第45話 新たな仲間の誕生!

「さぁ!ついに始まりますよ!?世紀史上初?私が立ち合う瞬間が!!」


 偉い興奮のエイルさんに気圧されて、ついにこの日を迎えたミオです。皆さん、おはようございます。


「エイルさん。少し落ち着きましょう。またジョウのパンチが飛んできますよ」 


 私の足元に座るジョウが、前脚を上げて爪をキラリッ!


「それは嫌ですね。もう床とキッスは勘弁です。少し落ち着きましょう」


 ジョウの爪に頬を引きつらせ、ふぅ〜と深呼吸を繰り返すエイルさんの隣で、私は鞄から紙を取り出した。 


「それが図案ですか?」

「はい」


 ジョウの力を一時的に借りて描き上げた精霊の姿。姿は描けても、悩んだのが色。精霊は属性ごとに、色の系統が決まってた。残念ながら、空間属性は希少で周囲に見つけられなかった。だから色は、私の想像で宙色にした。 


「変わった色相ですね」

「創造ですから、この通りに成功するか分かりませんけどね」


 始めての事に、少しだけ不安を覚えるが仕方ない。皆、誰だってそうだし。浅く息を吸い、深く吐き出す。こうすれば、落ち着きやすいのだ。


「大丈夫ですか?これが魔法紙ですが、上手く書けますか?」

「はい。少しだけ待っていてください」


 素案に書いたままに、魔法紙へ筆を走らせる。失敗しないように、慎重に。羽ペンは慣れていないから、軸がブレる!


「さぁ!時間も有限ですから、そろそろいきますよ!」

「えぇ!頑張ってください」

 

 無事に描き終えた私は、張りのある声を出し、自分自身を鼓舞した。

 エイルさんの励ましも受け、気力は満タン!私は唱える為に口を開いた。


「クリエイション!」


 私が唱えた瞬間に、眩い光が辺りを包む。私は目が開けていられず、ぎゅっと閉じる。これ以上の刺激が入らないようにしっかりと。


「主様!」


 どれくらい経っただろうか。ふと可愛い声が聞こえて、瞼をあげた。


 そしてそこにいたのは、レインボー色のワンピースを来た可愛らしい女の子。瞳は馴染みの深い黒。髪はエイルさんと同じ銀色。妖精の羽は半透明だ。羽の不思議な模様で、やっと識別がつくくらい。


「なるほど、そう来たか」

「主様、初めまして!私は時空属性の精霊です。名前を付けてください!それで、契約は完了します」

「名前……レイラは?」

「レイラ!私はレイラ!主様、これからずっとよろしくね!」

「うん、よろしく。早速で悪いけど、鑑定してもいいかな?」

「うん!」


 元気一杯な姿に目尻が下がりながら、私は「鑑定」を唱えた。


『名前 レイラ

 年齢 0

 属性 空間

 スキル スローモーション

     空間繋ぎ

 契約主 ミオ・テラオ』


 確かに、魔法紙に書いたジョウの案がスキルに反映されている。だがこれで、私が誘拐されても平気だな。


「終わりましたか?」

「エイルさん?」

 プルプルと小刻みに震えるエイルさんに、私は怪訝な表情を送る。

(こやつ。ミオと精霊の最初の出会いを邪魔しないように、ずっと耐えていたみたいだぞ?)

(あ、そうなんだ)


 私はジョウの説明を聞いて、静かに納得をした。改めてエイルさんに視線をやるが、彼の視線はレイラ一辺倒だ。

 レイラもそんなエイルさんに気づき、不思議そうに眺めていた。そして、言ってはならぬことを口にする。


「お爺さん、誰?」

「ぶふぅ!?」

 ブワハッハッハッ!?カ〜カッカッカッカッ!

 

 骨休みに紅茶でも……と口に含んだのが間違いだった。レイラの言葉を聞いた私は、見事に吹き出してしまった。

 ジョウなど、右に左に笑い転げる始末。今日に尻尾は床を叩いて。


「ミオ……」


 ゆらりと揺れたエイルさんに、私は盛大に肩を揺らす。 


「流石は精霊ですね!彼らは、全てを見通す力を持っています。私の見かけに騙されず、本質を突いてくるなんて感心しました!」


 それ、精霊以外がやると命ないでしょ?命を賭けてまでやる輩もいないでしょうけど。


「そうにゃんですにぇ。それは良かったです」


 感激するエイルさんには悪いけど、他に掛ける言葉は見つからない。


「レイラ。彼は私のお師匠様で、身元保証人にゃの」

「師匠……主様はなにを習ってるの?身元保証人ということは、主様の責任者?」

「そ『そうですよぉ!生まれたばかりなのに偉いですねぇ!私はミオの責任者ですが、薬師の師匠でもあります』……そういうこと」 


 ズイッと前に来たエイルさんに押され気味の私は、一言で済ませる。



「レイラ、スキルの使い方は分かってる?」

「えっとね。対人は魔力の登録がいるの。魔力を覚えて欲しい人がいれば言ってね!いくらでも覚えれるよ!場所は、私が場所を知っていれば大丈夫」

「つまり、レイラが把握している人・場所への空間の繋ぎは可能にゃのね?」

「うん!私、主様をお守りするよ!」

「ありがとう!レイラ」


 純真無垢で献身的なレイラに、ほろりと零れそうにはならないけど(まだ年じゃないもんね)感動はする。彼女は、自分の役目をしっかり把握しているみたいだ。



 満足した一日を終えて眠った翌朝、ララさんに急いで起こされた私。

「んんぅ?にゃにごとにゃの?まだ6時よ?」

「申し訳ございません、ミオ様。私共もお断りしたのですが、お相手の方の憔悴具合が半端なく……」

 ララさんの眉尻も下がりっぱなしで、本当に申し訳なさそう。でもそれよりも、困惑が見て取れる。

「仕方ありませんにぇ。ふわぁ~……相手は一体誰ですか?」  

 寝ぼけ眼を擦りながら、ララさんに問えば、彼女は言いにくそうに応えた。

「先日、商業ギルドでお会いしたマット様でございます」

「……え?マットさん?」

「はい」

 思わぬ人物の名に、私も若干狼狽えた。彼は間違っても、こんな朝早くに押しかけるキャラではない。


(なにがどうなってるのさ?)

(さぁな。だが会えば分かるだろう。ごちゃごちゃしとらんで、はよ行くぞ)

 

 朝食が食べられないから、早く済ませたいのが丸わかりだよ。全く。   


「こちらでございます」

 

 ララさんがドアノブを回し、開かれた扉の先の光景に目を丸くする私。


「どうしたんですか!?マットさん!」


 私が慌てて走り寄れば、彼は明らかにホッとしたように表情を緩めた。

 ボロボロに草臥れたマットさんを見た私は、内心の動揺を隠すようにソファへ腰を掛けた。



「え?……もう一度良いですか?」


 まずは話を聞かなければと……マットさんに伺えば、彼の口から出た信じられないお願いに、私の脳みそは全力で拒否をする。


「私と一緒に、商業ギルドの……正しくはお祭り委員会の会議に、なにも聞かずに出席して頂けませんか?」


 一体全体、本当になにがあったの?






 

 

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