第59話 題名募集ʕ⁠ ⁠ꈍ⁠ᴥ⁠ꈍ⁠ʔ


 エイルさんが王都に行く?


 私は辺境伯の手紙『王都同行の誘い』の見出しを見た瞬間、自分の足元が崩れる感覚に陥った。

 自分の立つ場所以外が崩れ、暗闇に落ちていく。それを眺めながらも、脳内は忙しなく疑問が渦巻く。

 どうする?どう動く?だが、疑問が渦巻くだけで、思考は追いつかない。


 私はなんでこんなに不安なんだろう?エイルさんが私から離れると分かって、なんでこんなにショックを受けているの?

 エイルさんだって、用事でアターキルを離れることもあるだろう。あの魔導船にだって、エイルさんは乗船していのだ。


(おそらく、四歳の身体とミオの本年齢が攻めぎ合っているんだろう。拗ねやすく頰を膨らませたり、幼体が寂しさを埋めるため、安心を得る為に保護者を求めるのは当たり前の衝動だ)

(私、まだ念話でなにも言ってないんだけど……)


 どうせまた、顔に書いてあるって言いたいんだろうけど、いい加減やめて欲しい。プライバシーの侵害である。時には黙って待つのも優しさだ。


(ほら、すぐにそうやってぶぅたれる〘元からです〙……そうか。元から精神年齢が低いなら、更に引きづられやすいぞ?ミオ、お前さんが自覚している以上に、エイルを保護者として認めているのだろう)


「どうしました?ミオ。なにかジョウ様とお話ですか?」


 私が黙っているのを見て、エイルさんはなにかあったかと聞いてきた。


「いえ……このお手紙って、エイルさんがアターキルから出るってことですよね?」

「……っ!?私がここを離れたら寂しいのですか!?」


 何故か感極まったように、両手で口を覆い、目をウルウルさせている。


「それはそうですよ。エイルさんは私の保証人です。ですがわ私はどうやら、それ以上の感情を持ちえてしまったみたいです」

「それ以上の感情?」

「まだ出会って数日ですが、エイルさんが私から離れてしまうと思ったら、とてつもない不安に襲われていたんです。足元が揺らいで、思考はぐちゃぐちゃ。その不安の正体に必死に探っていたら、私のような幼体は、寂しさや安心を求めて当たり前だと、ジョウが教えてくれました。私は自分が自覚していなかった感情を、知らず知らずのうちに、エイルさんに求めてしまっていたんです」

「それは当然でございましょう。ミオ様はご年齢の割にとてもしっかりされておりますが、それでもやはり子供なのです。ミオ様は、我々にもっと我儘を言って下さいませ」


 静かに壁と同化していたゼフさんが言葉を発した。


「ゼフさん、有り難とうございます」

「いえ、使用人の分際で過ぎたことを申しました」

「使用人だなんて、とんでもない!私にとっては、家族です!」

「そう言って頂けて、なによりの誉れでございます」


 エイルさんはなにも言葉を発しないが、彼は目から水を大量に流していたのだ。だから、ゼフさんが主人に変わって発言してくれたんだろうけど……エイルさんって、意外と涙もろいんだね。


「ゼブッ!こ"んか"いの"招請し"ょうせ"いは、こ"と"わりまし"ょう!?」

「なりません」

 ゼフの答えは、無情であった。


 辺境の領都の街アターキルから王都へは、野営と宿泊を繰り返し、一週間の道程だ。多分、社交シーズンは帰れないから、次に帰郷するのは春になる。

 そんな長期間を、こんなに慕ってくれるミオを置いていくことなど出来ない。エイルは感激のあまり、転移のことが頭からスッポ抜けていた。


 雰囲気を壊すのは、憚られたからだ。だから、ミオは遠慮がちに申し出た。さすが元日本人。


「転移一発で帰ってこれるよね?エイルさん」


 物申した私に、エイルさんは私を見る。瞳は「そうだった!」と物語っており、私は頭痛を覚えた。ゼフさんの苦労が忍ばれる。


「……っ!?そうですが!そうですがっ!!毎日帰ってこられる確証はないんですよ!?毎日毎日、化け狸共の招待状が絶え間なく送られてくるんです!あんな奴らの相手なんて、超無駄な時間を私は過ごさなければならないんです。嫌にもなるし、逃げ出したくもなります!そんな時に緩和剤癒しのミオがいれば、私も頑張れるというものです!」 

