第39話 別室へご案内!

「全く!皆さん、少し遠慮というものを持ち合わせたらどうですか?」


 ふんっ!と外套を撫でて、ミオを器用に抱き上げた。


「いや、それをお前が言うのかよ?」


 ビクターは、エイルが「遠慮」というものについて意見することに否定的なようだ。いや、気持ちは分かるが。


「ミオ、ここでは気が散りますね。別室へ行きましょうか……なにをしているのです?ビクター。案内して下さい」 

「お前な……それだよ、それ」


 ホールにいる人たちが一斉に頷くが、エイルさんは首を傾げた。まるで「なにがです?」と言わんばかりに。


「……はぁ。これだからお坊ちゃん気質は参るぜ」


 へぇ。エイルさん、お坊ちゃんなのか。御屋敷が大きいのは、賢者だけの稼ぎじゃないんだ。しかしどおりで、人を使うことに躊躇いがないはずだよ。慣れは怖い。


「……それで?一向に進まない会議の打開策が欲しいのですか?いらないのですか?」

「「「欲しいです!」」」

「あっ!?お前ら!」


 ビクターさん以外の三人が、しゅばっと勢いよく挙手をした。残念。多数決だと、ビクターさんは負けだね。


「早速応接間をご案内致します!こちらへどうぞ!」

「おい、勝手な真似は『ビクター。お前は登録申請用紙と、登録の手引きをもってこい!リアは、アイディア登録申請用紙を!シモンは、お茶用意を頼む』……後でどうなっても知らねぇからな!」

「了解!」

「畏まりました」


 急に仕切り出したお兄さんに指示された三人は、三者三様の反応を起こしながら、ソファーから去っていった。

 ビクターさんがなんか喚いてたけどいいの?私はエイルさんを見上げるが、彼は問題ないと言わんばかりに微笑むだけだった。


「賢者様の身内様が登録に来られただけでも、個室案件ですからね。お気になさらず」

「そうですか。ビクターさんの反応が気ににゃったのですが、そういうことにゃらお言葉に甘えます」


 ぺこり〜と、抱っこのまま申し訳ない。私のお辞儀に、彼は破顔して頭を撫でてくれた。


「さっ、こちらへどうぞ。私はマットと申します。お見知りおきを」

「よろしくおにぇがいします!」


 ぴっと手を上げ、ご挨拶!


「ふふっ。可愛らしいお嬢様ですね。どこで見つけてこられたんです?」

「東門ですよ」


 ゆるゆると進む御一行。なんかこの二人、雰囲気が似てる?灰色の刈り上げられた髪型に、菫色の瞳はエキゾチック。細身だし、エイルさんと体型も似てるよなぁ。


「おや、まぁ……人生なにがあるか分かりませんねぇ」

「えぇ、全く」



「それでは、私とリアはミオ様からゲームというものについて伺いますので、ビクターとシモンは、エイル様と登録の手続きを行ってください」

「時間の有効活用ですね。私はそれで構いません。ミオ、薬師ギルドのカードを貸して下さい。商業ギルドと一体化させますので」

「はい、どうぞ」


 一体化……そんなサービスが?確かになん枚もあれば管理が大変だけど、私は二枚だけよ?まぁ、特に反対もないから渡すけど。


「ではミオ様、ゲームについてお伺いしても?」

「はい。ゲームというのは、勝負事や遊戯……つまり遊びですにぇ」

「「遊び……」」

「はい。私が今回の祭りの出し物として提案するのは、ずばり【ビンゴゲーム】です!」

「「【ビンゴゲーム】?」」

「はい。豪華景品を狙う大人向けゲーム!勿論、子供用にも出来ますよ?景品のグレードを子供が喜ぶお菓子などに変更すればいいですし!説明するより、やってみたほうが早いですにぇ。そのメモ用紙、二枚頂けますか?」


 私はマットさんが持っていた羊皮紙の切れ端メモを指差した。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 マットさんから受け取った紙に、鞄から取り出したペンで、私は5x5のマスを書いて中央は黒く漬した。それを二人に渡し、1~75の数字を好きに書いてもらう。


「当日の参加者には、既に番号が書かれたビンゴシート……羊皮紙は柔らかいので、薄い木板も良いかも知れません。それを参加者に渡します。そして運営側こちらは、1〜75の字が書いた札を入れた箱を参加者の前に用意します。今日は私が適当に口で言いますが、横、縦、斜めどれか一列でも揃えば上がりです。同時上がりの場合、決着判断は有効マスが多いほうが上位です。ですが、ここで一つの落とし穴があります」


「な、なんです?」 


 なんでそんなに警戒してるのさ?ただの遊びだよ?


