第46話 お祭り狂騒曲➀

「今回は不躾なお願いを聞き入れて頂き、誠にありがとうございます」


 マットさんは、馬車の中で深々と頭を下げた。


「うわわっ!?やめてくださいよ!?」

(やらせておけ!お陰で飯を食い損ねたではないか!?)


 慌てる私と不満たらたらなジョウ。この二極さに、マットさんも判断に困ったようだ。私の顔を見つめて、助けを乞うている。きっと、ジョウがなにを言っているのか知りたいんだな。


「ジョウは、朝ごはんを食べ損ねたので不機嫌にゃんです。ご飯をあげれば機嫌は戻りますから、会議室であげてもいいですか?」

「それぐらい全然かまいませんよ!無理を言って来て頂くのはこちらですから。なにか言う愚か者がいれば制裁しますので、いつでも言ってください」

「……はい」


 はい、黒い!尚更言えるわけないよね!?制裁とか穏やかじゃないんだけど!?ホントに、なにがあったか教えていただけませんか!?



「こちらになります」


 そう言われた部屋の扉には、会議室と書かれたプレートがあった。商業ギルドの二階は初めてで、田舎根性丸出しでキョロキョロしちゃう。


「こちらの椅子におかけ下さい」 


 マットさんに案内された私は、その椅子に鞄を下ろし、ジョウのご飯を取り出す。ララさんにジョウを抱えてもらっていたが、匂いを嗅ぎつけて軽く暴れている。


「ララさん、降ろしてかまいませんよ」

「畏まりました」


 ララさんが腕の力を緩めたのを機に、ジョウはララさんのお腹を足蹴に床へと着地する。


「ジョウ、ご飯だよ」


 マットさんに勧めらた私の席。その足元にお皿を置けば、勢い良く食べ始めるジョウ。


「よほどお腹が空いていたんですね。申し訳ないことをしました」

「食いしん坊ですからね。実は、私とララさんもご飯はまだにゃんです。会議はにゃん時からですか?」


 始まるまでに食べてしまいたい。私は開始の時刻を尋ねたつもりだが、返ってきたのは衝撃的な言葉だった。


「今、朝ごはん休憩なんです。あと少しすれば、みんな集まるんじゃないでしょうか」

「朝ごはん休憩?」


 聞きたくもないブラック臭が漂う。そういえば、出会った当時はリアさんが可笑しかったな。今はマットさんとか、他のメンバーはどうなってるの?


「昨日の朝から会議は閉会せず、そのまま続行中ですよ」

「ギルマス!」


 突如聞こえた声に誰だと思えば、マットさんが声をあげる。


「マット。ミオ様の出迎え御苦労だった」

「とんでもありません。それより、朝ごはんの用意は出来ましたか?」

「あぁ。マーサに頼んで超特急で作ってもらった」


 そう言ったギルマスは、小さな包みをマットさんに投げ渡した。


「おっと!?……バルサですか。ありがたく頂きます」


 バルザ?聞いたことがない食べ物だ。マットさんの好物か?頬が緩んでいるぞ?


「このように夜通しの会議でしたので、今は皆、一時帰宅しているのですよ」


 苦笑気味に表情を崩すマットさんに、私はポカンとする。だからなぜ、夜通しで会議をする必要があったの?


「とりあえず、今のうちに朝食を済ませましょう。ミオ様たちは『ありますよ!心配ないです!』…良かったです」


 自分の包みを差し出そうとしたマットさんに、私は慌てて鞄を探る。


(作り置きが少なくなってきたな。ジョウ、ララさんに焼きおにぎりあげていい?)

(今日は仕方ないからな。特別に許可しよう。また今度作ってくれるのだろう?)

(それはもちろん!エイルさんに 厨房借りられるように交渉しなきゃ)

(うむ!許可をくれぬ場合は、我輩も加勢しようぞ)

(ははは。大丈夫だと思うよ?)


「ララさん。私の故郷のご飯ですけど、良かったらどうぞ」

「え?でも……」


 ララさんは狼狽しているが、自分の立場を気にしてるんだろうな。だけど今日はどう転ぶか読めないし、食べれる時に食べるべきだ。


ガゥ食わぬのかガゥガゥ、ガゥッ食わぬなら、吾輩が貰うぞ!」

「ジョウ様は、なんと仰っているんですか?」

「ジョウは、「食わぬのか?食わぬにゃら、吾輩が『頂きます!』」…どうぞ」


(ふっ!一丁あがりよ!)

 ドヤ顔のジョウだが、今回は褒め称えよう。

(ジョウ、ナイス!)


 恐る恐る口に含んだララさんだが、その目は次第に喜びへと変わる。


「美味しいです!この茶色は、なんの穀物ですか?」

「これは米という穀物ですが、一手間加えて調理した状態です。本来はこのようにゃ白色です」


 鞄から一握りの米を取り出す。


「これがお米……失礼します」

 と、手から数粒取り上げ、じっと眺めるララさん。

「これは頂いても?」

 少し遠慮気味に聞かれたが、数粒ぐらいどうってことない。


「どうぞ。差し上げますよ」

「ありがとうございます!」


 私は焼きおにぎりを食べ終わると、マットさんのもとへ駆け寄った。バルサが気になるのだ。


「マットさん、その中身はにゃんですか?どんにゃ味?」


 私が見やすいように屈み、開いていた包みを見せてくれた。


「これですか?これは、ジャガイモを潰して焼いたポテという皮に、ハムやレタスを挟んだ食べ物ですよ。味付けにバターを塗ります」

「ほぇ〜、サンドイッチやホットドックみたいな食べ物かぁ」


 美味しそう。屋台とかに売ってないかなぁ。今度市場調査する時に食べれたらいいな……などとミオが呑気に考えている側で、魔力の残滓を見たジョウ。


 この魔力の残滓は、ララが簡易鑑定を使い、米を鑑定していた為だろう。


鑑定結果

異世界のお米:創世神ガイアが、ミオのために、異世界の神に許可を得て用意した究極の一品!ユーザフェースでは、籾つきで鶏や家畜の飼料として扱われている。異世界のお米は、精米してから食す主食である。


「ミオ様の主食……」


 ララが呟いた声は、マットの持つバルサに気を取られていたミオには届かなかった。


(ララの鑑定か?しかし、ララはなにを鑑定していたのだ)


 魔力残滓と繋がる僅かな線は、ララの身体へと続いていた。そしてこの魔力残滓の種類は、調査系。後ほど明らかになるミオの言葉に納得したジョウは、ララを巻き込むことに決めた。


 そしてミオは、ジョウにこじゃんと怒られた。



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