神経質な僕は、不整脈になった
星咲 紗和(ほしざき さわ)
本編
僕は昔から、何かと神経質な性格だった。子供の頃から、みんなが気にもしないような小さなことに苛立ち、常に周囲の音や状況に敏感だった。人混みや騒音が苦手で、いつも何かに心を乱されていた。そんな性格は大人になってからも変わらず、仕事の場でも同じように苦労することが多かった。
一般就労を始めた当初、僕は「普通に働く」ということがどれほど大変かを、頭では理解していたつもりだった。けれども、実際にその世界に飛び込んでみると、予想以上のストレスとプレッシャーに押しつぶされそうになった。職場では時間に追われ、完璧な仕事を求められる。僕の神経質な性格は、そんな環境で次第に限界を迎えていった。
一番の苦労は、コミュニケーションの難しさだった。チームで働く場面では、細かいことが気になりすぎて相手にどう伝えるべきか迷ってしまう。相手の意図を汲み取ろうと過度に気を配るあまり、自分の考えを上手く伝えられず、結果として誤解が生じることがよくあった。さらに、周囲からの期待や評価を常に気にしてしまい、仕事に対する不安が積み重なっていった。何度も同じ質問をしてしまう自分に対して苛立ちを覚え、ミスをするたびに強い自己批判に陥ってしまう。これは精神的に非常に消耗する毎日だった。
また、時間管理も大きな課題だった。僕は何事も慎重に進めようとするため、資料作成やタスクの処理に時間がかかる。職場ではスピードが求められるのに、僕は細部にこだわりすぎて締め切りに間に合わなかったり、他の仕事を後回しにしてしまったりすることが多かった。その結果、さらにプレッシャーが増し、自分を追い込むという悪循環に陥った。
こうした環境で働いていた僕に、ある日突然、不整脈が襲った。デスクで仕事をしている最中、心臓が急にバタバタと不規則に動き始め、胸の中で何かが跳ねるような感覚がした。息が詰まるようで、頭がぼんやりとしてくる。すぐに椅子から立ち上がり、深呼吸をしようとしたが、症状は収まらない。その瞬間、今まで積み重なったストレスが限界を超えたのだと感じた。
医師から「不整脈」と診断されたとき、僕は納得した。長年の神経質な性格と、それによるストレスが体に影響を与えていたことは明らかだった。仕事のストレスや過度のプレッシャーが、ついに心臓にまで影響を与える結果となったのだ。
その後、僕は一般就労を続けることが難しくなり、仕事を辞めた。そして、しばらくの間、自分を見つめ直す時間を過ごした後、就労継続支援B型事業所で働き始めることになった。
B型事業所での働き方は、一般就労とは大きく異なっていた。まず、働く時間やペースを自分で調整できる点が助かった。無理をしすぎず、自分のペースで仕事を進められる環境は、心の負担を軽減してくれた。さらに、周囲のスタッフや同僚も、僕と同じように何らかの困難を抱えているため、コミュニケーションの圧力が少なく、お互いを理解し合いながら働ける環境だった。
しかし、B型事業所に移ったからといって、全てが楽になるわけではなかった。新たな環境での苦労も当然あった。まず、仕事の内容が以前とは大きく異なり、慣れるまでに時間がかかった。特に、一般就労では求められなかった細かなルールや手順を覚えるのが難しく、最初のうちは戸惑いが多かった。
また、仕事の質や量に対する自分の基準が、どうしても一般就労時のものと比べてしまうことがあった。B型事業所では、体調や精神状態を優先して働くことが推奨されるが、僕はどうしても「もっと頑張らなければ」というプレッシャーを感じてしまう。そのため、自分自身の限界を超えてしまい、再び体調を崩してしまうこともあった。
さらに、周囲との比較という悩みもあった。同じB型事業所に通う仲間たちが、それぞれのペースで成果を出しているのを見ると、自分だけが遅れているのではないかという焦りが生まれた。この焦りは、一般就労の時のような「効率を求める」プレッシャーとは違うが、それでも心に負担をかけるものだった。
それでも、B型事業所で働く中で、徐々に自分のペースを見つけることができるようになってきた。スタッフの支えもあり、体調を最優先に考えながら働くことができる環境が整っている。今は「完璧を目指すこと」よりも、「自分が無理をせず続けられること」が重要だと感じている。
振り返ると、一般就労での苦労も、B型事業所での苦労も、それぞれ異なる種類の挑戦だった。しかし、どちらの経験も自分にとって必要なものであり、そこから学んだことは多い。今は、自分自身のペースで働きながら、心と体のバランスを取り戻しているところだ。
「神経質な僕は、不整脈になった」。この出来事は、僕にとって心と体のつながりを改めて感じさせ、今後の生き方を見つめ直すきっかけとなった。
神経質な僕は、不整脈になった 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます