃ、ない」


 むしろ、嬉しい。

 信じがたい事実だけど、私は確かにそう思って。


「私……」


 ──コタ、私どうしよう。


 訳もわからないまま、唇をそっとなぞった。

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