第58話 キュウちゃんの謎と辺境伯の手紙


「あっ、そうだ!ウルシア様に紹介したい人?がまだいたんだった」


 ポンッと手と打ち合い、キュウちゃんとレイラを影から出した。だがウルシア様は、私が紹介するよりも先にキュウちゃんの身体を引き寄せた。


「迷彩卵が無事孵ったのですね。名前が鳴き声そのままとは、ミオはセンスがありませんねぇ」


 水色のフワ毛を撫でながら、ウルシア様は言い放つ。


「キュウ?」

 そう?と言わんばかりに首を傾げるキュウちゃんは、今のところは名付けに不満はないらしい。


「ですが、私の不安は的中してしまいましたか」


 キュウちゃんを未だ撫でる手が止まらず、不穏なことを言い放つウルシア様。撫でる気持ちは分かるよ、止まらないよね!でも……。


「ウルシア様、不安の的中とはどういうことですか?」


 あの時(卵を渡しに来た時)は、そんなことは一言も言わなかったじゃないですか!?私は少しだけムッとしながら、彼女を見据える。


「迷彩卵は、近くの魔力を吸い成長すると言ったでしょう?迷彩卵の周りにいた人物たちが特殊だもの。卵が特殊な生物に孵っても、なんら不思議ではないでしょう?キュウちゃんは、エイルと同じく新種なの。まさかミオも、この出で立ちを見て、普通の鳥だとは思わなかったでしょ?」

「そりゃ、変わった形状をした鳥だな〜とは思いましたけど、ガイア様がくれたものですし!そんなものかなぁと思ってました」


 いやぁ、まさか新種とは。では、生態形や能力は謎に包まれているのか。能力は鑑定で見れるか。キュウちゃんの為にも、定期的な観察が必要だなぁ。


「しかも世界は違えど、獣神見習いの存在と加護を持つ者から漏れる神気を吸って育ったキュウちゃん自身も、聖獣になっているわ」

「えぇ!?」


 今はまだ雛だからいいけれど、ちゃんと教育なさいよ。成体になれば、国一つ滅ぼすなんて簡単な力を持つことになるんだから!との警告を頂きました。


「マジかぁ……責任重大だぁ。前世でも子育てなんてしたことないのに、ハードル高いよぉ」


 ラノベのもふもふの代表格フェンリル並みの戦闘力を持つと言うこと?私はそれを思わず想像してしまった。そして頭を抱える。薔薇には棘があると言うけど、これじゃあ牡丹に毒だよぉ!


(意味が分からぬわ!)

(あっ、口に出てた?牡丹は可愛いけど、実は軽度の毒があるんだよね。見た目に騙されて侮ると、痛い目を見るってこと!薔薇は美人の例えね!まぁ、キュウちゃんに狼藉を働こうものなら、返り討ちは当然ね?本物の悪党に人権は無いもの!(byリナ・イ〇〇ース))

(あぁ……キュウの誕生に吾輩の力も吸われているのは分かっていたが、聖獣を孵らすことになるとは予想していなんだ!)


 またあるあるな姿勢のジョウを見て、私はまたか…と思う。前脚で頭を抱えたジョウは、もう既にお馴染みである。


「キュウちゃんは成体になっても、今の身体が一回り大きくなるくらいかしら?」

「Zzz……」


 一向に撫でる手を止めませんが、撫で過ぎじゃないですか?キュウちゃんも、気持ちよさそうに目を細め……あぁ、陥落してる!


「それなら、兎とかウリ坊の大きさですかね?でも、そんな可愛い生物が国一つの破壊力を持つなんて…」

Oh jesus!と四つん這いになれば、ウルシア様は微妙な顔をした。なんで?