「一列が揃うまであと一マスという時に、手を挙げて「リーチ」と言わにゃければにゃりません。そしてその方には、壇上に上がって頂きます」

「もし、言い抜かれば?」  


 ごくりと唾を飲み込む音がする。だから…以下略。


「そのリーチは無効。また別の列のリーチが揃うのを待たにゃければにゃりません。まぁ、リーチだった列の数字は生きていますので、リーチにはにゃりやすいですけど。そして、最後に全部揃った時点でも「ビンゴ!」と言って、上がりを知らせにゃければにゃりません。言い抜かれば、やり直し。リーチで壇上に上がって頂いてましたが、降壇していただきます」

「そ、それは手厳しい遊びですね」


 頬が引きつってるけど、そんなに厳しいか?別に、こちら風に変えても問題ないしね。


「これらはあくまで、大元のルールから派生した出来たものです。やりやすい様に変更も出来ますよ」

「そうなんですね。では、あまり苛烈ではないルールに協議の上、変更致します」


 話を聞く限り、あまり気が抜けない珍しい遊びの仕方だ。

 そして「リーチ」と「ビンゴ」の宣告に失敗すれば、もれなく羞恥をプレゼントだ。

 景品目当てに参加をしたのに、羞恥をプレゼントとは正に鬼畜の所業。恥は書き捨てとはよく言ったものだが、地元は生き地獄でしかない。

 辺境の田舎で話題に乏しい地元に、娯楽や笑い話は格好の餌。注目の的だ。きっと翌日には、間違いなく街全体に広がっている。

 だがそ⁠んな危険を犯してでも、景品という言葉に釣られる輩は現れるだろう。特に、若者のやる気には絶大な効果を発揮する。

 地元じゃなければ、勇んで参加するのに!そんな声が聞こえてきそうな催事になりそうである。


「では、少しやってみましょうか!私が適当に数字を言いますから、さきほどの説明したルールでシートにチェックをいれて下さい。ではいきますにぇ……5、6、13、27、30、31、34、1、9、40、75、70、63『リーチ!』マットさんですか。リアさんは…リアさんもあと1つの数字でリーチですね」

「はい!」


 彼らは、私がシートをがん見しているのに気付いているのだろうか?


(マットさんが私たちを最初に応接してくれたし、今回はマットさんに花を持たせましょ。リアさんには申し訳ないけど遊びのお試しだし)

(なにを言い訳がましく、ぐちぐちと言っておるのだ)


 大人しく床に横になっていたジョウが、上半身を起こして私を見据えた。


(別に?単なる良心の呵責を説得してるだけ)


 自然を装いながら、ジョウを横目でチラ見する。


(ふん。小心者め。もう少し自分自身を大きく持たないと、この世界は生きづらいぞ?)

(分かってるよ!)


 ジョウと念話しながらも、数字を言い続ける。どちらかに引っ張られないように意識を保つのが地味につらい。そろそろ終わらせよう。


「…32、65『ビンゴ!』おぉ、おめでとうございます。マットさん!」

「ありがとうでございます!」


 顔を綻ばせるマットさんは本気で喜こんでいるみたい。よかったよかった。


「くやしい~!次は勝つからね!」

「ふふっ!二人は、世界で初めてこのゲームをした人物です!気に入ってくれてよかったです」

「「世界で初めて……」」

「あっ!それじゃあこのビンゴゲームは、アターキル発祥ということになりますね!」


 私が何気なく言った言葉を、二人は復唱した。


「アターキル発祥……」

「発祥は大袈裟ですかにぇ?それにゃら、元祖?本家?まぁ、にゃんでもいいか」


 三人がゲームで盛り上がっている傍らで、羨ましそうにこちらを見ている三人がいましたとさ。

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