第48話 お祭り狂騒曲③
「……ここは、私が一肌脱ぎましょう!」
「え!?」
「なにを一肌脱ぐんだい?」
ギルマスの驚きの声の後、誰かの声が聞こえた。
「…サミー!?お前、アサシードの薬師ギルドに行ってたんじゃないのか!?」
(アサシード?どっかで聞いたことのある響きだな?)
(聖国だ、馬鹿者!)
(にょわ!?いきなり怒鳴らないでよ!頭に響くじゃん……)
両手で頭を抑え、眉間に皺が寄る私。アイスを爆食いした時みたいに、頭がキーンとするぅ。
薬師ギルドが本部を構えるアサシード聖国。近年、徐々にポーション類の値をあげていることが問題視されている国だ。今回は、ポーションの「定価」について相談に行っていた筈だ。
何故薬師ギルドに値段の相談に行ったか?
それは、聖域で採取された素材やポーション(聖域産素材使用)にのみ、薬師ギルド本部は「定価」を指定してきたのだ。それも、今の猊下になってからだ。
だが、神は見ている。
そんな猊下のワンマン振りが、神の怒りに触れたのか。今は、聖域への立ち入りの申請をしているものの、全く許可は下りていないそうだ。
「行ってたんだけど、駄目だねあれは。エイル様が見切りをつけた時に、一緒に帰ってくるべきだったよ」
肩を竦めるサミーさんに、私はジョウへ念話を送る。
(エイル?もしかして、あの魔導船ってやっぱりアサシード聖国から来たやつだった?)
(みたいだな。経由したりするから、確かな航路は知らんが)
エイル様が直近で遠出されたのは、それしか心当たりがない私。
「深層の森に接するクリーク連合共和国の薬師ギルドや商業ギルドの連中も、最近の高騰は見過ごせないみたいだね。直談判に本部まで詰めかけて、ちょっとした騒ぎだったよ」
「そりゃ、災難だったな」
サミーさんを労うギルマスを見ながら、私とジョウは念話に精を出す。
(三つ巴戦争の余波がもう出てるじゃん!水面下じゃなかったの!?)
(事態は、予想より遥かに酷かったな。一度、ウルシア様に話を聞きに行ったほうが良さそうだ)
(そうだね。エイルさんに、街へ出かけていいか聞いてみるね。それにしてもサミーさん、英国紳士みたいな身なりだね)
(英国紳士か。彼は、良いラペルピンをしているな。あれは、鳳凰だろうか?)
杖を握る手は、ピチっとした黒の革袋が嵌められている。エチィわ。私がぽぉっと見ていると、彼の碧い瞳とかち合った。
「さて、先ほど啖呵を切っていたお嬢さん。君は誰かな?どうして、こんな場所にいるんだい?」
彼の動きに合わせて、良い香りが漂ってきた。柑橘系かな?爽やかながら、甘い香り。きっちりとした服装とは裏腹に、水色の髪は少しおざなりだ。
でもそのタッチの差に、母性を感じる人も少なくないだろう。
「私は、ミオ・マグワイア・テラオと申します。今日はマットさんに招かれて、こちらにお邪魔しています」
ざわざわ…。
私が挨拶をしていると、会議室の入り口が騒がしくなってきた。
「お!?皆が朝休憩から戻ってきたな。ミオ様、先ほどのお考えからもう一度聞かせて頂けますか?」
「……はい」
また最初からかい!?と、少しだけゲンナリした。
♢
「………ということで、商品券の紙については、今回に限って私が担当します。時間がにゃいですからね!もし今後事業として行うにゃら、一から作る必要があります。私はスキルがあるので、時間が短縮出来ますが、一から作る場合はかなり大変です。上手く行けば、新たな産業ににゃるかもしれません」
結論は、やってみなければ誰にも分からない。おそらく、なにもかもが初めてだ。道具から揃えなければならないから、時間も金もかかる。
「挑戦に挫折は付きものです。ミオ様に作っていただいた現物を見て、話を聞いて、それから決めても構いませんか?」
「もちろん!百聞は一見にしかずですからね!出来上がり次第、マットさんを通してお声をかけます」
勝手に話を進めてしまった気まずさから、マットさんをチラ見れば、彼は苦笑しながら頷いてくれた。
「二つ目は、印刷道具の作成のお願いです。材料、作成方法はお伝えしますので、用意をお願いします」
「魔道具でしょうか?材料によっては時間を頂くこともありますが……」
やはり、庶民に魔道具はハードルが高いか。だがしかし、私の印刷道具は一味違う。そう。私が作ろうとしているのは、現代知識の定番!ガリ版である。
「いいえ。簡単に作れて、簡単に刷ることが出来ます。ただ、大規模な刷り物には向いていません。小・中型印刷機で、持ち運びも可能なので便利ですよ?」
「そんなものが、本当に可能なのでしょうか?」
辛うじて声を絞り出したのか、ふるふると震えているようにも見える。
ぐふふ、良い反応をするねぇ。か・い・か・ん!
「はい、可能です」
「「「……」」」
ピシャリと言い切った私に、ギルマスとマットさん。それにララが絶句している雰囲気が伝わって来た。
だがそれに構うことなく、私は説明を続けるのだった。
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