第44話 商業ギルド Side
時は、ミオとエイルが商業ギルドを後にした瞬間まで遡る。
朱色が混ざる夕闇が窓に彩を挿していた。
コンコンコン。
商業ギルドアターキル支部ギルドマスターの執務室の扉が鳴った。
「入れ」
「失礼致します」
「……マットか。どうした?祭りの催事に進展があったのか?」
祭りの実行委員会の急な舵切りのせいで、余計な人員を割くことになった。その犠牲者として、マット率いるシモン、ビクター、リアの四人が選出された。夜な夜な会議を開いていたが、やっと決まったのだろうか?
「はい。そのことでご報告と、新たな登録者のご確認をお願い致します」
「ん?登録者なら……いや、いい。直接見よう」
「ありがとうございます」
マットがこのタイミングで持ってきたのだ。なにか理由があるのだろう。礼を言うマットから書類を受け取り、私は登録者書類に目を通す。
「……なっ!?」
私はそれを見て、驚愕に目を開いた。
〚商業ギルド
アターキル支部
登録者名簿 No.123675
氏名 ミオ・テラオ
年齢 4
ランク E
身分証明 真贋判定認定証
身元保証人 エイル・リュタ・ラ・マグワイア
ギルドカード形態 複式(薬師ギルド E) 〛
「賢者が身元保証人?4歳児が、薬師ギルドEランク?……なんだ、これは」
「それだけではございません。軽く纏めた物ですが、こちらをご覧ください。祭りの催事の新案でございますが、これらの案は全て、そのミオ様からのご提案でございます」
「……!?これらを全てか?」
「はい」
何枚もある覚書きのメモを流し読む。夢中になってバッサバッサと紙を捲る音が室内に響く中、非情を謳うマットの声が更に投下される。
「それともう一つ」
「未だあるのか!?」
これだけの案が浮かぶだけでも、かなりの神童に違いない。賢者エイル様が保証人をしているのだ。納得しかけた私に、更なる衝撃が走る。
「ミオ様の瞳には、金の色彩がございます」
「…っ!!それは間違いないんだな?」
「はい。ミオ様には【ジョウ】様という従魔がいらっしゃるのですが、彼の者の瞳も金の色彩がございます」
「なっ!?」
私はマットのあまりの発言に、椅子を蹴倒していた。派手な音を立てて倒れる椅子。ミオ様だけでなく、従魔様もか?撫でつけた髪が解れるが、それどころではない。
「ミオ様より、ジョウ様の瞳の金の比率は大きゅうございます。多分ですが、神獣か聖獣……Sランク以上の存在かと思われます」
「そうか。だがお前が見ることが出来たということは、隠しもしていないのだな?」
ギルマスの茶色の瞳には疲れが滲んでいたが、これだけで疲弊されても困るのだ。とりあえず、私は事実のみを告げる。
「それはもう。堂々たる……いえ、気にも留めておられませんでした」
マットの脳裏に浮かぶのは、ごく自然体に過ごしていた彼らだ。エイル様も、不自然なところはなかった。
「そうか。ならば、こちらから言うことはなにもない。気にも留めていない事をこちらが言及すれば、不興を買うかもしれん。これだけのアイディアが浮かぶのだ。こちらとしては、ほどよく付き合えれば文句はない」
私は倒した椅子を起こしながら、マットにそう伝える。そして我々は、知識の一端でもおこぼれに預かりたいものだ。
「畏まりました」
マットは、ギルマスの心の声にも返事を返した。いや。商業ギルドの人間なら、同じ思いを抱くだろう。
マットも、ギルマスも。商業ギルドの人々はまだ知らない。特にこれと言った需要がない辺境から、特産品が次々と生まれることを。
やがて来る次世代の舞台になることを。
「それと『まだあるのか?』……覚書の最後の通し番号の紙をご覧ください」
「これか?………なんだ、これは。仕組みについては、ギルドと商人で交わす友好証券と似ているが、用途が全く異なるじゃないか」
まさかの使い方に、目からウロコである。目を瞠るのも無理はない。
「はい。リアも、画期的だと興奮していました。品物で困る贈り物は、これがあれば万事解決と」
「そこまでか」
「間柄によって、好みや欲しいものが分からない時などに重宝するようです。現金だと失礼ですが、この商品券なら遠慮なく渡せると言っていました」
「なるほどな」
商品券なら、店は指定されていても、自分で好きに選べるということか。相手も失敗がなくて安心なプレゼントやな。
これはギルドが、共通商品券を使用出来る指定店を募集すれば、
ギルドは指定店登録料を年払いで徴収し(返還不可)、その年の共通商品券の指定店として裏面か別紙に記載。(公告効果あり。選択肢の中だから、購入先に選ばれやすい)有効期限は購入から三カ月間。使い忘れがないようにする為と、指定店登録の関係だ。
「ギルドマスター」
黙り込む私の癖を知っているマットは、しばらく待機していたようだ。タイミングを見計らい、声を掛けたであろうマットに視線をやる。
「エイル様からの言伝です」
「受け取ろう」
彼の手には、一枚の便箋が握られていた。そして彼から受け取った手紙には、こう書かれていた。
『ミオは独り言が多くて仕方ありませんね。今回だけ無料で、必要な道具と大まかな行程を教えて差し上げましょう。感謝なさい。
・商品券の偽造防止は、魔法紙にある特殊な魔道具を使うと、印字作業が可能になる。
・記念すべき一枚目は、金銀細工の細工師に原本の彫りを頼む必要がある。
・偽造防止のデザインや
✡必要な道具
・魔道細工ペン
・魔道液
・強力魔法紙一枚(原本用)
・魔道複写機
・魔法紙(印刷用紙)
以上です。 エイル』
「皆の意見を聞きたい。議会を開きたいが、マットはどう思う?」
「それでしたら、覚書の最初の一の通し番号にあるゲームもお願いします。このゲームはミオ様の提案なので、お披露目はこの祭りが初となります。ですので、問題がないかの確認をお願いしたいのです」
「そうだったな。衝撃的なことが多すぎて、すっぽり抜けていた。祭りのことなら準備があるから早いほうが良いだろう。初ということだが、アイディア登録は済ませたのか?」
「申請書は済んでおります。素案はございますが、私が最終確認のお許しを頂いております」
「そうか。ならば皆の都合もあるが、明後日の朝一番に会議を開こうと思う。主要メンバーの招集を頼む」
「畏まりました」
ギルマスの鶴の一声に、マットは頭を下げた。こうして、商業ギルドの邁進第一歩が幕を開けたのだった。
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