第4話 女子大生と腕相撲勝負


 テーブルの上で、僕は向井さんと腕相撲の準備をする。

 手の平を合わせると、男みたいな大きめの手でがっしり握られた。

 これは手ごわそうだ。


「じゃあいい? レディ、ゴー」

 左側の遠藤さんが、組みあわされた僕らの手をタッチして、スタートの合図をした。


 肩にぐっと力を入れて、相手の腕を押し倒す。

 向井さんの腕は一瞬動いたあと、すぐにぐっと押し返してきた。


 そして反対にこっちが倒されてくる。僕はさらに腕に力を入れて耐える。


 いい勝負だね、ファイトファイト。


 里緒菜さんや遠藤さんらから声がかかる。

 これに負けたら、上半身脱がされて後ろ手に縛られる。


 その光景を想像したら体がカッと熱くなった。

 それまで、相手がどの程度の力かわからなかったから、一応セーブしていた力をフルに引き出す。


 ぐっと体重を乗せると、徐々に相手の腕が倒れ始めた。

 これは勝てるぞと思った。もう一息だ。


「さすがに男子は強いね。ミチルくん、細身だからもっと弱いと思ってたんだけど、じゃあ、あたしもフルパワーかけるよ」

 そう言う向井さんを見ると笑みを浮かべていた。


 え? と思うまもなく、僕の腕が跳ねあげられて、一気に倒されてくる。

 ダメだ。耐えないと。


 僕はそう思うだけで、あっという間に体重かけた向井さんの腕にばったりやられてしまった。




「はい、勝負あり。理沙の勝ち」

 審判役の遠藤さんが言い、周りが拍手して勝負は終わった。負けてしまった。


 全力出して腕相撲で女性に負けるなんて、情けない。

 でも、女性だっていくらでも男に勝てる力を持った人はいるんだし、しょうが無いじゃないか。


 言い訳を考えてる自分が、更に情けなくてがっくりくる。


「じゃあ、ミチルくん、Tシャツ脱いでね」

 意気消沈する暇もなく里緒菜さんが明るい声でいう。


「縛るの、あたしにやらせてよ」

 向井さんがロープをもって僕の後ろに回った。


 まあ、縛られるくらいどうってことないさ。僕はTシャツを脱いで上半身裸になった。


「案外いいカラダしてるね。華奢なだけじゃなくて、適度に筋肉あるし、きれいな身体ね」

 里緒菜さんに褒めてもらって嬉しくなった。

 腕相撲負けたのは悔しいけど、この展開は良かったかも。


「何かクラブやってるの?」

 遠藤さんの質問に、クラブはやってないけど自転車にはよく乗りますと答えた。

 休日には近くの野山をサイクリングするのが、僕の趣味なのだ。


 カーペットの上で正座していると、向井さんが僕の腕を後ろに回した。

 背中に回した僕の手首に、くるくるとロープがまかれていく。



「でも、マンガで見ただけで、縛るのうまいですね」

 僕は気を紛らわせるように言ってみる。


「こういうの、ネットで調べればすぐわかるからね。仲間同士で縛る練習もしてたし」


「文学クラブって、そういう練習もするんですね」ちょっと皮肉ってみる。


「そうだよ、小説書くには相手の気持ちになる必要があるでしょ。縛られた感じとか、リアリティだすには一度くらい自分も縛られてみなきゃね」

 向井さんはしゃべりながら手早く僕の上半身を、漫画で見た通りに縛り上げた。


「どこか、痛いところない?」

 向井さんの質問に、僕は大丈夫ですと答えた。


 まるであの漫画のワンシーンの様だった。

 四人の女性が僕の周りに立って見下ろしてくる。


「どんな感じ? 腹立たしい? 情けない?」

 里緒菜さんに聞かれて、僕は答えに詰まってしまった。


 そのどちらでもなかったからだ。



「すごく、ドキドキします」

 僕は思ったままを言った。


「もしかして勃起してるとか? ないよね」

 遠藤さんが僕の横にしゃがみ、耳元に息を吹きかけてきた。ぎくりとした。


 実際、僕のそこはジーンズがきつく感じるくらいだったのだ。


「まさか。この状態でそんなになってたら変態みたいじゃないですか」

 焦りからか、僕は自爆するようなセリフを言ってしまう。


「どうかなどうかな?」

 遠藤さんが身体を僕に擦り寄せるようにして、その手がゆっくりと僕の股間にむかう。


「だめですよ。それはダメです。縛るだけでしょ、罰ゲームは」


「それはそうなんだけどさ。ここまでやっちゃうと我慢できなくなりそうなんだよね、あたしとしては」

 遠藤さんの右手の指が、僕の股間をチョンと刺激した。


 あう、と声が漏れる。


 後ろ手に縛られて跪いた状態で、僕は上体を前に倒して、必死の防戦だ。


「やっぱり勃起しちゃったのかな。触られるとまずいっていうのは、そういうことだよね」

 今度は里緒菜さんが僕の後ろから首筋に息を吹きかけてきた。


 あっとのけぞった隙に、とうとう遠藤さんの手が僕の股間を触って、そして屹立した棒の先端をつまんだ。  


 あうっ、僕はその刺激に今にも発射しそうなくらいに感じてしまった。

 縛られて無抵抗な状態にされて、女の人から股間を弄ばれる、その屈辱感、敗北感がなぜかすごく甘美に僕の心を刺激してくる。


 いったい、僕はどうなってしまったんだ? こんなの、絶対変なのに。



「じゃあ、みんなに見てもらおうね。ミチルくんの変態なオチンコを」

 正面から向井さんが僕のジーンズのボタンを外しにかかる。


 抵抗しようとすればできないことではなかった。

 足は自由なんだし、蹴っ飛ばせばいいんだ。


 でも、僕はそうしなかった。


 羞恥心はマックスだったけど、それ以上に甘い誘惑に身を任せることを、僕は選んだのだ。


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