「前世(?)の母世界とはいえ、異世界の神の名を叫ばれても……」

「……あぁ、確かに。癖で……すみません」


 ちなみにJesusは、イエス・キリストの名前だよ!(^_-)-☆


「とりあえず、聖獣キュウちゃんと時空精霊レイラは、ミオ様といっしょに行動しますから、加護を与えておかなければいけないと思います」


 話の筋を戻すように、ウルシア様に進言するディアトリが部下っぽい。


「それもそうね」


 ウルシア様はディアトリの言葉に納得して、スイッと指を振るう。そうすれば、レイラたちの周りを金粉が舞う。


「聖域には、加護を持つものしか入れないものね。ただし今回付けたのは、ミオの同行者を名目とした加護だから、特に効果はないわ。下界に戻って、鑑定で確認してみなさい」

「はい」

『ありがとう、ウルシア様!これで、主と一緒!』

「キュウ!」

「ふふっ!二人とも生まれたてよ。よく学び、精進なさい」

「はい!」

『キュウ!』


 スチャッ!敬礼をする二人を見て、私は半目になる。可愛い!可愛いよ!?だけど、私は教えたことはないのだ。思わずジョウを見ると、ヤツは視線を反らしやがった。


 犯人はお前か!?ジョウ!


「さて、時間も近づいてきましたね。丸薬に関しては、聖域の素材をふんだんに使って頂いて構いません。外界のように3/4は残さなくても、次の日には復活していますからね」

「はい!ありがとうございます!」


 ジョウなら、聖域まで半日だ。エイルさんな至っては一瞬だ。丸薬の試薬でたくさん素材を使うだろうから有り難い。


「では、また会えるのを楽しみにしていますよ」

「「はい」」


 エイルさんハモりながら答えると、視界が真っ白に遮られた。そして気がつくと、礼拝堂に戻って来ていた。


「旦那様!」


 ゼフさんの少し焦った声に、二人して振り向くと、ゼフさんは安堵したように息を吐いた。


「あの後のお二人は、まるで微動だにせず、神像と同じようになっておりましたぞ」


 精神が神界に飛ぶから、反応がないのは理解していたらしいけど、心配だったらしい。


 軽く肝が冷えました……は、ゼフさんの談である。



「さて、ミオの用事は終わりましたからね、。次は、私の用事の番ですよ」


 にっこりと微笑むエイルさんの手には、いつの間にか例の手紙が握られていた。


「えっと、辺境伯の手紙ですよね?私に会いたいとかなんとか…」


 認定証の時を思い出して顔が引きつる。エイルさんは手紙をヒラヒラと振りながら、「まぁ読んでみてください」と私に手渡した。


『エイルへ

 久しぶり!最近は君に相談するような事案もなく、実に平和だよ。懸念することと言えば、ポーションの備蓄と治療の薬草類の収集に予算を割くことくらいかな?さて、ローハンから報告が上がっていたが、まさか君が真贋判定で是を出すなんてね。これじゃ私も、認めないわけには行かないから、認定証にはサインをしたよ。これでますます、正真正銘魔従族の再来に期待してしまうね!爺やに止められたから、少しは待つよ。でも、早く返事をくれないと押しかけちゃうぞ!? ローリー』

「……これが、このアターキルの領主様ですか」


 私は、手紙の宛名を見て裏返す。

 昔は羊皮紙も貴重だったからね。羊皮紙を三つ折りにして、表の中央に宛名を書き、裏に用件を書いたのだ。そして再び三つ折りにして、更に横でも三つ折りを繰り返し、封蝋で閉じたんだよね。封筒いらずの無駄にしない工夫である。


 それにしてもかなり砕けた文面だな。領主様の名前はロレンツォ様だったはず。ローリーなんて愛称で済ますんだから、エイルさんとの仲が伺える。

 だがやはり貴族だね。自分の申し出が叶わないと思っていない文章だった。私の様子を尋ねることもなく、エイルさんは元気か?と尋ねる文面もない。

 ましてや貴族でしょう?貴族はマナーに厳しいって聞くけど、時候の挨拶とかはどうした?


「気安い奴ではあるのですが……これは恐らく、認定証のテンションが上がった時に書いたのでしょう。その証拠にほら。こちらの書簡はきっちりしているですがね」


 私の眉間の皺に伸ばしながら、もう一つの書簡を差し出した。「将来、皺になりますよ?」だなんて、スパダリ!……さて、こちらの中身はなにかいな?と封を開いた私の目に飛び込んできたのは、『王都同行の誘い』の見出しだった。

 











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