第54話 お祭り狂騒曲⑦
(ミオ……ステータスの確認をしてみろ)
(ん?ステータスオープン!)
【名前 ミオ・テラオ
魔力量 200030
属性 火 水 風 土
スキル 行儀作法4 事務処理5 商談4 体術4 剣技3 語学4 MAP1 鑑定1
称号 転生者 創世神ガイアの加護 女神ウルシアの加護】
(……魔力が30しか伸びてない?)
(魔力操作だけでは、魔力はあまり伸びんということだ。これから調薬釜が活躍するだろうからな。活躍する前の数字を覚えておけば、なにかの役に立つかもしれんだろ?)
(それはそうかも知れないけど……
(しかし、調薬釜にレシピがあってよかったな。材料集めから、少しだけ手こずるかと思ったが)
(正に、なんでもありだよね)
(時間が空いた分、エイルに話していた丸薬の登録をしてはどうだ?祭りの話題で、登録の話どころではなかったからな。あの好奇心旺盛なエイルも、大人として待ての姿勢でいてくれているが、いつまで持つかわからん。アイディア登録の担当がマットからサミーに変わったのも、なにかの縁だろう)
(ん?なんの縁?)
(忘れたのか?アターキル支部代表で、ポーションの価格交渉に出かけていたのを)
(あぁ、確かに!聖国の薬師ギルドの本部だっけ?エイルさんも丸薬は楽しみにしてるよね?申し訳ないことしたなぁ。祭りのことで、すっかり頭の彼方に飛んでたよ。時間を見つけて、サミーさんに言ってみるよ。それにしても……今日は無理だろうけど、近いうちに教会へ行きたいよね)
(そうだな)
♢
「お待たせしました。材料をお持ちしました」
扉が開き、ガラガラと台車を推しながら、二人が戻ってきた。
「ありがとうございます」
案外早かったなぁ……と少々びっくりする。ビクターさんをチラリと見れば、少し疲労の影が見える。
「ビクターさん、大丈夫ですか?」
「ん?あぁ。ただの寝不足だ。気にする…いてっ!」
「なに偉そうな話し方してるのよ!エイル様と顔見知りだからって、ここは職場よ」
「へいへい」
「ははは……材料集めは大変でしたよね?ありがとうございます」
リアさんの注意を軽く躱したビクターさんに、リアさんはお怒りである。私は曖昧に笑って、受け流す。
「さて……調薬釜の出番だぞっ!」
名称:和紙
材料:精製水 コンゾー 灰汁 山芋 美白の実
作り方:コンゾーの枝、精製水、灰汁 山芋 美白の実を入れ、合成ボタンを押す。以上
「うわぁ〜、マジか。苦労もへったくれもないやんか……うわっ、枝も軽々吸い込まれていくし、容量も心配いらん。作り放題や」
炊飯器ぐらいの大きさの釜が、枝打ちをした枝を飲み込んでいるのだ。私が材料を入れながらドン引きしていると、ふと、ある思いが頭を過る。
(これを見て紙作りが楽だと誤解されては不味いんじゃない!?)
(不味いだろうなぁ……)
(ちょっと!また他人事みたいな振りして!?)
私は脳内でジョウを叱咤しながら、マットさんに大変さを伝える。
「あの、マットさん!私のスキルが反則なだけで、本来の紙作りは大っ変に過酷なんですよ?まず、ゴンゾーを刈らなきゃいけない。これは硬いから、刈ってきたら柔かくするために、蒸すんで『待って待って!』ん?なんですか?」
「今、一般的な紙の作り方を説明してるの?」
「一般的?……そうですね。世間一般的な作り方ですね」
私のスキルが神がかりなのは認めるが……私が唇を尖らせムスッとして答えれば、リアさんはハッとしたように慌てだした。
「え!?そんなつもりで言ったんじゃないのよ!?作り方なら書き留めなきゃと思って……ごめんなさい!」
ワタワタと取り繕うリアさんを見て、ジョウは笑ってるし。
「大丈夫ですよ。自覚はありますから」
だからといって、人に言われると素直になれない私の心よ。
「……では説明を行いますので、メモの準備をお願いします」
コホンッと気分を一新し、リアさんに向けて口を開きかけた時「嬢ちゃん、釜に材料を入れたらいいのか?」とビクターさんの声がした。どうやら口ばかりが動き、手がお留守になっていたようだ。
「いいんですか?お願いします」
材料投入を代わってくれた優しいビクターさん《御人》に任せて、私はリアさんに説明を致しましょう。
「蒸すというけど、何故だい?」
「……サミーさん。サブマスのお仕事はいいんですか?」
何故、貴方がここにいるのかな?私は、呆れの眼差しで彼を見た。皆の身体に、少しだけ力が入ったように見える。彼は、エイルさんと同じく好奇心溢れる方みたいだが、ここはご退散願おう。
「おや?お言葉だね。サブマスの仕事は最もだが、ミオさんのアイディア登録の担当は私だよ?実際に目にしたほうがいいだろう?」
「これは、今回限りの応急処置です。アイディア登録については、リアさんが書いてくれた草案を複写してお渡ししますので、サブマスのお仕事にお戻り頂いていいですよ?」
彼がいると、皆が落ち着かないんだ。心配無用と告げれば、彼はあからさまに表情を曇らせる。
「ほぉ?君は、本当に興味深いねぇ。普通は、私がサブマスだと知ればすり寄ってくるものだけどね」
「私は普通とは違いますので、お気遣いなく」
私をどんな下等生物と思ってるんだ!?そんな下世話な真似はしないよっ!
「さぁ、リアさん。続きにいきますよ!」
「あっ……はい!」
視界の隅で、薄く開かれた扉が目に入る。そこには、ギルマスが額を抑えて天井を仰いでいた。恐らく彼を迎えに来たんだろうけど……サブマスは後でお説教コースかな?ギルマス、全力でやっちゃって!
「蒸して柔らかくなったら、皮を剥ぎます。黒皮を削って白皮にします。精製水で煮込んで、不純物を煮出します。その後は皮を取り出し、棒で叩き、繊維を解します。水と山芋の粘りを使い、
「ミオ様の道具では、それが短縮されるんですよね?」
「そうですね。ですがこれが新たな産業となれば、地域の雇用創生に繋がりますし、経済の活性化にも繋がります。とりあえずアイディア登録する前に、安定した事業として促進出来るのか、実験や試算をすることをお勧めします」
「畏まりました。ギルマスにはそのように伝えます」
サブマス?彼はあの後すぐに、ギルマスに連行されて行きましたよ?
こうして一悶着あった紙作りだが、ボタン一つで出来上がったことをお知らせします。
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