第20話 戸惑い

 マークは、セーレとビィシャアの側まで、バイクを徐行し近寄った。


「とりあえず、どこかで体を休めたいわ」

「それなら、セーレ。私の村へ招待するわ」


 ―――グイグイと近寄ってきた。

 

「…村か、ありがたいわね。それなら、あなたに案内をお願いしましょうかしら」

「えーと、ビィシャアさん。バイクは2人乗りなんだが、君の村はここから遠いのか?」

「遠くはないわ、それに私にも移動手段ならあるわ」


 ビィシャアのポーチから石を取り出した。その手は勢いよく、火柱を立てた。「中二病でも発症した」のか、と心配になった。火も消え、握った手を開く。赤い石が輝いていた。その石を上空に投げる。


「何をしたんだ?」

「今からよ、見てなさい」


 砕けた石は、地面に落ちた。触手みたいに柔らかくなり周囲のオアシスの水、地面の土、草花を吸収していく。やがて、石だったものは「馬の姿」に変化した。見た目は「赤い鉱石」でガラス細工のような美しい彫刻に見えた。


「私はこれに乗っていくわ」

「凄いな、これは何なんだ?」

「これはね、このブレスレットのおかげなの」

「そのブレスレットは宝飾や飾りが施されているな。かなり高価なものなのか」


 ―――少し考えて、返答した。

 

「高価かどうかは知らないわ。けど、このブレスレットには特殊な魔力が込められているみたい」


 ビィシャアとマークがブレスレットの話をしてる様子をセーレは、黙って静観していた。


 そのブレスレットに見覚えがあった。


 かつて、召喚術師を輩出し戦時下に参加した一族があった。その一族の名は「ネイサン」彼らは「鉱石を自在に操る」という。


「さぁ、セーレ。案内するわ、私の後についてきてね」

 

 何かやけにビィシャアに、懐かれてるのは「気のせい」だろうか。私を「憎む」といった気持ちは、なくなったのか。そんな気持ちとは、裏腹に彼女は足早に村への道を案内するのであった。

   


 

◆◇◆◇


「何か、薄暗い村だな」


 村の入り口には、何やら異様な雰囲気が漂っていた。家の外壁が全て黒。怪しげな薬を売っている老婆も黒ローブを着用。子供もいるが、笑い声が聞こえず空気が重い。何か雨が降った後のジメジメとしたものを、感じ取るマークであった。

 

「私の家はあれよ」

「やっぱり、黒なんだな」


 ビィシャアが指を指した家は、木組みで外壁はやはり黒。もはや、この村のしきたり的なものなんだろう。


「ただいま、ママ」


 ―――ビィシャアが玄関ドアを開ける。


 開けた先には40才そこらの女性がトマトを包丁で切り、サラダを作っていた。彼女は母親に駆け寄り、セーレとマークを紹介した。


「お母様、初めまして。私はセーレと申します」


 家の中は、黒で統一はされていない普通の住居だった。密かにマークは「黒でなくて良かった」と思うのであった。


 彼女の母親は、料理をする手を止めた。


 2人に近づき、挨拶をした。セーレは自己紹介の後に、膝をついて頭を下げた。


「私は、あなた方家族に許しがたい行いをしてしまいました」

「…え……急に何をなさるんですか」


 ―――その行動に彼女の母親は驚いた。

 

「エドモンド家の父親は、私達、言論の自由の活動メンバーです。その方は、偵察部隊リーダーで情報のためなら、命を投げ出すことを厭わない勇敢な人でした」

「知っています。主人は仕事一筋でしたから」


 頷きながら、またゆっくりと口を開いた。

 

「私は、自分の弱さと未熟さで、守るべき人達が殺される姿をただ傍観するしかありませんでした。全て私が不甲斐ないからです。申し訳ございません」


 ―――セーレは、頭を深々と下げた。


 歩きながら、ビィシャアの母親は彼女の肩に手を置いた。頭を左右に振った。


「あなただけが悪い訳ではありません。私も主人が亡くなって驚きはしましたが、彼も本望だったんだと思います」

「ですが、私が……」

「セーレさん、あなたはお優しいのですね。こうして、一兵士の家族にまで律儀に謝罪してくれる。その気遣いだけもらっておきます。どうか自分を責めすぎないでください」


 瞳に涙が溢れ、ビィシャアの母親の両手を掴み深々と頭を下げた。

 

「ありがとう……」

    


 

◆◇◆◇

 

 ビィシャアの母親は料理に戻る。

 娘に対し「この村の紹介をして」とお願いをした。セーレとマークは、ビィシャアの案内で村を見学して回る。ある場所が目に止まる。そこは、一際大きな歓声が上がる集団がいた。


「これは、巨大なモニター?」

「そうよ、凄い技術でしょう。なんでも天才発明家が作ったそうよ」

「あぁ、クライか」


 どうやら、どこかの内政放送をライブ配信しているようだ。


「この者を処刑する!!」


 セーレは、処刑される罪人の顔を見た途端、急に頭を抑え苦しみ出した。「何か記憶の重要」なピース。しかし、記憶に蓋をされた弊害感を覚える。

 

 あの人を見ると「胸が苦しい」張り裂けそうだ。


 マークとビィシャアが「どうした」と心配そうに近寄る。モニターの音声放送が続く。


「この者は、不敬にもセーレ様の恋人を名乗った。よって罪人は死刑との判決をアーネス様が下された」


 モニターには刑の執行を待つ、囚人の前に王城から1人の男が現れた。胸には数々の勲章と白マントを携えていた。

 

「あなたなの、アーネス? どうして、あなたに何があったの」


 擦れ違わない視線。古き面影に月は困惑した。優しき中にある影の情報を伝達。理解が及ばない2人の距離は架空となった。

    

    


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