第13話 戦時下の追憶1

「さようなら」


 敵の返り血を浴びて、銀髪から赤髪になったセーレ。彼女の真紅の瞳に映った敵を惨殺していく。目には大粒の涙を浮かべた。


「凄いね。うちも負けないぞ」


 シルカの瞳が茶色から金色となる。敵に死の視線を送った。目が合ったものが、次々と爆撃でも、受けたかのように爆散していった。


「ねぇ、シルカは今楽しい?」

「どうしたの、セーレ。辛いの?」


 毛先の血液が下へ。気分も下降気味となり、吐き出したい。

 

「敵を潰したり、操ったりすると、その人の見た記憶が私に流れてくるの」


 ―――驚き、笑顔で詰め寄った。

 

「記憶を覗き込む、なんて凄いわ。これなら敵の情報を掴めるし、早く戦争も終わるね」

「でもね、そんな万能ではないの」


 ―――金髪の美しき太陽が質問する。

 

「どうして?」

「他人の情報量が多すぎて、名前くらいしか記憶できないの」


 月から溢れた雫達。堪えようにも、落陽とした心。逃げ場もなく、沈む影は同じ絶望、恨みと辛みへ吸い込まれるだけ。

 

「そうだったんだ…無理に覚える必要はないわ。辛くなったらいつでも言ってね」

「シルカ…ありがとう」


 ―――シルカは優しく、セーレを励ました。


 金髪、金の瞳と銀髪、赤の瞳が戦場を駆ける。筋肉つけ過ぎなお婆さん、黒髪のバランス良い体付きの男性がその姿を眺める。


「同年代の2人、息が合ってるな。なぁアーネスよ」

「あぁ、彼女らも奮戦している。最後の取り分ぐらいは出張らないとな」

「お前が出たらすぐに終わるだろうが」

「いや、2人に触発されたかな」


 ―――アーネスも戦場へ参加。敵が宙に舞っていく。

 

 断末魔が響く。

 頭が壊れそう。

 逃げ出したい。

 

 戦争は見ず、知らずの命を多く奪う。セーレは、流れ出る涙を制御できず、吐き出し続けた。


「…また戦時下の夢か。最近嫌な夢が続くなぁ」


  

 

◆◇◆◇


 セーレが最牡さいおすに来て、2日目。

 マークと私はそろそろ退院だ。


 ―――病院内の記憶を思い返せば。


 クライが夜に私の病室に忍び込んで「メスを持っている」ところをナースに注意されたり「私の神器を見つけるためだ」と言って、血液検査の後に、手術室に搬送しようとするし「破茶滅茶」だったわ。


「やぁ、お目覚めかい」

「げ…クライ……」


 ―――帰れ、と顔で主張した。

 

「嫌そうな顔しないでくれ」

「どの口が言うの」

「それより、約束の物ができたんだよ」


 クライは、セーレに眼鏡と収納ケースを手渡した。


「これは何?」

「この眼鏡を掛けると、半径1kmの神器に反応し、赤マーカーがつく探査機だ。しかも、光で動いているため、太陽光を充電すれば半永久的に使える代物だ」


 要求通りの物で、良かったと安堵した。

 

「そう、ありがとう」

「後、君のマフラーを改修させてもらって、ペンダントにした。真ん中にあるボタンを押すと、君の能力のオン、オフが可能だ。さらに、オフ時は君のオーラも完璧にシャットダウンできる。勿論、太陽光充電でこれも半永久的に使える代物だ」


 クライから受け取ったペンダントをつけて、真ん中のボタンを押した。セーレは黒髪と黒目になった。眼鏡の方は先端のスイッチを押したが、何も反応がない。


 ―――表示できません、と反抗された。


 収納ケースへ眼鏡をしまった。


「さて、バイクだが、整備士のコーンが直接引き渡したいらしい。入り口付近にいるから、声をかけてくれ」

「わかったわ」


 マークが病室を尋ねてきた。

 すっかり、怪我も治り服装も新しくなり、腰に何やら武器を2つぶら下げる。

 

「クライさん、セーレ。2人とも揃ってるね」

「あぁ、マーク。どうだい、気に入ってくれたかい」

「それは、もうとっても、良いデキです」


 鼻高々で自慢げな大きな子供。男って、単純。

 

「クライ、彼に何を渡したの?」

「あぁ、彼には服とトンファーを渡したんだよ」


 服とトンファーの何が凄いのかわからなかった。


「説明不足だったね。まず、服は防御陣を施している。前より受ける攻撃を30%カットしてくれる。そして、2つのトンファーだが、電撃が流れる。しかも、650Vを3回も流し込むことが可能だ。これを受けたら、常人は、まず立っていられないね」


 感謝しかない。足手纏いも卒業だ。

 

「ありがとう、これで俺も戦える」

「ちょっと。あなたは、戦いに参加させる気はないわよ」


 ―――ベッドから降りて、マークの瞳を見つめた。


 赤面した。綺麗すぎて直視無理。思考が働かない。

 頑張って、行動する。やること、見つめ返す。そして、彼女の肩に両手を置いた。


「ちょっと……」

「大丈夫。君に迷惑は掛けない。だから、これからも宜しく頼む」


 真剣な表情。何を言っても無駄か、と仕方なく折れた。

 

「足手纏いなら、その場に捨て置くわよ」

「望むところだ」

「…それと……」

「それと?」

「いつまで、肩に手を置いているのよ」


 セーレの拳がマークの頬にクリンヒット。病室の廊下近くまで、蹌踉めく。本気のグーだった。少し、ショックを受けた。

 

 クライが転んだ男の側まで、歩いて近寄ってきた。


「トンファーだか、1回使うと1日、光充電が必要だ。つまり、3回使い切ると、1日経たなければ使えない、ということだ。ここだ、ていうときの切り札だから、慎重にね」

「何から何まで、ありがとう、クライさん」


 立ち上がり、2人は握手を交わした。


「ちょっと、着替えたいからアンタは出て行きなさいよ」


 ―――セーレの足蹴りを受けて、病室の外に締め出された。


 クライに支給された服に着替え始めた。

 上半身は白っぽい服。手には黒グローブ。黒スカートに黒のレギンスを履いた。


「因みに、その服にも仕掛けがあるんだよ」

「クライ、説明はいいわ。ただ身体能力向上とワープ能力がついた、だけでしょう」


 ―――昨日語って聞かせたが、説明の圧を感じる。

 

「そのワープ機能の原理が凄いのになぁ」

「あなたの話は長くなるし、あんまり難しい話はわからないわ。さてお別れね、クライ」


 病室を出よう、と行動に移す。

 

「僕は話し足りないよ。それに、君を解剖できなかった。また必ず来てくれよ、セーレ」

「…えぇ……考えとくわ」


 セーレは、病室の扉を開け、マークと共に歩き出した。

  

    


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拙作お読みいただき感謝しか御座いません。

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