第10話 砂鯨の鋏を取れ

「見てくれ、セーレ。走ったぞ」

「そうね、良かったわね」


 マークは、おじさんのレクチャーを受けて、50分くらいでバイクを乗りこなせるようになった。レクチャーを終える。講習許可証を渡した。


 ―――2人は固い握手を交わした。


「そのバイクは、今日からお前のものだ」

「ありがとう、コーンさん。大切に使わせてもらうよ」

「ねぇ、終わったの?」


 会話が終わる。セーレは、サイドカーに乗り込んだ。マークがバイクに近寄る。2人はサイドカーに、格納されていたバイザー付きヘルメットを被った。


「よし、準備できたぞ」

「砂クジラに向けて出発しましょう」


 正面入り口が開き、1台のバイクが疾走した。

 

 地面を走るバイクにマークは気分が高揚する。バイク乗りが受ける風を全身に浴び、子供のように大はしゃぎしていた。


「最高だな」

 


 

◆◇◆◇

 

 暫く走ると、セーレから「停止指示」を受けた。その場所はサボテン地帯だった。


「ん…何だ地震か……」

「くる」


 岩礁を泳ぐ、砂クジラが顔を覗かせた。体長は30m程で「つぶらな瞳」で愛らしい顔をしていた。


「これが砂クジラ。とっても、大きいのね」

「凄いな。砂の上を泳いでいる」


 クジラはサボテンまで泳ぎ、ムシャムシャとサボテンを食べ始めた。棘があるが、舌はそれをものともせず、完食していく。

 

 セーレはサイドカーに入っていた双眼鏡で、頭頂部を確認した。緑色のはさみを現認。


「あれね」

「どうするんだ。あれ、何をして」

「あなたは、そこで待機」


 ―――急にクジラに向かって、走り出した。


 途中にある岩に身を隠しながら、徐々に距離を詰めていく。尾びれあたりに着くと、「そろり」と音を消し、忍び寄った。

 

 手に持っていた爆竹とマッチ棒を用意。

 導火線に火をつけた。「パチパチ」と音が鳴る。砂クジラは混乱。彼女に突進してきた。同時に、髪が白髪から銀髪に変わる。


「さぁ、クジラさん。すぐに終わるから、私の言うことを聞きなさい。今こそ自由を。Follow me, pig!」


 クジラの動きが急に止まったが、もがこうと「ジタバタ」しようとしている。セーレは力を強め、懸命にクジラを縛る力を強めた。暖かな日差し、汗ばむ天気でも挫けない。

 

「ぐぉぉぉーん」

「大丈夫。すぐ終わるから。貴方に危害を加える気はないの。だから、お願い。大人しく私の言うことを聞いて!!!」


 3分後。

 砂クジラの動きが穏やかになった。すっかり、セーレの指示を聞くようになり、まるで飼育員のようだ。


「よし、地面に少し潜って。頭の先端だけ出しなさい」

「ぐぉーん」


 言葉に従って、クジラは「ゆっくり」と沈んでいく。

 

「良い子ね。すぐ終わるから」


 クジラに刺さる鋏を取り、クライから貰った傷薬を頭の傷に塗ってあげた。傷の治療が完了。縛る力を解いた。砂に再び潜り、見送るように、その場を離れていった。


「おーい」

 

 ―――声が聞こえる。


 遠くにいるマークへ手で、「完了の合図」を送った。


「クライの神器回収依頼は、これで完了ね。後は、バイクに乗って、帰るだけね」

「はい、我等と共に帰りましょう。洗脳の女王セーレ様」


 ―――その声に驚き、振り返る。


 優勢思考の七三男が、フルートのような楽器をセーレに向け吹いた。

 その振動は、衝撃波と似た音波攻撃であった。頭が「クラクラ」とし、脳震盪に近い症状が出始めた。


「さぁ、参りましょう。セーレ様。我等と共に祈りを捧げに」

「だから…そんなの……望んでないって」


「フラフラ」になりながらも気力で、何とか体制を整えようとした。しかし、再度、音波攻撃を受ける。彼女にさらなる負荷を与えた。立っていることできず、気絶。倒れ込んでしまった。


「ふふふ、セーレ様。やっと、ご理解いただけたようですね。それでは、その不自由な体を捨て、我等と共に」


 ―――何か音が近づく。


 危険を察知し、七三男は振り返った。目の前には既にバイクが迫る。当然、避けられる筈もなく。砂埃を立てながら、衝突した。

 

「セーレに触るな、ストーカー野郎が!」


 マークは違和感を感じた。アクセルが全開なのに、それ以上先に進めない。砂埃が晴れると、岩のような皮膚の赤ローブの男が姿を見せた。

 

「ふふふ、残念。我が力は身体を石と変える力。邪魔をしないでいただきたい」


 バイクを手で掴み、そのまま投げ飛ばされた。

 横に倒れ走行不能に陥る。投げ出されたマークは起き上がり、相手のふところに飛びかかった。


「セーレから離れろ!」

「しつこいですね。やっと掴んだ神からの啓示。対面を許された我等が神セーレ様。その対面を邪魔するのは、万死に値する罪です」


 掴んだ手を引き離され、七三男から殴る、蹴るの暴行を受けた。それでも諦めずに、足にしがみついた。


「…セーレに……近づくな」

「まだ抗いますか」


 さらに激しい暴行は続き、マークは動かなくなった。


「…」

「どうやら、終わりのようですね。さぁ、長らくお待たせしました。洗脳の女王セーレ様。やっと、御身を我が見えざる優勢思考の元にたてまつれること、誠に感謝申し上げます」

 

    


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