第22話 検問を突破せよ

 ビィシャアは出発前に母親と抱き合い。別れの挨拶を交わした。母親の「頑張ってね」という言葉を胸に刻み、彼女の気持ちはより高まった。

     


 

◆◇◆◇

 

 いよいよ、王城へ向かう。マークは地図を広げ、道筋を示してバイクに跨った。セーレはサイドカーに乗り込み。ビィシャアは鉱石で精製した馬に乗り、王城を目指す。


「さぁ、行きましょう」


 セーレの号令で、譚蔴たんまを出て、王城へ出発し砂漠の道を進み始めた。砂漠地帯は、風で道路に砂が堆積し「舗装もまま」ならない道だ。マークはバイクの転倒に気をつけながら、慎重にバイクを走らせる一方で、ビィシャアは先導し馬を走らせた。


「ここから、王城まで、3日くらいかかるな」

「へぇー」


 マークは、サイドカーに乗るセーレに話しかける。何やら地図を見ながら、難しそうな顔で「にらめっこ」していた。


「地図読めないのかよ」

「うるさいわね。こんなもの読めなくたって、誰かが先導してくれたら問題ないわよ」


 ―――ふと、疑問がよぎった。

 

「セーレは、よく道を間違えるが、戦時下はどうしていたんだ?」

「それはヘーゼルに着いていくか、アーネスに指示された場所へ突撃するか、偶にある奇跡の3択ね」


 マークは苦笑いするも道に迷わないように、自身がしっかりせねばと意識を高くもつのであった。

      


 

◆◇◆◇


「それにしても暑いわね」

「あぁ、暑いな。喉がカラカラだよ」

「はい、これ」


 セーレがマークに手渡したのは、ペットボトルだった。中身は水だ。彼女は「こういった気遣い」はできるらしい。ペットボトルのキャップを開けて、水を飲み乾いた喉を潤した。


「ありがとな、セーレ」

「どういたしまして」


 セーレ達一行は、朝から夕方まで、ひたすら移動に費やしては野宿を繰り返した。

 そうして、3日目の朝を向かえた頃。

 砂漠地帯を抜け、緑の草花が生い茂る道を走行していた。何やら前方に人の集団を発見した。


「そこのもの、止まれ!」


 全身鎧に身を固めた騎士が、セーレ達一行に停止を促した。マークはバイクを止め、ビィシャアも馬の足を止める動作をした。銀髪女性が口火を切った。

 

「誰よ、あんた達は?」

「我らは、王城よりこの場所の警護を任せられた、王の足である」


 彼等の話を要約する。

 王城では罪人の処刑に伴い、残党が暴れている。残党の侵入を防ぐため、入り口の桟橋前で検問を敷き、疑わしい者を「捕縛している」とのこと。


「疑わしい人達への検問なのね。…(あれ、もしかして……私達って疑われてる?)」


 まさに今、侵入者として「疑惑の目を向けられている」訳だ。


 検問を守る騎士団の人数は20名。

 彼等は、ぐるりと囲み、怪しい点がないか観察した。

 

 セーレの髪は、クライのペンダントの効果で銀髪から黒髪、瞳の色も赤から黒と「迷彩処理は完璧」だ。


「隊長。怪しいものは、出てきませんでした」


 騎士団の下っ端らしき人物が上官へ報告する。

 

「うむ。そうか、怪しいものは、なしか……」


 ―――騎士団の上官は、セーレ達一行へ近づく。

 

 3人の顔を順番に見て回る。

 マークのトンファーは「何に使う」のか、ビィシャアのウエストポーチに入った「大量の石は何だ」っと問い詰めて回った。しかし、マークとビィシャアは旅には「危険は付きものっと、防衛策である」と弁解した。


 騎士団の上官も面白くない顔をして、2人のチェックを終えて、セーレの所で足が止まった。


「おぉー素晴らしい。お嬢さん、美人だね」

「あら、ありがとう」


 気分も上々。下卑た顔で体付きにも視線を送る。

 

「君みたいな美人を見ると、私も優しくなっちゃうんだよ。それに私は騎士団長を任せられた男だ」

「そうなの。騎士団長ってことは、よっぽど戦果をあげたのね」

「そのとおりだよ。よくぞ聞いてくれた」


 ―――待ってましたと語り出した。

 

「…(しまった。長くなるやつだ、これ)」

「私は、あの言論の対戦の参加者でね……」


 セーレに対し、武勇伝語りが始まった。40代と思われる騎士団長の男は、自慢や賛美を受けた経歴など自身の話を語ってみせた。当然、彼女もそんな話には興味もなく「早く終わらないかしら」と聞いたフリをしていた。


「…であってね……。最後に見えざる断罪者セーレについてだ」


 自身の話になり、少し緊張した面持ちになった。


「私はセーレには会ったことはないが、ある知り合いの戦闘員の話だと、美しい女性でありながら戦闘狂だったらしい。そのため、王城の一部の者が彼女を神格化したり、奇跡の子だのよく騒ぎを起こす輩もいた。おまけに裁判所連中は、セーレを様付けにし、それで罪状をつける程だ…おっと喋り過ぎたな……」


 やっと話が終わると安心した矢先。騎士団長に左腕を掴まれた。


「お前さん、もう少し私の話を聞いてくれよ。そうだ、そこのテントで詳しく話をするから、一緒に来てもらおう」

「おい、おっさん!」


 マークは騎士団長の手を払おうと前に乗り出しが、セーレはその手を制止した。


「大丈夫よ。ちょっと話を聞くだけだから」


 妙に笑顔なのが気になるが、マークとビィシャアが見守る中、セーレは騎士団長に連れられて、白いテントの中へ入っていた。


 ―――テント中に入る。

 

 四角形の空間。休憩スペース、作戦指揮を取る椅子や机が並べられていた。


「いやいや、今日の私はついているな」

「どうしたの、話は?」

「そんなこと、どうでもよいではないか」


 騎士団長は、セーレを休憩室のベッドへ押し倒し、いやらしい目つきで全身を隈なく観察した。


「たまらんな。今から私の特権で、お前のボディチェックを開始する」

「え…そんなこと……」

「いいのか、お前が従わなければ、あの者達の安全は保証できないぞ」


 ―――戸惑いの表情をしてみせた。

 

「…本当に?」

「あぁ、約束する」


 騎士団長の右手がセーレの右胸に近づく。


 プルプルと手を震わせていた。耳から聞こえるセーレの吐息は、相手を誘っているかのような振舞いで、騎士団長は興奮を抑えることができなかった。


 ―――と、急に騎士団長の手が止まる。


 それ以上、先に手を動かすことができなくなった。セーレの顔を見ると、髪は黒から銀、瞳は黒から赤へ変化していた。


「何だこいつは、どうなっている?」


 ―――特権で従わせようとする者には。

 

「さぁ、貴方も今こそ自由を。Follow me, pig!」

「この力は何だ。いやそれよりも銀髪、赤い瞳!? まさかお前は、見えざる断罪者セーレだったのか…う……」

       


 

◆◇◆◇


 5分後。

 騎士団長のみテントから出てきた。騎士団員へ「対応指示」を伝えた。


「この者達を通せ、唯の旅人だった」

「宜しいのですか、隊長?」

「あぁ、許可する」


 機械的に答える騎士団長の姿をテント入口の中から、舌を出して反応を伺うセーレであった。

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