第42話 登録の手引き〜!
(ねぇ、ジョウ。ガイア様の加護の使用だけど、エイルさんのスケジュールに合わそうと思うんだけど、いいかな?)
(かまわないぞ?おそらくだが、悪用を防ぐ目的で購入制限をしている商材である魔法紙は、商業ギルドから厳正な管理を課されているはず)
(ということは、どっちにしろエイルさん同席じゃないと無理ということだよね?)
(あぁ。エイルは敢えて自分を犠牲にしていたが、ミオを気遣ってのことだろう。感謝しておけ)
(うん)
現在の場所は、馬車の中だ。商業ギルドからお暇した私たちは、エイルさん宅に向けて馬車を走らせている最中だ。
馬車の窓のカーテンは開けちゃ駄目とのお達しなので、中は薄暗い。
「ライト」
明かりの呪文を唱えると、馬車は昼の明るさを取り戻す。
「ミオ、どうしました?」
対面に座るエイルさんが、心配そうに私の様子を伺う。
「エイルさんのスケジュールですけど、直近で暇にゃ時はいつですか?その時に、魔法紙を見せて欲しいんですが……」
言葉は飾らずとも、エイルさんなら直ぐに分かるだろう。
「…っ!そうですね。私の記憶では明後日の午前中が空いていますが、後はゼフに聞けば確実でしょう。今日私がいない間に、急ぎの用件が入っていなければ良いんですが……」
エイルさんが窓枠に肘をつき、独りごちる。いや、急用はちゃんと受けて下さいね?
「それで、具体的な案は決まったんですか?」
「はい!ジョウと考えて決めました」
「そうですか。明後日が楽しみですねぇ」
いや、まだ決まってないよ?朗らかに笑ってるけど、仮だよ、仮。
「旦那様のスケジュールでございますか?」
家に到着し、ミオとは玄関で別れた。ゼフから今日の報告を聞きながら、私は質問をする。
「えぇ。明日は
私室のクローゼットに服を掛けるゼフを横目に、私はラフな部屋着に着替える。後は夕飯と風呂のみだから構わないだろう。
「確かに明後日の午前は空白でございますが、王家から招待『よしっ!今この瞬間にスケジュールは埋まりましたよ!』旦那様!?」
主人の遮りに、ゼフは非難の声を上げる。いつもそうだ。王家の招待状の処理はノータッチ。だがそろそろ、王家の方たちの我慢も限界なのだろう。
今回は、わざわざ私宛の手紙もあった。差出人は、宰相だったが。彼も陛下への対応に苦慮しているらしい。
「ゼフはいいですよ。私は、あの伏魔殿に乗り込まないといけないんですからね!?翌日は、頬が筋肉痛になって仕方がありません!」
「そうは仰いますが、貴方はその伏魔殿のアドバイザーでいらっしゃるのですから。
「むぅ……」
「そんなふくれっ面をされても、今回は無駄でございます。さっ!夕食の時間も差し迫っております。食堂に移動致しましょう」
キビキビと動き出したゼフを見ながら、私は深い溜息を吐いた。こうなれば、なにを言っても聞き入れられたことはないからだ。
「パーティーは何時ごろですか?」
食堂への廊下を歩きながら、ゼフに尋ねる。パーティー行きを観念したわけではないが、出発も帰還も転移で一発だ。
「二ヶ月後に開催と記載してありました。それともう一つ。アターキル領の領主ロレンツォ様からのご連絡で、パーティーの行きの同行を願われております」
「それはどちらに合わすのです?」
すっかり忘れていた存在の面倒くさいお願いに、思わず眉間に皺が寄った。
「……そのような表情をなさるのでしたら、既にお分かりでございましょう?」
辺境の領都の街アターキルから王都へは、野営以外の宿場町の宿泊は、三回ほどの機会がある。その時に、その地を治める貴族へ挨拶周りをさせる気か。
「何故私がそのような事を?私は、国の最高権威たる賢者ですよ?」
「横の繋がりは大切でございます。顔見せ一つで救える危機もあるのです。アターキル卿には、日頃お世話になっておいででしょう?偶にされる頼みぐらい、聞いて差し上げては如何です?」
いつになく辛辣なセブに、私は眉を潜めた。これは宰相辺りに苦言を呈されたな……と。
宰相に先手を打たれたことに舌打ちをしたくなるが、今度は王城の誰が駄々を捏ねているのか。
場合によっては、お仕置きが必要でしょうかね?
♢
「ミオ。明後日の午前中ですが、無事に空いてましたよ!」
夕食が運ばれている最中の会話は、あまり褒められたものではないが、私は気にしない。それより、ミオの加護がなにか。それが見られる嬉しさが大きい。
「そうにゃんですにぇ!では、明後日の午前中に実行しましょう!」
「えぇ!それと、商業ギルドでお預かりしていた登録の手引きをお渡ししておきますね」
嬉しそうに破顔しているミオに、私は冊子を渡す。
「ありがとうございます!建て替え分を教えてください」
「ミオは、露店販売とカウンター受注が可能なEランクです。ギルド会員の料金の支払いは、年払いで済ませてあります。登録料金と年間金額は手引書を参考にして下さい。返済は明後日の時に頂きます」
「分かりました。その時にお支払いします」
私はエイルさんから貰った冊子を鞄に仕舞いながら、頷いた。
♢
食堂から帰ってきた私は、早速部屋に帰って冊子を広げた。
―――商業ギルド 登録の手引き―――
商業ギルドへの登録料は、ランクにより異なり、Eランクは金貨5G。
Eランク……身元保証人必須。年会費は、年払いで金貨10
活動内容:露店とカウンター受注依頼が可能。露店販売は要申告。場所は限りがあり、申告順。受注依頼は締め切り厳守。締め切り違反は、罰則金あり。要注意。
「う〜ん。商業ギルドってやっぱり元手がそれなりにかかるね。この受注依頼ってなんだろ?冒険者ギルドみたいなやつかなぁ」
今日はバタバタしてて、受注依頼を見ることも叶わなかった。マットさんが「アイディア登録の書類が出来たらお声をおかけします」と言ってたけど、いつになるかな?その時に、受注依頼を見れたらいいけど。
冊子を見ながらどう活動しようか迷っていると、ジョウがベッドに飛び乗り、冊子を見てGランクを前脚で叩いた。
「Gランクだと、露店販売が主だぞ?」
Gランク…登録料銀貨5G、年会費は無く、活動は露店販売のみ。販売事に、売り上げ三割を納めること(露店場所代、税金)露店用の屋台や荷車、荷台等の貸し出しは限りがあり、申告制。破損は弁償。
「確かにそうだけど、競争率は激しそうだよ?屋台や荷車の貸し出しも限りがあるって。自分で構えた方が早いかな?……でもなぁ、売るものも見当が付かないし。一度市場にも行ってみたいとだね」
受注依頼と露店販売のどちらも、現実味がなさすぎる。異世界の市場なんて、アニメやラノベの知識しかない。実際に見てみなければ始まらない。冊子からは、これ以上の情報は無理だし。
「偵察か?我輩も付き合うぞ?」
ついてくるのは良いけどさ。その尻尾で考えがダダ漏れだよ?なにより涎だよ、ヨダレ。全く……食いしん坊の影は、鳴りを潜めそうにないなぁ。
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