第12話 教団

「ハハハ、立派なストーカー発言だな」


 ―――青年は真剣だった。

 

「あなた本気で言っているの、こんな出来事は序の口で、もっと怖い目に会うかもしれないのよ」


 彼女の物言いに、我慢と不満が爆発した。

 

「あなたじゃない、マークだ! 君がその名前を呼ぶなら諦めるよ」

「ハハハ、上手いね。セーレの制約を逆手に取るなんて」

「笑い事ではないわよ。もー、私が人の名前を記憶できない制約を盾にされるなんて」


 ―――クライは笑う。


 セーレは、額に手を置き「頭が痛い」ような仕草をした。青年は関係なく、制約の話を続けた。


「教えてくれ。君の制約の呪いとは何なんだ!」

「何でこうなるのよ。こんなことなら、早めに手を切っておくべきだった」

「頼む。教えてくれ!」


 マークは諦めず、セーレを逃さない。

 

「…もん、仕方ない……この左手にある赤い蛇の刺青が原因なの」

「刺青? それは本を収納する魔法ではないのか」


 ―――小さく頷く。

 

「確かに、そうでもあるけど。この刺青をされた者は、亡くなった人しか記憶できない呪いなの」


 マークは疑問を感じ、質問する。

 

「けど、ヘーゼルさんやクライさんは、名前で読んでるのは、なぜだ?」

「僕達は人智を超えた存在だよ。呪いを受けても、名前くらい呼び合える。つまり、一般人とは違うんだよ」


 角が立つ物言いに、少しイラッとする。深呼吸して、呪いについての話を進めた。


「セーレ。呪いということは、かけた者がいる、ということだ。それは誰なんだ?」

「そこまで、踏み入る気なの。別にいいじゃない、ここまでで!」


 病室から追い出す仕草をする。しかし、詰め寄られた。

 

「ダメだ! 俺は君のことが、知りたいんだ」

「ふー、言論の自由禁止を強いる者にして、その発案者であり私達が、後一歩で倒す事ができなかった男。その名は…アドモスよ」

「アドモス?」


 マークは、彼女から聞いたこともない男の名前を聞き「誰なんだ」と考え込んだ。


「彼を倒さなければ、言論の自由を勝ち取ることができない」

「セーレの言う通りだ。今は彼の名前と制約を知れたんだし、君も怪我を負い安静の身だ。この話はこれで終わりにし、君も回復ポットへ戻ってくれ」

「そうだな。クライさん、わかりました。看護師さん、申し訳ありませんが、宜しくお願いします」


 マークは、看護師の車椅子補助を受け、その場を後にした。


 ―――扉が閉まると、セーレは起き上がろうとした。


「ダメだよ」


 クライは、彼女の首元へはさみを向けた。


「あなたには関係ないでしょう」

「君の考えはわかる。黙ってこの場から立ち去ろうとしているんだね」


 ―――図星と焦る。

 

 空気も読めないクセに、頭だけは無駄に良過ぎた。

 

「だったら、何よ」

「君も病人だし、経過観察が必要だ。それに旅には、足も必要だろう。あのバイクはプレゼントするから、もう少しマークを連れ回しても、旅に支障はないだろう」

「…」

「言論の自由を謳った僕達も、もう少し他者に対し、素直な面を見せても良いと思うよ」


 ―――ベッドへ戻る。

 

「わかったわよ。もう寝るから、あなたも病室から出ていてくれる」

「わかった。それと、逐一、経過観察担当が隣にいる。何かあったら、声をかけてくれ。それと解剖されたくなったら、すぐに呼び出しコールを……」

「早く、行け!」


 クライを追い出すと、目を瞑り、深い眠りについた。



 

◆◇◆◇

 

 場面は変わり、暗い部屋。大きなテーブルと椅子が4つ並び、変な銅像を飾る不気味な教団がいた。そこに、男2人と女1人が椅子に腰をかける。


「久しぶりだな、この会議をするのも。デロスよ、お前はいくつになった?」

「女性に年を聞くのは、失礼よ、オラクレ! …今回はサーメスからの会議の呼び出しらしいけど、何の話だろう?」

「我等4教団は信じる者は違えど、情報共有と連携は必須だ」

「勤勉だな、マーガル。おっと、きたな」


 遅れて、サーメスが空席の椅子に腰をかけた。

 

「お待たせしてしまい、申し訳御座いません。まず遅くなりましたが、皆様にご報告します。セーレ様が天から地へ降り立ちました」

「その話は誠か、あの洗脳の女王セーレ様が生きておられたとは」


 ―――マーガルは興奮気味な表情をした。


「はい、我が目でしかと拝謁しました。輝かしい銀髪、真紅の瞳に美しいお顔立ち。間違いなく、我が洗脳の女王セーレ様でした」

「セーレ様が生きておられたとは、我が爆発の女王シルカ様が聞いたら歓喜の言葉をかけるでしょう」

「そうですとも、セーレ様とシルカ様は、あの言論の対戦で輝いておられた御二人だ。故にマーガルには、セーレ様のお迎えを手伝っていただきたい」

「是非とも頼む」


 ―――暑苦しい握手を交わした。

 

 気持ち悪い笑顔でお互いの顔を見た。

 その顔を見て、デロスが発言。


「そう、2人で勝手にどうぞ。私はアーネス様、一筋だし。女性は信仰しない主義だから」

「え、美女2人とのプレイか。あぁ、妄想するだけで最高だ」

「貴様は不敬だぞ、オラクレ!!」


 マーガルとサーメスは同じ言葉で注意を促した。


「そう、怒んなよ。我が魅力の男爵ルーサー様の教えなんだ。それぞれ意見がすれ違うんだ。仕方あるまいよ」

「ちょっと黙っていてください。では、セーレ様のお迎えは私、サーメスとマーガルが実行いたします。それで宜しいでしょうか?」

「異議なし」


 3人とも異議を申し立てず、会議は終了した。

 サーメスは、別室に移動し祈りを捧げた。


「偉大なる洗脳の女王セーレ様。貴方様には邪魔な虫が付いておられます。大いなる祈りを邪魔する虫は取り除き、必ずや貴方様を我が教団の元へお招きいたします」

  

    


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