第21話 私は見極めたい

「…アーネスなの……? それに…あの罪人と呼ばれる彼はどこかで、見たような……」


 セーレはその場で硬直していた。


 マークとビィシャアが話し掛けるも声は彼女には届かなかった。頭の中を巡るぼんやりとした記憶。誰かと「過ごしたであろう」大切な時間。それを思い出そうとしても顔にモザイクが施され、記憶が「あやふや」だ。


「もん、何なのよー!」

「どうしたんだ、セーレ? 急に頭を抱えたと思えば、今度は叫ぶし情緒不安定になったのか?」

「ごめんなさい。良かれと思い、ママに合わせたのが行けなかったかしら」


 2人は、セーレを心配そうな顔で見つめた。

 無用の心配と手で跳ね除けた。


「次の目的地は、決まったわ」

「ん…どこにするんだ?」

「あのモニターに映る王城よ」


 ―――セーレが見つめる先には。


 黒髪の「優しそうな男性の姿」を捉えていた。モニター越しで演説するのはアーネス。彼の「真意を確かめてやる」と決意を固めた。


「王城、ここからだと100km先になるけど」

「構わないわ、私は王城に行かなくてはならないの」

「どうして、王城に拘るんだ?」


 マークは、ビィシャアに地図を渡し王城への道筋を赤ペンで書き込んだ。そして、セーレに対し「王城へ行く理由」を尋ねた。


「…それは……あの放送を見て確かめたいと思ったから」

「何を確かめるんだ?」


 ―――まごまごしてから、はっきり返した。

 

「それは、私自身の記憶に関係すること。…それにアーネス……過去に言論の自由を掲げた統率者の真意を確かめたいの」


 まぁ、納得。気掛かりなことが1つ。

 

「そうか、わかったよ。それと……」

「それとって何よ」

「いや、あのさ……」

「何なのよ、はっきりしなさいよ」


 マークは呼吸、胸の高鳴りを抑えた。

 

「あの放送で流れた罪人。…セーレの恋人ってだけで、罪を受けていて、やり過ぎたなって思うんだよ……実際付き合ってはいたの?」


 悩む時間が長い。心拍数が上がる。

 

「…わからないわ……けど、アーネスと彼? は戦時下で私の支えになってくれていたわ。それが原因で……」


 安堵の表情、続けて尋ねた。

 

「どうしたんだ?」

「何でもないわ、次の目的地に向かうため準備をしましょう」


 3人はモニターを見るのを止め、その場を後にした。

    


 

◆◇◆◇

 

 ビィシャアの提案で、本日はこの村に泊まる。

 その前に、セーレは久々の買い物を楽しんだ。マークは「お留守番」を命じられた。なぜ「お金があるか」って。それは、最牡さいおすでクライから「支援金を援助」してもらったからだ。


「この村はなんて言う集落なの?」

「そういえば言ってなかったわ。ここは譚蔴たんま村っていうの」

「そうなの、私はあの戦時下で、あなた達の一族の名を知ったわ。ネイサンだったわよね?」

「そうだよ、よく知ってるね」


 ビィシャアが語ったのは、ネイサンの「名前の由来」一族が使う技と、譚蔴の黒家についてだ。


 まず、ネイサンの由来はNature's Sun、自然の太陽だ。日光が少ない環境であり、それを「追い求めた」ことでついた名前だ。


 次に、一族が使うのは「錬成に近い能力」だ。手を燃やしているのは、石を熱で柔らかくし手で形を整えている。彼等曰く「熱くはない」とのこと。


 最後に黒家は、最初に話した太陽の日光が少ない環境を利用した熱を取り込む技術である。この村は崖下で、日が少ないため、カラスの黒色を見て閃いたらしい。


「そうなの、説明ありがとう」


 ビィシャアとセーレは、買い物を終え帰宅した。


 ビィシャア家に戻る。

 母親のご好意で、手料理を振る舞い客人をもてなした。料理は鳥の姿焼き、芋サラダ、コンソメスープとぶどう酒を出された。その料理はどれも美味で、ぶどう酒が進む。結局、セーレとマークは酔いが回り、ビィシャアの家に泊まることが決定した。

     


 

◆◇◆◇


「コココ、コケ、コケッココー」


 ペット兼食料である鶏。放し飼いの嬉しき声で、セーレは目を覚ました。


「朝か」


 ビィシャアの言った通り、この村は崖下で日差しが少ない。朝の7時なのに、外の天気は薄暗く太陽光の柱がまばらに散らばっている。セーレは床に敷かれた敷布団から起き上がり、玄関ドアを開け外へ出た。


「あら、おはようございます」

「おはよう」


 ビィシャアは何やら、小さなポーチの中に鉱石を詰めていた。その鉱石は、赤、青、黄色と様々で形も不揃いだ。一通り詰め終わると彼女は立ち上がった。


「私もセーレの旅に同行させてほしいの」


 ―――無言。深呼吸し返答。

 

「それは嬉しいけど、私といると憎しみが増すのではないかしら」

「私はあなたが憎いのかもしれない。でも正直、パパの死は認めたくないし、あなたが全部悪いとは言えない。だから、これからのあなたを見て、この気持ちに決着をつけたいの」

「…わかったわ……。私は呪いで、あなたの名前を覚えることはできないけど、これから宜しく頼むわ」


 セーレは左手を前に出し、ビィシャアと握手を交わした。


「えー、俺の時はしなかったよね。握手」


 マークが後方から落胆した顔で、2人のやり取りを眺めている。


「ふふふ、あなたは付き纏ってるだけでしょう」

「酷いな。ごほん…とにかく……、ビィシャアさん。宜しくお願いします」

「ビィシャアでいいわ、あなたも宜しくね。マーク」


 かくして、セーレ、マーク、ビィシャアは王城へ向け出発するのであった。

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