第35話 薬師ギルド!


 扉を開けてエイルさんの後ろに続けば、前世の役所のようなカウンターやソファの配置など、変わり映えしない光景が広がった。私が想像していたファンタジー然とした内装ではなかったので、少しだけ拍子抜けをする。


「こんにちは。ジョハンナはいますか?」


 受付嬢に声を掛けるエイルさん。


 私があちこち見回している最中にも、

「会長はただいま来客中でごさいます。 失礼ですが、会長とのお約束はございますでしょうか?」

 との受付嬢さんのお言葉が続く。

 

「いいえ、約束はしていませんね」

 

 エイルさんの言葉に、え?会長って偉いんじゃないの?この国の賢者だから、会長さんと知り合いとか?でも、アポはいるんじゃないかな?……と私が思いを巡らしていると、はて?


 摩訶不思議。受付の隣の人が、目ん玉飛び出るんじゃないかと思うぐらいエイルさんを凝視している。


「ふ、ふ、副会長!?」


 「ふ?」と私が首を頃げれば、その受付嬢さんは、エイルさんを副会長と呼んだ。あり?エイルさんは、ここにお勤めでしたか?


「ふふっ、そんなに驚かなくてもいいでしょう?まるで幽霊みたいではありませんか」

「あっ!?すみません!あまりこちらには来られないものですから、びっくりしてしまいました」

「まぁ、名誉職みたいな役職ですからね。あまり用事もないですし」


 おぉ…幽霊部員ならぬ幽霊職員でしたか。


「え!?副会長!?申し訳ありません!」


 先ほどの毅然とした態度から一変。お偉いさんに失態を働いた受付嬢さんの顔色は真っ青だ。


「構いませんよ。多分、貴方は新しい方でしょう?私は公の場にあまり姿を見せませんから。名前だけが一人歩きして、姿を知る人は少ないですし」


「やぁ、エイルだよ!」と脚を生やした名前が一人歩き……ウケる。


「ミオ、なにを考えているんですか?」

「にゃにも?」


 相変わらず勘が鋭いなぁ。下手に間を開けると怪しまれるからね。平常心平常心。


「はぁ、まぁいいです。ですが貴方も、私の顔は覚えましたね?」

「はい!」


 受付嬢さんは、首が取れるくらいブンブンと縦に振っている。


「ではジョハンナは面会中ということでしたので、彼女抜きで済ませてしまいましょう」

「……お伺い致します」

「今日は、私の弟子のギルド登録に来たのです。申請書類を頂けますか?」

「副会長様のお弟子様ですか!?」


 ザワッ!?

 今まで触れなかったが、扉を開けて受付に行くまでの空間は、収容人数100人くらいのホールである。ホールの四隅に置かれたソファ以外には、めいめいに人々が集まっていた。それが今、受付嬢さんの大声に一斉にざわめいた。


「個人情報を大声で漏らすとは、なにごとでしょうか?」

「……っ!?申し訳ありません!」


 おぉ……この世界でも、そういう秘匿義務はあるんだ。ちょっと安心。しかし、度重なる失態に、エイルさんも少しオコかな?


「そんにゃことより、ギルド登録したいんですけど、どうしたらいいですか?」


 だがそんなエイルさんなど見飽きたぜ。今日はこの後に商業ギルドの登録もあるのだ。予定がつかえているから、さっさと済ませてしまいたい。特にギルドの試験なんて、既に記憶が経しいんだもの(汗)


「試験があるから、先に受けてもらうんだけどいいかしら?実技もあるし、試験は別室で行うの……隣室で副会長も同席出来ますし、心配いりませんよ。受験料は、銀貨三枚になります」


 初めは私に。途中からはエイルさんへ向け発言する受付のお姉さん。


「お姉さん、銀貨三枚です!はい、どうぞ」

「ありがとう。準備をするから、少し待っててね」

「ミオは自分で払いたがると思いましたが、案の定でしたね」

「自分たちのお金だもの!自分たちにかかる費用は出します!」

「分かりました。ただ、無理はしないこと。なにかあれば、相談して下さいね」

「はい」


 私の気持ちを尊重してくれるのは、とても嬉しい。エイルさんのこういうところは好きだな。



「ミオ様〜。お待たせしました。こちらへどうぞ!」

「はい!」


 私たちはお姉さんに案内されて一階奥まで来た。前には扉が二つ。


「この一番奥の部屋は、試験専用なの。人数が少ない時はこちらを使うわ。副会長たちはこちらの部屋へお願いします」

「分かりました。試験は一時間でしたね?」

「はい。先に筆記を三十分。早く終われば離席して実技に移っても構いませんが、一度離席すれば、筆記試験は終了です」

 そこら辺は、大体日本と一緒かしら?

「ということです、ミオ。実技が心許ないですが、落ち着いてやれば問題ありません。頑張ってください」

「はい。行ってきます」

(頑張れよ、ミオ)

(うん!)

「では、部屋に足を踏み入れた瞬間から試験開始になります。私は部屋の隅に控えておりますが、不正防止の為の試験員ですので、不明なこと以外の私語は謹んで下さい。実技の際は、部屋にある器具は全部ご使用頂けます」

「はい、分かりました」

「では、初め!」


 こうして私の異世界初の試験は、始まった。

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