第52話 ジョウのかくし芸

「契約精霊?ミオ様は、従魔の他にも契約精霊がいるんですか?」

「はい。もう一匹いますけど、まだ幼いので影でお昼寝中です」

「もう一匹!?それはジョウ様みたいな犬型ですか!?」

(吾輩は、犬ではない!)

「もう一匹は、鳥類ですかね?」


 断固異議を唱えるジョウの隣で、私は小首を傾げて答えた。だって、明確な種類は分からないもの。

 カーバンクルみたいに額に宝石があると思いきや、背中に羽はあるし。今は飛べないけど、将来は未確定だし……うん、鳥類がしっくりくる。


「そうですか。バランスのいいチームですね」

「あはは、そうですかね?」


 それって偵察とかの役割を、きゅうちゃんが出来たらね?私は、曖昧に笑って誤魔化した。


(ミオ、エイルはなんと?)

(この鳥さんを、どうしたらいいの?)

(鳥に触れれば、紙切れに変わるだろう)

(了解!)

「ご苦労さまでした」

「チュッ!」


 魔鳥に触れると、彼(?)は一鳴きして淡い光った。そうするとあら不思議。魔鳥は、紙切れ一枚に。


「……」

『深層の森の中層から奥にかけて、魔物がざわついているそうです。ミオたちがこの街に来る時に、深層の森に降りたり、なにか異変を感じませんでしたか?冒険者パーティーからの報告があり、冒険者ギルドのギルマスから聞いて欲しいと要請がありました。お返事をお願いします。それと、帰宅したら知らせてください。辺境伯からの手紙の共有を行いましょう』

(うへぇ……)

(どうした。なんと書いてある?)

(ここに来る時に降りた深層の森で、中層から奥の魔物がざわついてるんだって。それについて、私たちに事情を聞くように、冒険者ギルドのギルマスからエイルさんに要請が入ったみたい。それと、認定証を発行してくれた辺境伯さんの手紙の返事を書きたいみたいだね)

(ふむ……深層の森の奥には高ランクの魔物が跋扈しているからな。吾輩の気に当てられたか。しばらくすれば、自然に落ち着くだろうが、森で生計を立てる冒険者には、心配の種か………どれ。今夜か明日にでも夜中に話をつけに行っても良いが、ここは人の縄張りだ。勝手はトラブルの元だからな。エイルに聞いてみてくれ。辺境伯の面会は断れんだろうから、さっさと終わらよう)

(話をつけるって、力技じゃないの?怪我とかしないでよ?)

(……ふっ…くくくっ!吾輩が怪我?最高SSランクのエンシェントドラゴンより強い吾輩が?ないない!この辺りの最高ランクはAランクの地竜や火竜だ。なにも心配はない)

(……神の見習いだってことをすっかり忘れてたよ、ははは。でも、エイルさんにどうやって返事を渡そう?私は魔鳥とか出来ないし)

(ならば、仕方ない。吾輩の分身術を使おう。だから、早く文を書くのだ)

(分かった)


 分身術?と頭に疑問符を飛ばしながら、ジョウが言った言葉をそのまま書く。


『エイルさんへ

 ジョウが言うには、ジョウの気に当てられて騒いでいるだけだそうです。しばらくすれば落ち着くとも。

 でも、冒険者たちの生活の基盤が揺らぐ状態なら、ジョウ自身が夜中に話を着けに向かうそうです。

 ここは人の縄張りだから、どうするか?と許可を求めています。

 それと、手紙の件は承知しました。帰宅後に、ゼフさんにお伺いしますね。ミオ』


(書けたよ)

(よし!それを矢筒に仕舞うように折りたたむのだ。それと、吾輩の毛を一本だけ毟れ)

(えぇ!?毟るの?痛くない?)

(だから、一本だけだぞ?二本とか、たくさんは駄目だからな)

(……ビビってるじゃん。エンシェントドラゴンより強いんだから、チクっとする一瞬の痛みくらい訳無いでしょ?)

(いいか?象は蟻に敵わないんだぞ!?大きな存在でも、痛いものは痛いのだ!)

(それって、『蟻のひと噛み巨象を倒す』って言いたいの?確かに、一本より数本抜いたら痛くけどさ。ジョウの毛って見事に短毛なんだもん。一本って限定されると難しいよ)

(くぅ!ならば、出来るだけ少なく頼む!……頼む!)


 耐えの姿勢なのか、身を丸めアルマジロのようになるジョウ。

 

「あのぉ、ミオ様」

「ん?マットさん、どうしました?」

「お取り込み中のところすみません。一体、ジョウ様はどうされたんですか?」

「ん?あぁ。エイルさんから魔鳥が来たのは良かったんですけど、返信に困ってたらジョウの分身術で届けるって話になって、今からその準備をするところなんです」

「準備……と言いますと?」 

(はよやらんか!?吾輩の気合が持たんだろう!?)


 マットさんが興味津々で聞いてくるが、待ち切れないジョウは、私に急かしの文句を垂れてきた。


(あ〜、はいはい)

「これ……ですよ!」

 

 ぶちぃ!


「キャイ~ン!?」

「ジョウ様!?」

「ふぅ……頑張って三本で済ませれた!」

(なにが、頑張ってだ!?三本も抜きおって!?痛かったぞ!)


 抜き取った後をペロペロ労りながら、涙目のジョウが吠える。マットさんが、ジョウの周りで心配気にオロオロしている。


(ごめんよ。次からは、頑張って覚えるから。ありがとうね)

(ぬ!?ぐぅ……仕方ない。手紙は折りたたんだか?)


 くくっ。こうやって素直にすれば、ジョウは怒れないんだよね。


(少し待っていろ)


 そう言うと、抜いた毛の一本に鼻息を吹きかければ、あらあら不思議。もう一匹のジョウ(小型犬ver)が現れた!


(首輪に矢筒があるだろう?それに手紙を入れろ)

(ふおぉ〜!?現代版(?)孫◯空だ!…なんか言った?)

(首輪の矢筒に手紙を入れろと言ったんだ!全く、そんなに驚くことでもないだろう!?ここは異世界のファンタジー要素爆発だろうが)


 ブツブツと喋っているジョウはさておき、私は第二のジョウに手紙を託す。


(よし!それでいい。エイルの匂いは吾輩が覚えているから。この術の共有システムで、エイルの現在地など朝飯前よ!)

(おぉ!?凄い!今日は冒険者ギルドの研究室って言ってたから、そっち方面の冒険者さんについて行けば間違いないけどね)

(そうだな!では、吾輩よ!早速、行ってくるのだ!)

「キャウ!」


 ジョウがそう言うや否や、第二のジョウは翼を生やし、会議室の窓から飛び出して行った。


「……ジョウ様って、飛行も可能なんですね?」


 頬を引くつかせるマットさんに、私は満面の笑みを浮かべる。


「はい!ジョウは、ハイスペなんですよ!」


 これでスパダリなら文句なかったんだけど……という私の心の声は内緒である。


 

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