「癒しって……『ミオ様がご同行すれば……いやいやっ、駄目だ!』……」


 私が呆れの言葉を紡ぐ横で、ゼフさんがエイルさんの餌に惑わされている。寸での所で、自制心が勝ったようだが。


「ミオには、初めての王都になるんです。見るもの全てが新鮮で、きっと楽しいですよ!ちょっと視線が鬱陶しいかもしれませんが、そんなのは無視です」


 そりゃ、異世界の大都会は初めてで心躍るだろう。エイルさんの事情に巻き込まれていなければ。


「新鮮な王都は、きっと楽しい日々が過ごせることでしょう。多少宿り場宿泊先に暗雲が渦巻いていますが、この時期の屋敷はどこも同じようなものです。貴族にとって社交シーズンは戦場と同義!にこやかな会話の下では、バチバチと火花が散っています」


 宿泊先って、辺境伯邸のタウンハウス?それとも、お城?

 そりゃ貴族夫妻は、自分の権力を誇示したり、情報収集に勤しんだり、年頃の女性はお見合いの意味もあるだろう。新たな人脈作りもしかし。低位・中位貴族には、社会的地位の向上を狙う絶好の機会スペシャルチャンスでもあったわけだ。


「奴らには際限がありません。一つ出席すれば、我も我もと群がってきます。そんな私に、癒しがなくてどう過ごせというのでしょう!休憩が必要だと個室に行けば、悪いハニートラップに引っかかってしまうかも!?」

「いや……私にはエイルさんが絶対零度の視線で、女性を完膚なきまでに叩き潰す光景しか浮かびませんけどね」


 もはやサメザメと泣く振り泣き真似に様変わりしたエイルさんに、私は自分に問いたい。親認定は、本当に彼でいいのか?と。

 ゼフさんをちらりと見れば、もはや悟りの境地の表情で遠くを見つめていた。


「はぁ……とりあえず私の同行云々については、辺境伯の許可も必要でしょう。今話し合っても、意味がありませんよ。手紙の返事の期限も近づいていますし、対面は了承の意で返事をするしかないでしょう」


 魔従族の再来の期待?彼は、ごく普通に問題なく過ごしていると書いてあったが、魔従族に期待する問題でも起きているのだろうか?


 どちらにしろ、領主の判が無ければ、私は街を追い出されたからね。この恩は返しておくべきだろう。貴族への貸しほど怖いものはない。


「そうですね。では、ミオの許可も取れましたので、ローリーには『是』と送っておきましょう」

「あっ!ジョウの同行付きですよ!?辺境伯領は、テイマーへの法の整備が行き届いて当たるのでアレですが、動物が苦手な方もいらっしゃいますので、その場合は申し出を願います。人化させ伺うようにしますので」

「……そうですね。配慮をすることは良いことですからね。是非、聞いておきましょう」


 もはや私の内情ステータスはバレバレだ。人化が出来る種族は、竜種や聖獣など高位などというレベルではない。


(エイルさんも薄々は勘づているだろうけど、こうやって言えば、憶測は現実に変わる)

(はぁ……いつかはと思っていたが、予想より早かったな。吾輩の人化の華麗さに、驚く日が楽しみだ)


 フフンっと得意げに背を伸ばし、尻尾を優雅に揺らすジョウは、私が初めて褒めたのが嬉しかったらしい。すっかり癖になっている。

 


☆今回は題名が浮かばず。

題名募集にしてますが、気にせずお読み下さい(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)

※なにか閃けば、コメント欄までお願いします(⁠人⁠ ⁠•͈⁠ᴗ⁠•͈⁠)

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