第51話 お祭り狂騒曲⑤

「地域浸透?」

「地元密着型?」


 2人揃って首を傾げるのを見ながら、サミーさんの表情を警戒する私。ニヤニヤと笑うサミーさんを、私は段々胡散臭く思えてきた。


(安心しろ、ミオ。あれは精一杯耐えているのだ。まぁ、耐えきれず漏れているが)

(なにを耐える必要が?)

(サミーはお前と同類だ)

(どういうこと?)


 私はジョウの言葉に、怪訝な表情が浮かぶ。私とサミーさんになんの共通点があるというのか。


(ミオがもふもふLOVEなように、あれは可愛いもの好きだ。吾輩の小さい姿も堪らんらしい。時折あれの視線を感じるのだ。ミオも堪えきれず「グフッ」と漏らしていただろう?あれと同種だ。身震いがする)


 ブルッと身震いしながら、目を細め悟りを開くジョウ。なに?私のモフりがトラウマか?トラウマになってるのか?ならば、ごめんご。


(吾輩とミオの共通点といえば、小さいことぐらいだからな。隠してるつもりだろうが、隠しきれていない辺り、ミオと同類よ)

(あぁ、可愛いもの好きか。男性にもたまにいるよね)

(……)

 

 うんうんと意気揚々と頷く私に、ジョウは諦めの溜息を吐いた。もはや性癖は変えられん……そう胸に刻み込んで。


「ギルマスは、今回のビンゴゲームの注目を使い、商品券の知名度を上げたいと思っているはずです」


 デサイン考案で紙の重要性から、新たな紙の制作を考え、議論や製作案に没頭するほどだ。童心に返り少々羽目を外してしまったが、アターキル支部初の商業システムへの熱意は本物だろう。


「えぇ。アターキルの祭りの催事は、これまで踊りや観劇といった種類ばかりでしたから。去年の催事も素晴らしかったですが、今年は別の意味で盛り上がること間違いなしでしょう。そんな注目を利用せずに、商人と言えるでしょうか?」

「正直な意見は、好感が持てます。そこで先ほどの地域浸透です。アターキル発祥となる商品券が、アターキルの民に根付かなければその先はない。商品券の価値はそれまでだったという証拠になります」

「はい!」


 ギルマスに呼ばれた四人には間違いないけど、誰だっけ?後で自己紹介しなきゃ。


「…どうぞ」

「それはアターキルでは需要がなくても、王都に持ち込めば一発じゃないですか?」


 凄い優等生みたいな人が手を挙げて聞いてくる。


「それは大いに可能性のある話ですが、ギルマスの考えはアターキル発祥です。私はそれを前提として話しています」


 王都なんて、アターキルの辺境とは人口も比べ物にならない。贈り物の機会だってココとは段違いだろう。ギルマスだって、そんなことは百も承知。

 だが、ギルマスは敢えてこの地を出発点にと選んだのだ。私はその思いを買いたい。


「ミオ様、ありがとうございます」

「いいえ。それよりギルマス、いつまでもミオ様ではなく、ミオで構いませんよ?」

「では、ミオさんと呼ばせていただきますね」

「はい。では続けます。まず目指すのは、商品券のアターキルでの地域浸透です。これを成すのに手っ取り早いのが、地域密着型作戦です」

「どういった作戦でしょうか?」

「知名度を上げる。注目を利用する。ギルマスの作戦も功を成すでしょう。けれどそれには、時間がかかります。即効性を狙うなら、人々の意識を向け関心を得なければなりません。知名度も注目も、関心を得なければ素通りするだけです」


 関心を得るためにはどうするか?人間、自分に関わりがなければ然程興味は示さないものである。だから、祭りの催事に組み込むのだ。


「まずは、関心の糸口を作ります。ビンゴゲームは午前中だけなら、景品を少しだけ奮発出来ますよね?告知の時点で目玉商品を記載すれば、話題にはなるでしょう。これは、ギルマスが考えていた注目を利用するにあたります」

