第50話 エイル君はご機嫌斜め


 ミオの担当執務実行係なるものが結成されていた時、冒険者ギルドのギルドマスターの執務室には、ギルマスとエイルが対面していた。


「お前、養い子が出来たらしいな?そうゆうことはしっかり報告してくれねぇと困るって、いつも言ってるだろ?」

「養い子ではありません。彼女は自分で稼ぐ術を持っています」


 さして興味がないのか、髪をいじりながら視線はあさってだ。


「お前なぁ……そろそろ実験以外に興味を持ったらどうだ?」

 

 そんなエイルを気にもとめず、呆れた表情と溜息一つ。


「実験以外?ミオにも興味を持っていますよ?後はジョウ様でしょうか?彼女たちは、一緒にいて飽きません」

「……はぁ。とにかくお前も冒険者ギルドの職員なんだ。規定には従え」

「保証人になった場合、こちらでは後見人扱いでしたっけ?」

「あぁ、そうだ……って、なんだよ。ちゃんと覚えているじゃねぇか!これも覚えときな。ギルド職員の家族は、準ギルドメンバーに属する。有事の際は、非戦闘員として働いてもらうからな」

「分かりました。覚えておきます。もういいですか?」

「…っ!?まぁ待て。Bランクパーティーからの報告なんだが、深層の森がザワついているらしいんだ。なにか心当たりはねぇか?」


 立ち上がろうとするエイルに、ギルマスは慌てて問う。


「……調査依頼ではなく、心当たりを尋ねる辺り、貴方のやり方はこすいですね」


 どんな言質がお望みか知りませんが、自分が有利に立とうとする悪知恵が気に入りません。


「ちょっ、タンマ!?そんなに睨むなよ。兵士や冒険者たちの間で噂になってんだよ。最近、ちびっ子と従魔だけでこの街に来たのがいるってさ」

「……ちっ!」

「お前なぁ、仮にも上司だぞ?」


 上司に舌打ちという態度に、思わず脱力してしまう。

 しかも、扱いづらいことこの上ないパターンその一。何故か、超絶機嫌が悪い。


「薬師ギルドと同じで、ただの名誉職です。サブマスの仕事はカノンがいるでしょう?」 


 エイルは名誉職員なので、サブマスの実務担当を付けている。


「そりゃまぁ、確かにそうだが。そのちびっ子と従魔が、おまえの屋敷に出入りしていると話していた職員もいるんだ」

「誰ですか?そのお喋り好きな職員は。教えなさい。氷漬けにして差し上げます」

「ただの噂好きだろ?そいつには注意しておくから、矛を収めろや」

 とはいいつつも、噂というの馬鹿に出来ないのをこいつは知ってるからなぁ……と内心呟きながら、頭をボリボリと掻く。機嫌が悪いコイツには失言だったかと、苦虫を噛み潰したような渋っ面で、お手上げ状態のギルマス。そんなギルマスに、颯爽と現れた救世主。


「オリオン、無駄よ。今日は、例のお嬢様に振られたらしいから」


 ノックも無しに入ってきたのは、ギルマスオリオンと性別違いの双子だ。そして、エイルの実質的執務担当者だ。


「カノン!遅かったじゃねぇか!?これを……って、振られた?」


 エイルには似つかわしくない言葉である。オリオンは、柄にもなく緑の目を瞬かせ、オウム返しをしてしまう。


「カノン!滅多な事は言わないで下さい!私は振られてなどいません」


 商業ギルドの職員マットが朝早く迎えに来たせいで、エイルはミオに会えずじまいだ。今日は辺境伯の手紙など、朝に色々と話したいことがあったのだ。


「それにしても、カノンはどこに行っていたのです?まさか、さきほどの信憑性を確かめるために、私の家まで押しかけていたわけではないでしょう?」


 カノンは、エイルの冷気もなんのその。腰まで伸びた艷やかな茶髪をかき上げる。


「押しかけたわよ?誰かさんが報連相を怠るから、私の手間が増えたのよ。反省してよね?」

「くっ……」


 カノンに蔑みの視線で見られ、たじろぐ奴を見て、俺は溜息を出す。たじろぐなら、怠らなければいい話なのだ。


「とにかく!森の異変について、ちびっ子たちに聞いてみてくれないか?」

「そうですね。ミオたちに聞いてみましょう」


 カノンの救いにより、エイルの気は反れた。エイルは、早速魔鳥を飛ばすようだ。

 ギルマスは、当初の目的である森の異変について、ちびっ子たちに聞く事が出来る目的を達せたおかげで一安心だ。


(恐らく、神獣及び聖獣であるジョウ様の出現に、魔物たちがざわついているのでしょう。里から降りてきたと言っていましたが、この辺りの山ではありませんからね。魔導船の件もはぐらかされっぱなしですし、そろそろジョウ様の正体をハッキリさせたいですね)


 神獣や聖獣は、国一つを簡単に滅ぼす力を持ちます。深層の森の奥域には、B〜Sランクの魔物などが跋扈しています。彼らのざわめきに、中層は刺激を受けているだけでしょう。


 パワーバランスを把握するためにも、領主への報告は必要です。機会があるとすれば、近々予定している面会の時ですか。ミオたちの反応が想像出来ず、気が重いエイルは、人知れず溜息を吐くのでした。




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