第47話 お祭り狂騒曲②
「挨拶が遅くなりましたが、フェルディナント・ロギシーと申します。アターキル支部の商業ギルドマスターをしております。よろしくお願い致します」
若干白髪の混じる茶髪を後ろに撫でつけた壮年の男性。少しだけお腹が出ているけど、ビールはお好きですか?
「ミオ・テラオと申します。こちらは私の従魔でジョウです。よろしくお願い致します」
ぺこりとお辞儀をする姿勢に、フェルディナントさんは目を見開く。
「やはり魔従族の……?」
なにやら驚愕顔で呟いているが、聞こえない。
(なんて言ってるの?)
(『やはり魔従族の?』と呟いている。エイルの真贋判定の認定証を持ってしても、彼は半信半疑だったようだな)
(まぁ、にわかには信じがたいよね。日本なら江戸時代の証文を提出したようなもんださし。気持ちは分かる)
認定証には、褒章メダルの授与日も記されている。国からの褒章メダルなんて、そんなに頻繁にあるわけじゃないから、年数で大体分かっちゃうよね。
「さて、にゃぜ徹夜にゃんてしたんですか?」
「商品券の
「……お祭りの?」
それだけで?と首を傾げる私に、ギルマスは深く息を吐いた。
「はい。実は今回の景品の内、商品券は既に決定しました」
ん?私の案が採用された?提案した私が言うのもなんだけど、商品券って案外面倒だよ?
「今回の商品券で、住民達の反応を見てみようとなりまして。なので景品では、商品券は少し多めの比率になります」
なるほど。商業ギルドとしては、お試しってことか。
「商品券のデザインで煮詰まったとしても、徹夜までするにゃんて……」
しかし、分からない。今回は試みなんだから、分かりやすくこの街のシンボルとかでいいと思うけど。
会議自体は順調にいってたみたいだし…と、私は会議室前方に視線をやった。
[・ゲーム参加者の人数は?
→シアン担当。
→検討中。午前・午後に一度ずつ?
・参加者は、予約制?当日制?
→リア担当。
→予約の場合、マニュアルは?
・景品のリストアップ&店との交渉
→リアとシモン担当
・備品発注(ビンゴシートなど)
→マット担当
・商品券のデザインは?
→リア担当。
→紙質問題?
➀街のシンボル 時計塔
②商業ギルドアターキル支部の
③?
→絵画案検討中。
・細工職人との交渉は?
→マット担当
→経費の都合上、断念?
・当日の催事の警備の配置は?
→ビクター担当。
→検討中。
・警備人数は?
→警備の人数は本部と交渉次第。]
商品券の所に余白があるから、一度飛ばして最後までは話し合ってるのよね。
「デザインの他にも、羊皮紙では印刷は見栄えが悪いという意見も出まして……」
「?」
ギルマスの言葉の濁し方に、私は疑問符が浮かぶ。
確かに、絵画用の画材である麻とかの繊布地は、表面に下地処理を施しているが……ん?私は、ギルマスの言い回しに違和感を持った。
「ちょっと待って下さい。羊皮紙以外に、紙の種類があるんですか?」
魔法紙は、羊皮紙に特別な施しをした紙だ。麻は筆記用には向いていない。でも、商業ギルドの職員ならば、商材については把握しているはず。
私は、頭に過る嫌な考えが浮かんだ。まさか徹夜の主な原因って……。
「新たな素材でなんとか出来ないか?と色々試していたんです。デザインもですが、徹夜の大半はそれが原因です。今の幹部は八割が現場出身だったので、久しぶりに楽しかったですよ」
やっぱり。
私はガクッと肩を落とした。
ははは…と頭の後ろを掻いているが、笑えない。笑えないぞ。アドレナリンが切れたら、疲労がどっと来るぞ〜。疲労回復薬でも渡したほうがいいだろうか?
「にゃんかどっと疲れが……」
「申し訳ありません!」
なんか私が考えていたより、子どもじみた理由だった。額を抑え、机に手を付いた私に、マットさんが頭を下げてきた。
「いや、マットさんは悪くないから」
「全ては、愚かな男共の思考が原因」
ララさん!?貴方、いつもは空気と同化しているのに。それに、結構辛辣なのね!?男性に、何かに恨みでも?
「それにしても、細工職人さんへの依頼は少し厳しかったですか……」
エイルさんが、魔道具を使った印刷の仕方を渡したと言っていたけど、お祭りの経費では厳しかったか。
「はい、やはり技術職ですので。一応見積もりを頂きましたが、そこは譲れませんからね」
「確かに……」
装飾品などが高い理由には、宝石以外に技術料が上乗せされているからである。売れば二束三文とは、よく言ったものである。
「アターキルに商業ギルドが設立されて以来、この地からなにかを発信した例がなく。皆一様に張り切っているんです」
「悪いことではにゃいですが、睡眠を疎かにするのは駄目ですよ」
「はい、その通りですね。柄にもなく、童心に還ったようにワクワクしてしまいました」
「その気力を、本格始動に向けませんか?」
私が呼ばれた理由は分からないけど、この
日本でも笑えないが、この世界ではより笑えない。責任を取らされ、借金奴隷に身落ちもあり
「本格始動ですか?」
「はい。商業ギルドの幹部の方たちがここまでのめり込めんでいるのは、ある意味成功を確信しているからですよね?」
「はい、それはもう。あれほど画期的な物ならば、直ぐに浸透するでしょう。いくつか問題もありますが、それらはこちらの仕事ですからね。それらが整えば、すぐにでも販売に漕ぎ着けましょう」
「良かった。私の考えとしての一つ目は、新たな紙の開発です」
今回の試用の商品券のデザインは簡易なものにして、偽造防止に重きを置けばいい。
「紙の開発?ですが、麻や羊の皮紙は既にありますよ?」
「麻や羊ではありません。詳細は後ほどお伝えしますが、今回の紙の手配は急を要します。ここは、私が一肌脱ぎましょう!」
「え!?」
ギルマスのフェルディナントさんがギョッとしているが、元を辿れば、私が言い出しっぺだ。
前回、なにも考えず発言してしまったお詫びだ。少しだけお手伝いをしようじゃないか。今後は、気をつけて発言するつもりだ。
ミオの『一肌脱ぎましょう!』の言葉に、背後にいるジョウが数ミリ浮かび上がり、尻尾を股に挟んで部屋の隅で頭を抱えていたことに、誰も気づかなかった。
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