「そうですね。ですが、告知と言っても識字率が低いのです。あまり意味がないように思いますが?」

「先ほどお話した印刷機をガリ版というのですが、一度型を作れば百枚は印刷可能ですから、街の告知板という限られた場所だけでなく、飲食店や屋台など目に付く場所へ貼れば、必ず人々の目に付きます」  


 告知板にお知らせが貼られると、文字が読める人が代読するのはラノベでも有名だ。そのシステム(?)を、少し利用させてもらいましょう。


「なるほど、彼らの学に頼るんですね」

「流石ギルマス!分かってますねぇ。それに文字が読めなくても、この領は冒険者が多い。飲食店には、冒険者たちが絶対来店しますからね。彼らは情報には機敏です。張り紙には自然と目が行く。文字が読める彼らなら、酒の肴で必ず口に上るでしょう」

「なるほど!飲食店の客層も考えての張り紙なのですね」

「各店舗を周り、張り紙を張らせてもらう許可を貰う手間はかかりますが、苦労の甲斐はあると思いますよ?」

「えぇ!えぇ!もちろんですとも!今までは手書きの為、枚数も限りがありましたが、印刷が可能なら、やる意義はあると思います!」


 私の作戦に光明を見出したのか、とても瞳が輝いているギルマス。


「はい」

「どうぞ、リアさん」


 デザイン担当のリアさんが挙手。私はすかさず許可を出す。


「それで肝心の商品券のデザインは、今回どうするんですか?」

「今回は分かりやすく、商業ギルドアターキル支部の印章でいいと思いますよ?ギルマスは、どう思われますか?」

「そうですね。ミオさんの話を聞いていると、やることがたくさんありますからね。デザインコンテストをするなら、そちらに舵を切りましょう。まずは取り急ぎ印刷機を作りましょう。サミー、貴方は印刷機に必要な材料や組み立て方を、ミオさんから聞いて下さい」


 地域浸透の説明がまだだが、ギルマスのエンジンは止まらない。


「本気で、新部署を設立する気かい?」


 そんなギルマスに、サミーさんは問いかけた。そうだよね。ギルマスの発表にはびっくりしたけど、そんな簡単に作れるものじゃないよね。


「冗談で言わないさ」


 サミーさんには気やすいなぁ。聖国に、ポーションの値段交渉に行くぐらいだし、ギルマスに近い地位かな?


「仕方ないなぁ。祭りが済むまでの間は、サブマスと両立を頑張るよ」

 

 近い地位だと思ったけど、やっぱりか。商業ギルドのNo.2だ。真剣なギルマスに、帽子をかぶり直しながら了承するサミーさんは、やれやれと言った様子。


「マットたち祭りの催事班は、今までと同じ仕事内容でお願いします。デザインコンテストの草案の詳細を、ミオさんから聞いて纏めて下さい。サミー率いる実務執行班は、まずはガリ版と紙の作成を実行してください。マットは仕事量が多いですから、アイディア登録のミオさん担当は、マットからサミーへ変更します。それ『主!主の主からお手紙だよ!』……え?」

「レイラ!?影にって……主の主?」


 ギルマスがキョロキョロしてるってことは、声は聞こえるけど姿は見えないのかな?しかし、主の主ってエイルさん?


(エイルからの魔鳥が、先ほどから頭上をクルクルクルクル回ってるぞ?)

(は!?魔鳥ってなにさ!?)

(連絡……伝書鳩みたいなものだな)

(気づいてるなら、早く言ってよ!?)


 しれっと教えてくれたジョウに、私は叫ぶ。そして慌てて頭上を見上げると、レイラが魔鳥を捕まえようと追いかけていた。


「魔鳥さん、おいで!」


 どう呼び寄せればいいのかわからない。とりあえず鷹の要領で手を差し出せば、魔鳥は私の手の甲に留まってくれた。インコくらいの大きさだ。不思議と爪は痛くない。


「ミオさん……先ほどの声は?」

「あぁ、私の契約精霊ですよ」


 唖然とした表情のギルマスに構わず、私は普通に返す。室内が静まり返っているのにも気付かずに。

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